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33 ネメネの獅子






「これは『ネメネの獅子』という測定方法なんだけど……」

「ネメネメのシルという方法ですのよ!」

「……」


 色々突っ込みたいことはあるわね。


 腹を抱えて、笑い声を押さえるために悶絶しているEはどうでもいいとして、

 牛の話していたのに、結局獅子かい! とツッコミたいし、

 ネメネメってそんな粘着質な試験いやだよ! とやっぱりツッコミたい。


 色々言いたいことがあると、何も言えなくなるのかと新しい発見をしながら、私はスレイマン師が持ってきた小さな板を観察する。


 黒い小さな金属片だ。一辺が20センチほど、厚さは5ミリはないと思うんだけど。

 一辺が20センチといっても、くず鉄のようなそれは切りそろえてあるわけではなくかなり歪だ。


「これは?」

 スレイマン師が渡してくれたそれを隣の友人と一緒に眺める。


「魔法金属……いや魔力無効金属ブライムで造った金属板だ」

 友人Eが反射的に呟いた。

 灰魔術師である彼の『目』が、私には何の変哲もない金属片の特性を捉えたんだろう。または鍛冶師の家系である知識。


「うん」

 とスレイマン師が何故か嬉しそうに微笑んだ。


「分類は魔法金属のひとつで合っているよ。特性は魔法金属と言っても彼の言うように魔力を通さない、魔力耐性値が高い金属だね」


 魔力耐性値というのは魔法効果に対する抵抗値のことだ。


「魔力耐性値?」

 私はその言葉に強い引っ掛かりを覚えた。


「あらそんなことも知りませんの」

 クラシックを通り越してファンキーですらある黄金巻髪のステファニアが「知らないなら教えてあげましょうか」とばかりの声色で会話に入り込んできたが、私はそれどころじゃなかった。


 魔力耐性値という単語自体は私だって知っている。

 それどころかよく知っている。

 だけど……その意味を深く考えようとすると、確実に『あの頭痛』が襲ってくるのが分かって思いとどまった。


「……で、そのブライム金属が魔力の測定とどうつながるんです?」

 自分の違和感も、ステファニアも無視して、スレイマン師に説明を促した。


「これ自体は大して希少価値もないんだ。錆びやすいから装飾品になんかは使えないし、見ての通り黒い鉄くずみたいな見た目だからね。ただ錆びても外見が変化するだけで腐食はし難い。さっきも言った魔力耐性値も高い。加工もしやすいし安い。砦なんかの軍事拠点の壁材に組み込まれたりしている。まぁ古くからどこでもとれるものではあね」


 数枚の薄いブライム金属片を私達が眺めている間に、またガラクタ山から工作器具を引っ張り出してくると、それを開けた場所に備え付け始める。


 それは少し変わった形の万力だった。

「んっっしょ」

 少し苦労しながら黒魔術師はその工作器具をテーブルにセットする。


「あ、手伝います」

 小さな灰魔術師が若干モタモタしている16歳の黒魔術師を手伝い始めた。

「ああ、危ないからいいよ」

「その子は鍛冶師の家系だから慣れてますよ」

 私の口添えにスレイマン師は、それならと小さな灰魔術師に場所を空ける。

 二人でヨイショと重量のある万力をテーブルの端に固定する。


 セットしてみると用途が分かる。

 高さをつけて物体を固定する器具(万力)だ。


 子供が描くカニの目玉のように間隔を空けてニョッキリと万力部分が伸びている。

 机にセットした下部は同じように万力で締め付けて固定していた。

 その下部から直径5センチほどのポールが伸びていて、カニの目玉である万力部分に直結している感じだ。


 目玉同士の感覚はちょうど私の手にある金属片と同じくらいの大きさ。


 それからスレイマン師は私の方に向かって手を伸ばしてきた。

 何を求めているかは自明の理なので、その手にくず鉄もとい魔法金属を乗せる。


 スレイマン師は数枚のブライム金属の板を重ねあわせて万力に全て挟んだ。

 高さは一メートルちょっと。私の視線と同じくらいの高さか。


 道具の使い方は分かったが肝心の『ネメネの獅子』とやらの概略も分からない。詳細は当然。


「さて、『ネメネの獅子』というのは魔力測定のうち、術者が持つ魔力量を測定するための方法で……ところでリシュリュー公は魔力量とはなんだと思いますか?」


 門外漢のことを問われたフィリップ様が苦笑する。

 知るわけ無いと言ったところか。


「わかりやすい実力を見たいと仰るので、魔力の放出量を試験テストしてみようと思うのです。魔力量と言っても、術者が吸収する魔素マナの量、魔力に変換できる量、体内に貯めておける魔力の量。放出する魔力の量。基本的なものだけでもこれだけありますが、見た目に派手なモノとい言えば魔力の放出量ですからね」


 そう言ってから、スレイマン師は二人の弟子の方を見る。

 ステファニアは緊張したようにピッと背筋を伸ばしたが、宰相様の弟であるジル君は相変わらず一人離れた自分の机で、自分の修行に没頭したまま目も向けない。いや、没頭してるんじゃないな。この感じは無視しているだけだ。


 師匠の言葉を無視っていいのかしら? 私には関係ないけどさ。


 スレイマン師は特段気にした様子はないが、気にしたほうがいいんじゃない? 私には関係ないけどさ。


「そうだね。魔力量というならステファニアが一番かな?」


 公爵家、しかも五大家の姫君であるステファニアを呼び捨てにしているが、どうやらここでは師弟関係の方が優先されるらしい。


 ステファニアは褒められたことに、自慢気にまだ無い胸を反らせて「モチロンですわ!」と元気に返事している。なんだか可愛いわねぇ。


「じゃあ、みんな僕のやるのを見ていてね」


 そう言うと、スレイマン師は万力に備え付けられたブライム金属と半身に相対し、万力が備え付けられている机から3メートルほど離れた。


 そして、長くて細い人差し指をツイと上に向けて胸の高さまであげる。


 ぞわり。


 悪寒が走った。






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