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14 社宅






 ま、まったく。何を考えてるのかしら、あのロ○コン宰相は!


 最後に私を降ろした馬車が去っていくのを背後にしながら、ブリブリと地面を睨んだ。


 だいたいその理由が、

「そうすれば、君が結婚できるようになるあと10年は、私は独身でいられるだろ?」

 とかぬかしやがられましたのだ。


 変態宰相フィリップ様のとんだ光源氏計画を打ち明けられた私は内壁街官舎区にある建物の敷地前にいた。


 時は薄い闇が街を覆い、夕日の代わりに街灯のオレンジの光が建物の壁面を照らしている頃。

 私の気持ちは相反して真っ赤に焼けた鉄のようであった。


 乙女なめんな!


 フー! と猫が威嚇する時のように荒い鼻息をしていたら、

「どうしました?」

 門兵のお兄さんが怪訝に思って声をかけてきた。


 身元確認はすでに馬車の御者が済ませてくれているので、対応も丁寧だ。

 お兄様の部屋の位置も教えてもらっていた。


「いえ、なんでもありません」

 変態宰相のことをいつまでもここで悩んでいるわけにもいかない。

 まだ腹の虫は収まらないが、旅行鞄ホースレザーバッグを肩に担いで門の内側にはいる。


 ここは私の一番上の兄。書令府に勤めている(つまり『あの』宰相フィリップ様の直属機関)オーランドお兄様の住んでいる官舎だ。


 2階建てかな。


 お兄様がいくら高級官僚だといっても、内壁街に住居を構えられるほどお給料は貰っていない。

 まだ4年目の若手ということを省いても、ここでマイホームを自力で持てるような人はこの帝国でも極々一部の人。もちろん借家でも同じだ。


 お兄様がここに住めているのはこの官庁街の役人用住宅だけは無料になっているため。

 官僚たちは何か緊急事態があれば官庁にすぐさま飛んでいかなければならないことと、有事に備えて大門の内側にいる必要が有るためだ。


 そういったわけで、基本的に屋根や枠組みなんかは白いんだけど、それもクリーム色に近い。壁なんかは赤いレンガの建物である。こういうのは持ち家の貴族たちとの差別化のためなんだろうな。一応景観のために白も使っているのだろうが、紅白の建物はなんだか変な感じだ。まっしろなお家も清掃が大変だろうけど。


 中庭は砂利道がエントランスまで続いている。両脇には丈の短い植え込みがあって、その向こうには芝生が見えた。さすが帝都、きれいな芝生で天気のいい日にはお昼寝したら気持ちいいかもしれないけど、人目につく通りに面しているからそういう目的のものではないのかな。


 芝生と砂利道の広さ、パッと見の住宅の大きさを見ると、建ぺい率は50%といったところか。

 建物自体はそれなりに大きいが部屋数は少ないらしいから随分ゆったりとした印象がある。

 裏庭があるかもしれないし、建物の中の奥行きがどうなっているかはわからないけどね。


 一階のエントランス部分には灯が煌々と点いている。ここから見える他の一階部分には窓がない。二階には大きな窓ガラスとカーテンが見えるが、真っ暗だ。ただ、二階からみえる薄暗い窓の大きさとカーテンの色合いをみると住居用ではないようだ。


 初めて入る場所に対して、自然と観察しながらも、歩みを進める。


 官僚用の住宅だから、まだこの時間は返ってきていないのかしら?

 そうなるとお兄様はまだ帰ってないかもしれない。


 正面玄関から入ると、開けたエントランスがあり、螺旋階段が正面左右に二階へと続いている。

 玄関脇に簡易な見取り図を記したプレートが見えた。


 何の気なしに見ると、一階の部屋数は8。そのうち一つは倉庫。それに管理人用の部屋。計9。

 管理人用の部屋は他と比べて明らかに狭く、このエントランスのすぐ側にある。窓はあるがカーテンは閉められているし、灯も漏れていない。


 二階は会議用のホールや用具室みたいだ。食事施設みたいなものや、浴場もない。各部屋に付いているのかしら? そうだとするとかなりいい住宅だ。


 部屋番号は見取り図に記されていない。


 しょうが無いのでそのまま鞄を抱えて、部屋の並ぶ廊下を左右に見る。

 廊下には左右それぞれ四部屋ずつ。

 とりあえず正面向かって右の廊下にちょっと入る。そこにある部屋の部屋番号のプレートを見る。


 104。


 こっちで正解ぽいな。

 

 103があって……102。


 うん。ここだ。


 無駄な距離を移動することがなかった事に喜びを感じながら、私は旅行鞄ホースレザーバッグを降ろしてから、身なりを整える。


 ひとつ深呼吸してから、扉をノックした。


「はぁーい」


 なっ!?


 若い女性の声がした。

 一瞬間違えたかと思って部屋番号を確かめる。


 102。


 間違いない。教えてくれた門兵さんが間違っていない限りは。


 そうだ。彼が間違えたに違いない。

 まったく、八人しか入居してないんだから部屋番号くらいしっかり覚えておきなさいよ。


 自分でも無理がある怒りを思い浮かべたが、やっぱり無理だった。


「あ! ちょっとまってね。すぐに開けるわ」

 扉の覗き穴で私を確認したのだろう。慌てたように鍵を外している音がする。

 どうやら部屋を間違っているということもないようだ。


 暫く会わない内にお兄様がお姉様になっていた。んなわけない。

 ああやだ! 嫌な予感がビシビシしてる。


 すぐに扉から女性が現れた。


 白に近い金の髪。貴族の女性らしく腰まであるストレートの髪。

 柔らかい目元は下り目の柳眉。

 色は白いが、どこかエキゾチックな感じもする。


 年の頃は16,7。つまりこの国ではもう成人。女性と言える年齢だ。

 落ち着いた雰囲気だからそう感じるのであって、顔立ちだけだともしかしたらもっと若いかも。


 まぁ、美人かな。お兄様がお姉様でもやっぱりなかった。

 けれど、そんなことより


「誰!?」






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