09 条件
「勝負の条件は?」
「もちろん剣術。魔法はだめだよ。あくまで剣だけだ。怪我するとことだからね」
「だから! オレは……」
なんかノイズが入り込んでいるが、無視して訪ね続ける。
「怪我させては駄目なのですか?」
「特別に鼻血くらいまではオッケイにしてあげよう。君と違ってジークは国にとって大事な存在だからね」
「うーん、ボコボコにしないで実力差を見せる、か」
「もし本当に君がさっきの子たちと同程度の実力ならそれぐらいはできるだろう」
なんとなくだが、フィリップ様の性格がわかってきた。人を怒らせて性根を見るタイプの人間。またはそんな意図がなくとも人を困らせようとするタイプだ。
ただ、私に関してはそんな嫌味をどうと思うわけでもない。どちらかと言えば『条件付け』の時みたいな言葉のほうが私を動かす。
とは言え、怪我をさせずに実力を分からせるか……。
使うのは木剣だしねぇ。
うむむと悩む私に、フィリップ様が探るような言葉を投げかけてくる。
「なんだ、できないのかい」
「いえ」
と私は正直に答えた。
「どうやったら精神的にポッキリとへし折ることができるのかと思いまして」
「条件は実力を見せることだよ?」
「これは私の趣味です」
その言葉に先ほどまでの鋭い視線はどこへやら腹を抱えて爆笑し始めた。
「ハハハ! いいよ、ぜひそれこそ願ったり叶ったりだ」
そして視線をテオドールさんに向ける。
無言の指示を読み取って抱え上げていたジークフリートを解放する。
自由になったはずの少年は戸惑ったように、宰相と騎士とを見る。
最後は私で止まった。
赤髪の少年は先程までの威勢は消え失せている。
「オレやだって、こ、こんな女相手にさぁ」
ふむ。騎士道精神か? 歪んでいるけど。
私はいつまでもウジウジとしているお坊ちゃんを一瞥し、フィリップ様の方に向かって両手を広げてみせる。
相手がこれじゃあ、勝負にならない。
弱い者いじめは趣味じゃない。とはいえやる気があったからってソレが変わるかな?
「ジーク。ジーク、ジーク、ジィク」
呆れたように、または、うんざりしたように、銀の宰相は溜息を吐いた。
「彼女はさっきまでの子どもたちと違って、お前と真剣勝負をしてくれるんだよ。あんなお遊びは止めて思う存分彼女と剣を交わすといい」
フィリップ様の言葉にジークフリートが手振りを交えて抗議する。
「何言ってんだよ、フィル兄! オレはちゃんとアイツラに勝ったんだ! 見てただろうテオドール!」
突然振られた言葉に、テオドールさんは苦笑いを浮かべていたが、是と答えることはなかった。
「手を抜かれてたことも気が付かないとはね」
私の侮蔑に怒りのこもった目と怒声が向けられる。
「うるさいうるさい! お前なんかに何がわかる!」
「ガキっぽいわね。ってああそう言えばガキか」
私は分かった分かったと、うんうんと頷く。
「じゃあ、私に勝てたらさっきの勝利が正々堂々とした勝負だったって認めてあげるわ。ねぇフィリップ様」
「ふふん。いいよ。私もテオもそうだと認めよう。ではさっさと始めよう、私も暇じゃないんだ」
暇は作るものだって言ってませんでしたっけ?
「では、私が審判を努めます」
「審判なんていらないでしょう?」
「そうだ! テオドール! 引っ込んでろ。コイツに目に物をみせてやる」
私達二人の言葉をテオドールさんは優しく微笑んで答える。
「お二人が大怪我をしないようにいき過ぎと判断すれば止めさせて頂きます」
「ま、そうだね」
フィリップ様がそう言えば反対できる者などいない。
「ではジーク。彼女にも剣を」
「受け取れよ!」
そう言って投げ渡された木剣を空中でキャッチする。
しかし、この子はずっとカリカリきてるわね。カルシウム足りないんじゃないの?
私は受け取った木剣を重心を図るように刃に当たる部分を人差し指にのせクルクルと回す。
子供用の訓練木剣だ。軽木で作ってあり、直撃してもそう痛いわけではない。おそらく私が全力でジークフリートの頭をこれでぶっ叩いても、木剣の方が粉々になるだろう。
ほとんど玩具の類だ。
これでいくら打ち据えたからって、この目の曇った子を覚ますことはできそうにない。
「さあ、構えろ!」
やる気満々なジークフリートくんは放っておいて、私はフィリップ様の方を見た。
「ちょっと待って」
その言葉に嫌そうな顔をしたのはフィリップ様だった。興をそがれたとでも言うように。
「これいじょうゴチャゴチャと言う必要はないだろう」
もちろん私だって言うつもりはない。いつだって乙女は行動で結果を出す。
私は黙って木剣をテオドールさんに向かって放る。
「さあ、これで準備完了」
「?」
「どういうことかな?」
意図がわからないという宰相様には、私はウフフと微笑みを返した。
「もちろん。素手で結構という意味ですけど、なにか?」




