16 ロザリンダ・シプカ
この国、帝国の貴族社会は当然ながら貴族の位という階級が爵位として存在する。
皇帝陛下を頂点とするピラミッド組織だ。
爵位は公、侯、伯、子、男と、古来より一般的な貴族分け。
ここに帝国の場合は王と准男爵が加わる。ただし、これはあくまで臨時位だ。
王は正確には爵位ではなく、軍事的目的で最大行政区画である地方以上の範囲を治める必要があるために特権が認められているという位だし、准男爵はその才能を貴族の血に取り入れるための一代貴族である。
元々貴族は血筋の正当性を表す程度のものだと私は思う。
だからウチのように最高位の公爵家であっても何百年も貧乏って家もある。
身分の格差が大きい帝国でも、爵位と領地範囲は直結しないことだってある。
ロザリンダ・シプカ。
シプカ子爵家の長女。十六歳。
十六歳!? なんでそんな人が十九歳のあのオーランドお兄様と付き合っているんだ!
という疑問はさておき。さておけないが、さておき。
生家は南方にある地方であるドリッチ地方。その中の都市、セオザヒにあるらしい。
セオザヒがどの辺りにあるか知らなくても、商業都市群である自由都市同盟のひとつと言えば、この国の殆どの人は、「ああ、なるほど。自由都市の一つですか」というくらいには有名なところである。
自由都市は近年大陸間貿易によって発展著しい帝国南東部一帯の都市群を指す。同盟と言っているが、同じような商業習慣を適用している都市のことをそう呼んでいるんだってよ。私は貴族なので商人のことは詳しく分からないが、ナタリーたちならより詳しいことも知っているかもしれない。従者のVとEの留学先がこの自由都市というわけだ。
シプカ子爵家に領地はない。
彼女の家はセオザヒの官職を代々担っているらしい。
帝国では領地は当然のことながら全て皇帝陛下のもの。
それを部下である公爵家以下、その他もろもろに運営を任せているという体だ。
もちろん、あくまで体だけどね。
領地が管されるのは公爵、侯爵、伯爵までだ。ウチもそうだが、結構広範囲の領地を治めている。
それ以下の子爵、男爵はその領地の中をさらに区分けして領主として収めていたり、行政組織の担い手としての役割を持ったりしていた。准男爵は一代という性質上領主となることはほとんどなく、その優れた才能と名声を組織運営に役立てるというのがこの国の統治機構だ。
貴族の派閥なんかも、この領地の区分けを基本として成り立っている。
地方以上の領地を治めているのが二人の王。
そのための特別位『王』である。
西方の『黒獅子』、陰では豚野郎となかなか両極端な二つ名(と悪口)の西太王ガルバン様は侯爵家。
童話の題材にもなっている現代最高の英雄、『四天のビスマルク』、『竜騎士ビスマルク』と言われるビスマルク大将軍の領地は東方でこちらは公爵家。
つまり特例的な独立裁量権を認められている王と言っても、実質的には公爵家と侯爵家で他の統治機構と変わらないというわけ。
「私は学園の政経科で行政運営を学んでいるんです。オーランド様とはその縁もあって」
柔らかな顔立ちに少しだけハニカミを浮かべて餃子女、じゃないや、ロザリンダはオーランドお兄様との馴れ初めを教えてくれた。
立ち話もなんなので、リビングに行くと私とウェントアースお兄様が三人がけのソファに、彼女が椅子を運んできて対面に座っている。
部屋はリビングの他にも、簡単なキッチン、浴場、寝室の他にも、書斎やドレスルームなんかもあるらしい。さすが高級官僚の独身官舎。単身者用としてはかなりの広さだった。
「でも年齢は離れていますよね。接点は?」
とりあえず、今は部屋のことより、彼女のことだ。
半ば諦めに似た感情を面には出さずに更に尋ねた。
オーランドお兄様は十九歳、つまり四年ほど前に学院を卒業している。
現在十六歳だと、中等部(学園)、高等部(学院)がそれぞれ二年ということを考えるとあまり出会う二人ではないような気もする。
「面識自体は以前からあったの。オーランド様が中等部の特待生試験に受かって学園に来たのと、私が学園初等部に転入したのが同じ時期だったから。それに同じ南方出身ということもあったから良くしていただいたんです」
同じ南方って、自由都市とサウスギルベナじゃそれ以外はまったく共通点なんてないじゃない。
「それで、付き合うきっかけというのは?」
「クレオリア! 立ち入りすぎだ」
と、ウェントアースお兄様は言うが、
「なに言っているんですか、お互い家のこともあるんだから聞いておかなければ」
と詭弁で彼女を促す。
「きっかけ? え、その、あのー……」
急に真っ赤になり、うろたえ始めた。それはもう白い肌が赤い肌と言っていいほど真っ赤になっている。
「い、依然からお慕いしていたのだけど、き、去年私が成人した時に、そ、そ、その……」
おいおい、なにしたのよ。そんなに真っ赤になるようなドキツイ真似をあのオーランドお兄様が?
まさか!
「グ、十二月夜会の時に、私から、ああ、ええっと」
「告白したと」
自分でもびっくりするくらい冷たい声で、彼女の言いたいらしいことを翻訳する。
ロザリンダは耐え切れなくなったのかワッと両手で顔を隠して太ももに顔を伏せた。
顔を隠しても耳も手も真っ赤なんだけど。
なんだ、なにがあったのかと思ったが、自分から告白しただけか。




