17 兄二人
まぁ、気持ちはわかんでもないわ。
オーランドお兄様って妹の私から見ても一番いい男だもん。
外見は勿論『あの』お母様の血を引いているし、お父様みたいにぽっちゃりしていないし。
それを言えばウェントアースお兄様の方がお母様と外見は似てるんだけど、こちらはなんというか大人の男性としての落ち着きっていうの? そういうのが足りないな。どうしても年下な感じになるんだよね。
それに比べてオーランドお兄様の方は落ち着いているし、優しいし、けれど頼りがいもあるし、懐も深い。
経歴は帝国最高学府である学園から学院、そして(あの)書令府の若手官僚になったていうどこからどう考えてもスーパーエキスプレスなレールの上を走っているんだもんね。
さすが、我がお兄様です。
あ、別にウェントアースお兄様が魅力で劣っているというわけではないのよ?
こっちのお兄様だって学園中等部の特待生試験に受かっているんだし、希望通り士官科に受かれば、将来は将軍職だって夢じゃない。家柄だって当然公爵家なんだしさ。おまけに家督の心配が薄い次男坊なら中央で出世もし易いし。もちろん公爵家っていっても『異端』のオヴリガン家なんだけど。
とは言え、やっぱりウェントアースお兄様の魅力は『可愛らしさ』にあって、
オーランドお兄様の魅力は『カッコ良さ』にある。
どちらも外見的なことじゃない。
私はどちらかというと、可愛いほうが好きだけど、オーランドお兄様に限っては別格よ。
「女性の方から想いを口にするなんて、はしたないことだとわかってるんだけど……どうしても想いを直接伝えたくて!」
……あ、なんだまだ続いてたの?
貴族淑女の嗜みとしては、いくらこちらが惚れていても、殿方にから告白させるのだ、とかあるのかもね。あいにく私は『流刑地』の田舎者だから過分にして知らないけどね。
ただ、そういったことを割引いても多分この人がかなり育ちが良くて純情なんだろう。
まさか、貴族の肉食系淑女たちがそんなまだるっこしいマナーを守ってるとも思えないし。
美人のうえ可愛らしいし、清純派の上、高学歴。いい人なんだと、認めざるをえない。それに勉強の成績じゃない方の頭もいい感じだ。教養や嗜みも若いなりにありそうな所作をしている。かといって硬い感じもしないが、分際というのをちゃんと卑屈にならずに弁えているらしい。
さきほどまでの私に対する態度から、いくら恋人の妹、しかもまだ幼いとあっても公爵家と子爵家という立場を忘れていない。最後の方は恥ずかしさからか、おかしな態度になっていたけど。それを踏まえた上で、妹である私に仲良くしたいという好意もちゃんと示してくれている。
はぁ、さすがオーランドお兄様だ。恋人選びまで如才ない。
お兄様って一事が万事、『そう』なのよね。
弟に爪の垢でも煎じて飲ませてあげたいわ。変な髪形の戒めもこめて。
隣で切なそうな表情でロザリンダを見つめているウェントアースお兄様の二の腕を肘で軽くつっつきながら思った。
なんだよ? という顔で見返してくるが、自分の表情に気がついていないのかしら。
いくらなんでも、自分の兄の恋人をそんな顔で見つめちゃダメでしょう。
というか、相変わらずウェントアースお兄様も『そう』なのね。
帝都という大都会生活を経ても、本質が変わっていないらしいお兄様達のことはとりあえずとして。
「ロザリンダ様」
と顔を隠している兄の恋人に呼びかける。
「はい?」
真っ赤な顔を起こしたロザリンダは私の表情から少し改まったものを感じたらしい。自身も襟元と姿勢を直して椅子に座り直す。
はぁ、しょうがない。
「お話はわかりました。これからは私のことはクレオリアと呼んでください。私もよろしければローサお姉様とお呼びしますから」
ロザリンダ、つまりローサお姉様は少し私の言葉を考えているようだったが、飲み込めたのかすぐにパッと顔を輝かせた。
「ええ、そう呼んでもらえたらとても嬉しいです、クレオリア様!」
「ああ、いえ」
「?」
「もっと砕けた口調で話してください。ウェントアースお兄様のこともよく知っているんでしょう?」
「ローサ先輩は初等部の時からお世話になっているんだ」
「お世話というほどでもないけれど、ウィーとは生徒自治会なんかで一緒になることが多かったから」
「ふーん、機会が多かった、ね」
チラリとウェントアースお兄様を見る。
機会を多くしたの間違いじゃないの?
「いや、本当にお世話になったんだ」
と私の視線の意味に気がつかずに頓珍漢なことを仰っている。
ま、いいや。
「じゃあ、お兄様達に接しているのと同じように私にも接してください」
ローサお姉様はその言葉に「いいの?」という風な顔をしていたので、
「私も姉が出来たつもりで、お兄様たちと接するようにローサお姉様とお話したいですから」
「ありがとう!」
と顔を綻ばせる。
「私会えることを本当に楽しみにしていたの」
胸の前で両手を握りながらうっとりとした顔で私を見てくる。
「想像していたよりずっと綺麗だわ!」
「はは……お姉様も思ったよりずっと可愛らしいですよ」
「ありがとう。……く、クレオリア」
「はい?」
「うふ、クレオリア」
「はい?」
ローザお姉様は人の名前を呼んだだけでそれ以上なにも言わずに、なんだか目を閉じて顔を上に上げている。それと小刻みに震えてる。なんだこれ。
「私、本当に妹が欲しかったの! でもちょっと心配だったわ。ご兄妹三人共とても仲がいいって聞いていたから、私を受け入れてくれるかしらって」
わかりましたから、ちょっと落ち着いてくださいよ。
「オーランドお兄様の選んだ方なら、間違いはないですもの」
いうなればしかたないじゃない、ってことだ。
これがウェントアースお兄様の場合だったらダメなところを無理矢理でも発見して嫌味の一つもいいたいところだけれど、オーランドお兄様の場合、いままで選択肢で間違ったのをほぼほぼ見たことがない。
ウェントアースお兄様は行動力がある割には、おかしな暴走をするから心配なんだけど。変な髪型にしたり、ね。
それに、こんな出会いかた、つまり『あの』オーランドお兄様の恋人なんて自己紹介がなければ、ローサお姉様の『可愛らしさ』はまさに私の大好きなナタリーにも通じる『可愛らしさ』なんだもん。
はぁ、でもそうか。お兄様に恋人か……。
ま、別に? 分かっていたんですよ。あんな『完璧』なお兄様にずっと恋人ができないわけないって。
職業偶像じゃないんだから、オナラもすれば恋もするでしょうよ。
それにどんなにお兄様がかっこよくても所詮は『お兄様はお兄様』だ。
道ならぬ道という手もないではないが、そんな周りも不幸になるような選択肢なんて私はとらないし、オーランドお兄様の方はなおさらだろう。
そもそも、私はお兄様と恋人同士になりたいわけでもない。これは確実にそう言える。
べつに意地張っているわけじゃなくてよ?
でも、なんていうかさぁ、ないですか? お兄さんお姉さん方。
別に実際問題として付き合う気もないし、可能性もない、場合によっては好みでもない相手なんだけど、自分の身の回りにいるフリーな異性が『売れちゃった』時の喪失感。
なんなんでしょうね、この溜息出る感じは。




