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18 キッチン






 オーランド・オヴリガン。


 つまりオーランドお兄様が帰宅したのは午後八時頃。田舎の感覚では結構遅いと思うんだけど、いつもはもっと遅くなるらしい。今日は事情を話して早く帰らして貰ったそうだけど、でもあのロリ○ン宰相様が真面目に仕事してたら、さらに早かったんじゃなかろうか?


 私達はそれまでに、料理を作って、オーランドお兄様の帰りを待っていた。

 一応、私の歓迎会という体だが、ローサお姉様との顔合わせと久方ぶりに兄妹三人が集うという意味もある。


 テーブルの上には、結構な量の食事が並べられている。貧しいギルベナでは見たこともない量だ。肉汁たっぷりのローストビーフに、香ばしく焼けているバケット、澄んだ色のスープ。ボールに盛られた青々としたサラダ。お兄様用のワインはワインクーラーで冷やされ汗をかいている。大皿のカルボナーラだけはオーランドお兄様が返ってきてから仕上げるので、鍋にお湯を沸かして、パスタを用意しているだけの状態だ。


 食事はウェントアースお兄様、そしてローサお姉様、終盤に私を加えた三人で一緒に作った。


 私は田舎者で、お母様のお手伝いもしているから貴族の女子と言っても料理は人並みにできる。

 それはウェントアースお兄様も同じ。それにウェントアースお兄様は中等部の騎士課程で家庭科の授業を受けた際に、料理実習もしているんだそうだ。


 騎士が家庭科? と思うかもしれないけど、戦場では料理ができたり、ホツレを直すのは重要な技術なんだって。そうはいっても、『学園』の士官科課程なんて上級騎士を育成するためのものだから形だけみたいだけど。たぶんウェントアースお兄様のことだからそういう科目も全力で取り組んでいるに違いない。


 意外だったのは、ローサお姉様が料理ができることだ。


 子爵家の令嬢で、あの自由都市同盟フリスタッドで行政官をしている貴族。つまりお金持ちである彼女が料理をできるのは嫌味じゃなくかなり意外である。普通しないよ? だってお姉様は学園と学院の学費が払える一般入試生なんだから。そうとう上位のお金持ちだったはずだ。それこそ自分で着替えができなかったとしても不思議じゃない。


 聞いてみると、家庭の事情とかではなく、単純に趣味なんだって。

 でももっと根掘り葉掘り聞いていみると、料理を始めたのはここ一年ほど。それも真っ赤な顔をして「まだまだなんだけど」と仰っていた。


 ……来る気ですね? サウスギルベナに。

 何のためにというのは、それこそ愚問である。オーランドお兄様は長男だしね。


 オーランドお兄様は並べられた料理を見て、

「すごい御馳走だね」

 と、変わらない柔らかな笑顔。それから私の方を見て「ようこそ帝都に、クレオリア」とまた微笑んでくれた。


 きっちり体型に合わせて作られた細身の紺の官服。スタイルが良くないと着る勇気がでないような円筒形ローブを当然着こなしている。普段は襟まで止めているのだろうが、就業後ということもあり首元のホックを外しているのが、人仕事終えた後の大人の男性って感じで良い。


「お兄様!」

 私は迷わずその大きな胸に飛び込んだ。


「うわ! どうしたんだい? クレオリア」

 その行動が意外だったのかオーランドお兄様はちょっと戸惑いながらも、しっかりと受け止めて頭を撫でてくれた。


 そう言えば、私ってあんまり、兄妹間でベタベタする方じゃなかったっけ?

 ま、気持ちいいからいいや、と私は笑ってお兄様を見上げる。


 オーランドお兄様は、赤毛のウェントアースお兄様と違い、短く刈った金髪に涼しい碧眼の白人。つまり私と同じなんだけど、顔の作りはあんまり似ていない。お兄様と似ているのはお父様だ。優しい雰囲気もお父様に似ている。体型はもちろんメタボってないし、身長も我が家では今のところ一番高くて180センチ弱ある。瞳もお父様より若干鋭い。とはいえ宰相様みたいな鋭さではない。お父様より目つきの鋭くない人も見たこと無いし。


 ウェントアースお兄様の方はお母様似なんだよね。昔帝都の社交界の華と謳われていたらしいお母様と似ている細マッチョなんだから当然イケてるメンズなんだけど、あんまり女顔って感じもしない。オーランドお兄様は高身長の割に、雰囲気が柔らかい、いい匂いのする感じだ。ウェントアースお兄様が汗臭いと言ってるわけじゃないけど。


「お兄様お久しぶりです!」

「うん、長旅大変だったね? 初めての旅はどうだった?」

「楽しかったです! ナタリーや他のみんなとももっともっと仲良くなりました」

「ふふ、それは良かった」


「おい、クレオリア。兄さんは帰ってきたばかりなんだから」

「そうね、オーランド着替えてきて。その間にパスタを仕上げておくわ。食事をしながらゆっくり話しましょうよ」


 ローサお姉様の言葉に、ちょっと残念だけど、それもそうだと私はオーランドお兄様の胸元から降りた。


 ふと見ると、何故かウェントアースお兄様が両手を広げていた。


「なんですか?」

 と素直に尋ねると、ウェントアースお兄様は

「俺は再会のハグをして貰ってない!」

 とおかしな事を仰るので、


「変な髪型だから嫌です」

 と返しておいた。うふふ、ショックを受けているお兄様は可愛いわ。


「アレって実はクレオリアにカッコイイところを見せたいからって半年前から伸ばしてたんだよ」

 とオーランドお兄様が教えてくれた。


「兄さん!?」

 暴露されたウェントアースお兄様がギョッとしているが、半年前からって相変わらず実行力だけはあるお兄様だわ。


「ほらほら、じゃあ、ウィーはパスタを茹でてきて。それから、はい」

 ローサお姉様がウェントアースお兄様をキッチンの方に追い払うと、同じように両手を私の方に広げてみせた。


「はい?」

「はい」

 とお姉様は両手を改めて広げて、さあという風に私を促す。


 何を促されているのかわからないのが問題だが。


「はいっ」

「はい?」








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