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27 ウォルコット

 





 これがこの子のこの子らしい子供らしさなんだろうけど。


 非力な子供の力といえど、静かな店内で金属棒を木製テーブルにぶつける音は煩くて堪らない。


 いい加減私が注意しようと口を開く、その直前にVヴィは手を止めた。

 それから眺め、また突然、ガン! とトドメとばかりにハンドル部品を打ち付けた。


「ん」


 満足そうにVヴィが頷く。彼にしか分からない匠の基準があるみたいだ。


 それからまた疑問を挟む間もないほど手際よく、素早く、バラバラになった部品を組み合わせて、そこにはさっきまでと外見上変わりのない『挽き肉機』の完成品が、おそらく修理完了品がデンとテーブルに置かれることになった。


 Vヴィはそして、ラウールに目をやって、『修理完了』のアイコンタクトを送る。


 ラウールが『挽き肉機』に手を伸ばして、己の主人の下にそれを持って行こうと掴んだ瞬間、六歳児の発明家は口を開く。


「どうして?」

「?」

 疑問の意味が分からず、宰相の補佐官は小さな少年を見下ろす。


「どうしてワザワザ使ってないのにバラバラにして、ハンドルを、ハンドルシャフトを曲げたの?」

 そこにあるのは純粋な疑問だけでなく、ある種の非難の声色と、怒りの眼差しを含めていた。

 普段感情を露わにすることの少ない少年にしては珍しい。


 ラウールはそれには答えず、『挽き肉機』を持って主人に渡す。

 渡された宰相様は愉しそうにクルクルと直ったハンドルを回している。


「どういうこと?」

 私がVヴィに聞いてみたが、私の声など聞こえてないようで、何度も大人たちに詰問を繰り返している。


 こうなったら周りがどう言ってもこの少年には届かないだろう。

 私は隣の弟に視線を送って、兄の意図を尋ねる。


 友人Eは「ここだけの話」でもするように小さな手を口元に添えて囁く。囁くと言っても私とナタリーはテーブルの反対側に座っているので皆に聞こえるんだけど。


「たぶん新品だって分かったのは食用の油脂が付いてなかったから、一度バラバラにしてから取っ手をワザと曲げたっていうのは曲がっている箇所と角度でわかったんじゃないかな?」


 それを聞いて私はフィリップ様の方に説明を求めるように、ただし別に非難の意は込めずに視線を向けた。


「いやぁ、ホントかなっと思ってさ。ま、気にするな」

 とだけ答えて、それ以上の興味を失ったのか、手にとった『挽き肉機』を後ろのラウールに預ける。


 つまり、だ。


 フィリップ様はこれが本当に『Vヴィが発明したものなのか』を知りたかったのだろう。だから実際に修理させた。いや、こんなレストランで突然修理を始めるなんて予想できるわけ無いから、故障の原因を答えさせるつもりだったんだ。


 兄の機嫌を直すのは、弟君に任せておくとして、だ。


 これに関しては思惑云々ではなく、この人の生来の性格の悪さによるイタズラと考えていいだろう。


 目的が好ましく無いと言っても、手段自体は非難すべきものでもない。


 この時代、成り上がるために、または商品の話題作りのために、詐欺まがいの宣伝手法というのは珍しくない。詐欺と真っ当な商売方法の境は曖昧だ。

 アーガンソン商会が『挽き肉機』なんていうニッチ過ぎる商品を売り出すために わずか六歳の少年が発明したという『ウリ』をでっち上げたと疑っても突拍子もない考えでもないのだ。


 最高権力者であるフィリップ様の立場であれば、そういう輩は嫌になるほど寄ってきているだろうから、当然といえば当然の疑問であり、警戒心でもある。しかし、実際はVヴィと自分の関係を考えれば、宰相であるフィリップ様がそんなことをする必要はまったくないから、確かめたかったのも、その方法も、つまりはこの人のねじ切り曲がった酔狂な性格のせいだってわけだけど。


 私としては自分の商品を乱暴に扱われたVヴィにも、意地の悪い宰相様にもどちらに肩入れするつもりでもないから、黙って次の話題に進むのを待っていた。


 が、その場をとりなすように、口を開いたのは意外にも先ほどまで恐縮しきりだった私の友人にしてナタリーの従者、そしてVヴィの弟であるEだった。


「あのぉ、宰相様」

 子供らしくない卑屈な態度でありながら、その声色の根底は隔絶した個としての折れない葦だ。


 そう感じるのは私が彼の性格を知っているからで、初対面の人間には大人の顔色を伺う気弱な少年にしか見えないだろうけど。

 彼の正体を知っていれば、そんなことは思えるはずもない。


 正体? いや、経歴だっけ?


 とにかくこのEもまた、ギルベナ産の天才児の一人には違いがないんだから。


「なにかな?」

 フィリップ様はまったくそんな私の友人には興味が無いらしく、おなざりな返事を返していた。


「あのぉ、代金をいただきたいのですがぁ?」

 揉み手をせんばかりの六歳児の言葉に、最高権力者の眉が歪む。しかしそれは無関心を脱したことの証でもあるけれど。


「代金?」

「ええ、さっきのが『どういう意味』があったのかはわかんないんですけど、兄が修理をしたのは事実ですよね? 僕たちは商人、職人なので、やった仕事の対価。代金というかご褒美をいただけたら嬉しいなぁなんて思ったり思わなかったり、ゴニョゴニョ」


 後半は尻すぼみになっているが、ちゃんと要求は言えたようだ。

 私は彼の言いたいことも、代金と言っておいてから、褒美と『落として』見せる辺りにやっぱりこの子も商人見習いなんだなと内心で感心していた。


「お前、名前は?」

 柔らかい口調で、しかし値踏みするような眼差しで宰相様が弟の方に初めて興味を持った目を向けた。おそらく今までいた事さえ気にもしなかった存在に違いない。


 宰相様は彼から告げられた名前を聞いて、オヤと表情を動かす。

 それから後ろのラウールに、

「姓はウォルコット? どこかで聞いたな? どこかの書類で見た名前だったが」


 え? そんなことありえる?






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