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20 妹姫の秘密 (オーランド・オヴリガン視点)1






『親愛なるオーランドお兄様へ』


 その手紙を受け取ったのは、半月以上前だった。


 つまり私の妹がその手紙を出したのは、『そのこと』があってからすぐに出したということだ。


 『念話』などの黒魔術や飛伝便と呼ばれる魔術信号郵便を使えば殆どタイムラグは無かったのだろうが、確かにこの手紙の内容ではそういった手段は使えない。


 手紙だって物理的な秘密保持の程度は変わらないが、ありふれすぎているという点が逆に秘密の隠匿には役立っている。外形的に両親と妹が送ってきた手紙にしか見えないんだから。

 いつも便りをくれる手段で知らせてくれたのは正解だといえる。


「なんと書いてありましたか?」

 六歳下の弟の、ウィーの言葉に私は表情が変わらないように意識しながら、

「うん、元気そうにやっているよ。こちらに到着するのは試験の一週間ほど前みたいだね。バゼルに着いたらまた連絡するということだ」


「クレオリア様、会えるのが楽しみだわ」

 私の恋人が、まだ見ぬ妹を想像してうっとりとしているのに微笑み返して、私は目立たぬようにそっと両親の手紙も一緒に掴んで、書斎に戻ると、鍵のかかる引出しにその二通の手紙を放り込んだ。


神人類ハイヒューマンか……」


 私は聞いたこともない言葉を反芻してみるが、皆目検討もつかない。


 両親の手紙、妹からの手紙、そのどちらにも妹がその神人類ハイヒューマンだったことが判明したという内容が書いてあった。

 ウィーの反応だと、あちらはいつもの手紙で、神人類ハイヒューマンについては書かれていないようだった。


 これは家族の重大な問題だから、ウェントアースにも知っておいてもらう必要がある。あの家を離れた妹を守れるのは私達兄弟だけなんだから。


 ただ今は話せない。ローサが遊びに来ているからだ。


 別に彼女が信頼出来ないわけではない。ただ流石に家族以外によくわからない状況で話すべきではない。いやウィーにだって話すかどうかの判断は微妙なところだ。アイツの場合は腹芸が出来ずに考えがすぐに顔に出る。だから両親や妹も私の手紙にだけ『ソレ』について書いていたのだろう。


 クレオリア・オヴリガン。


 私の、私達兄弟の、歳の離れた妹だ。私とは十三歳、ウィーとも七歳離れている。

 昔から少し変わった子だったのは確かだ。なにより変わった運命の持ち主だった。


 生まれた直後は体が弱く、無事に産院を出ることもできないのではないかと言われていた。

 たった一週間ほどで、その状態からは抜けだしたが、その後も私達家族は色々と心を配って無事に育つことを祈っていた。


 祈ってはいたのだが、果たして現在の妹の姿を願っていたかというと、どうだろうか。


「いや、望んでいなかったというのは違うな」


 私達家族にとって、特に私達オヴリガン家の男達にとって、母と妹はまさに我が家の太陽のような存在だった。そこに疑いようもなく、たとえどんな存在であろうが受け入れただろう。


 言うなれば、『予想もしなかった』といった方が正しい。


 彼女が生まれたのは私がこの帝都の『学園』中等部の特待生試験に受かった頃だった。


 その時、クレオリアは産院から誘拐されるという事件が起こった。

 事件自体は一晩で解決し、彼女も無事に返ってきた。

 原因はどうやら一緒にその産院にいた、アーガンソン商会の子供を目的とした野盗による身代金誘拐だった。


 それはいいのだが、誘拐事件から返ってきた彼女は、それまでの衰弱した様子は微塵も感じられなかった。父さんが妹の容態を心配して、奔走していた姿を見ていなかったら、信じなかっただろう。それほどの生気とオーラを身にまとった美しい赤子で、私もウィーも目を、心を奪われた。


 その後私は『学園』から『学院』に進み、書令府に勤めるようになったから、兄妹と言ってもそれほど長い期間を共に過ごせたわけではない。


 それでも学園の長期休暇の際には帰っていたし、手紙でのやりとりはずっと続けていた。


 どういう子に妹が育ったのかと、言えば。


 一言で言うなら、六歳らしくない六歳。公爵令嬢らしくない公爵令嬢。ということになろう。


 二歳のころには喋れるようになっていたし、三歳の頃には文字を書けるどころか、難しい本も読めた。

 私が帝都からお土産に渡した算術書をあっという間に解き明かしたのは三歳になっていない時だ。確かあれは『学院』の同級生が苦心して書き上げた『遺題算額書』という算術の問題集クイズブックだった。


 妹にあっと言う間に解かれたことを話すと、その同級生は、学者の道を諦めて同じお役人になってしまったが。

 今思うと申し訳ないことをした。妹も大層その算術書を褒めていたのだから、もしかしたら凄い学者になっていたかもしれない。三歳児にあっと言う間に解かれては何を言っても無駄かもしれないが。


 とにかく、妹は誘拐事件から無事に返ってきてからは、その天才児ぶりを事あるごとに見せていた。


 『ギルベナの神童』とはこの一年ほど聞こえてくるようになった噂だ。


 『流刑地ギルベナに賢しく美しき姫あり』


 ただし、とその噂には続きがある。


 『気性が激しく、乱暴者で風変わり』


 と続く。


 私達兄妹からすれば、大きなお世話だ。とは思う。

 実際には妹は性根は優しく、気配りのできるお姫様だ。ただ若干独立心が強く、自分だけでなく、他人にも努力を求め、なおかつ現実主義者であるだけで。


 兄としてはそういう妹の『本当の姿』を知っているから、別に中央でおかしな噂が立っていてもあまり気にしていなかったし、逆に好都合だと思っていた。ウィーなどは妹のそんな噂を耳にするたびに怒っていたが、私としては、「外見は良いが、貴族の女性としては不合格」という評価はそんなに悪くはないと思う。


 公爵家で、無派閥のオヴリガン家の姫で、辺境から帝都に届くほどの神童、そしてあの外見である。妹が帝都で生活するようになれば、利用する者は確実に出てくるはずだ。

 だが、オヴリガンはギルベナ地方に根を下ろして以来、300年間、中央政界とは距離を置いている『独立独歩』がモットーの家系であり、私達は『ギルベナの引篭』と揶揄される父さんの子供なのだ。


 だから、妹が『触るな危険!』な姫君と噂されていることは、中央のゴタゴタから逃れるには都合が良い。


 私達の姫は、ギルベナで、貧しくとも自由なあの土地で、思うまま暮らすのが良い。

 私の姫君に相応しい、少なくとも器となる存在など、それは現れそうにもないのだから、彼女にとっても相手にとってもそれが一番だ。






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