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行間 MOB男な灰魔術師と極彩色の花束 その1






 どうも。


 雨宿りの少年Eこと、名も無き灰魔術師カオスマスターEです。


 意味がわからないかもしれませんが、そのままの意味です。


 つまり僕は、雨宿りをしているというわけで。


 湿気ったような匂いは雨の香りかそれとも土の香りか。


 雨宿りしているというか、雨上がりの休憩で、旅の途中であるわけで。


 曇り空だけれど雨は降っているとは言えないほどで、あと少しだけれど目的地に着くまではどこであろうが旅の途中であるわけで。父さん、北国は寒いわけで……まぁ、初夏だからそれほど寒くはない。


 言ってみたかっただけだ。


 南方メリディナルを出発した僕たちは大陸最大の運河を北上し、帝都を目指して北方アスガルドの南にある街バゼルに到着したのが数日前。


 船旅はもう二度とかんべんして欲しいと思うほど、僕には合っていなかったが、それもようやくあの街でおさらばだ。其処から先は馬車に揺られての旅になった。

 馬車だって振動はかなりのものだが、船のように胃の中が空になるほど吐き続けるような事にはならなかった。もちろん小隊の荷馬車に入れられた状況は快適とは言いがたいのもまた正しいけど。


 僕らというのは、旅をしているというのは、いいや、僕らは間違いだった。

 僕は、僕たちは、彼女らの『ら』の部分に含まれる存在で、この旅の主役は彼女ら二人である。


 つまり我が主人であるナタリー様と、その親友である公爵令嬢クレオリア様。つまりお嬢様と姫様の二人のお供であるのが、僕と同い年の兄、つまり僕ら、ウォルコット兄弟というわけだ。

 お嬢様たちは帝都で実施される『学園』の入学試験を受験するために旅している。そしてそのまま『学園』に合格したら旅は終わりだ。


 僕達兄弟はお二人の受験が終わったら、そのまままた地獄の船旅をして大運河を逆戻り(今度は北東ルートだが)して自分たちの受験に向かわなければならない。

 彼女『ら』の通う帝都の『学園』が『貴族や官僚』の学校だとしたら、僕『ら』の通う学校は商売を学ぶための『商人』の学校だ。


 そんな僕らが、無関係の、逆方向の、帝都の、『学園』での、試験に付きそうのは、何もお嬢様や姫様がかしづかれることに慣れ、過保護に扱われているというわけでなく、僕らのご主人様である商人が僕達に一度この国の首都を見聞するチャンスを与えてくれたという温情によるものだ。


 僕としても帝都には色々やりたいことも、見たいこともあったので、渡りに船とばかりにこの旅に参加した。もう一度あの船に乗らなければならないのかと思うと後悔がないわけじゃないが。


 その旅もいよいよあと数日、というところでこの雨にあった。


 陸路であるから雨などはそれほど、体調管理さえしていれば困難とは言えないが、彼女らは足止めを喰らった。

 あと少しというところで思わぬ足止めだった。


 彼女ら二人と、僕ら二人は、そのため、お受験だけに仕立てられた旅団ではなく、故郷のサウスギルベナから帝都への交易隊と旅団を組み合わせている。豪商と言えど、その辺はケチくさいというのか、実利的だというのか。


 なので、雨に降られ、ぬかるみ始めた旅路に交易品を積載した馬車の車輪を捕られる前に、街に着くのを諦め、ここでキャンプしようということになったのだ。重量のある運搬馬車はいかんせん路面状況に左右される。

 雨ももう上がっているし、整備されている街道でもあるから日をまたぐくらいで連泊の必要はないだろうが。


 のんびりと休憩というわけだ。大人たちは納期や商機もあるから気が気でないだろうが、子供の世界はあいも変わらず単純にできているから、のんびりと路面が乾くのを待つ。


 帝国でも一番安全な行路がバゼルから帝都までの道程となる。


 バゼルは帝都に最も近い大都市だから、もうここまで来ると魔物や盗賊も少なくなる。

 しかもキャンプといっても屋根もない場所でするわけじゃない。


 帝都からバゼルまでに点在する『駅』と呼ばれる無料の休憩場に馬車を止めて、そこで夜を明かそうと言うわけだ。

 無料なので、人が夜に泊まりこみで管理しているわけでなく、更地の上に屋根をつけただけの場所だ。昼間はこの近くの村から行商人なんかも訪れるが、もうすぐ陽もくれそうで、雨上がりでは人の姿はなかった。


「あと、二時間ほどで、暗くなるな」

 と商隊の隊長さんが話している。


 隊長さんは僕の勤めているアーガンソン商会という商人組織にある警備部の幹部である。お嬢様が帝都に向かうということもあり、今回の旅は商隊としてはそれなりの人員を揃えていた。大きな道を通っていれば、帝都まではかなり安全なので過剰気味だが。


 馬車を『駅』の軒下に入れると、手際よく大人たちが野営の準備にかかる。

 僕ら兄弟もそれを手伝う。こうみえても商人見習いと職人見習いなんでね。立派な労働力の一部なのだ。


 僕らの仕事はお嬢様たちのお世話だ。年齢が近いことや仲がいいことも手伝ってお世話係を仰せつかっている。


 嬉しいことだね。いや、ほんと。






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