07 世間話
「ビスマルク家と何か縁があるのかな?」
「?」
私はさすがに意味が分からず彼の顔を眺める。
「ビスマルク家ってあの『竜騎士ビスマルク』のビスマルク公爵家ですよね? 私だって童話くらい読んだことありますから」
ビスマルク家というのは、ビスマルク姓と言っても数多くいるが、何も付けずにビスマルク家という場合は、東方の大貴族、ビスマルク家のことを指すだろう。
異民族との争いが絶えない東方において、二百年以上東方軍を統括指揮する立場にある公爵家だ。皇帝になれる大家ではないが、この国の軍事力の一角を担う家で、現当主は『四天のビスマルク』と呼ばれ、童話にもなっている現代最高の英雄である。『竜騎士ビスマルク』はその有名な童話の題名だ。
私が素直にそう言うと、フィリップ様(仮)はすぐにまた笑みを貼り付けた顔に戻った。
「ああ、そうだね。ま、それはそうか」
? 切れ者の考えていることはわからないわね。
でもビスマルク家の名前を聞いたのって童話が初めてだっけ、随分前に耳にしたような気もするけど、ま、いいわ。
「で、他には」
「他にジークフリート様について気がついたことですか? あとは剣の腕前くらいでしょうか」
「そう言えば君は剣も嗜むんだったね」
「我流ですけど」
「で君から見てどうだい」
「六歳なら素晴らしい腕前じゃないですかねぇ」
「何か引っかかる物言いだね。いいよ素直に言ってみたまえ」
素直にって宰相様(仮)が言うなら、私は言っちゃうよ?
「確かに『お上手』ですけど、実戦を想定してないお遊戯ですね」
「これはまた手厳しいね。私は見ての通り剣術の素養はないからわからないが、あの子は剣道場なんかではそれなりの実力だそうだよ」
「ええ、ですから『お上手です』と」
「それは相手の子供が手を抜いていたからかい? さすがにあの子たちは特別だ。なにせほとんど剣の才能だけで『学園』の初等部や中等部に入学しようって子たちだからね」
「ええ。私もだから実戦を想定していないと言ったんです。型通りには上手く剣を振れる程度にはお上手ですから相手も上手く負けてあげられたんでしょう。でも剣術の本質は殺傷です。すくなくとも長剣と呼ばれるものはそういうものですから。そういう意味ではあれじゃお遊びでしょう。もちろんご身分を考えればそれでいいんでしょうけどね」
「これは怖い。まるで人を斬ったことがあるような言い草だね」
「無いとは言ってませんけど?」
そこまで言って、私は頭がズキリとするのを感じて思わず手で額を抑えた。
「? 大丈夫かい」
私の様子に、フィリップ様(仮)が顔色を覗きこんでくる。
頭痛は一瞬で治まった。
「いえ、もう大丈夫です。とはいえ私も本当は実戦経験なんてありませんけどね」
「ふうん。長旅で疲れたのかな? そう言えば君は剣道場と魔導塾の手配もするらしいね」
「はい。試験とは関係ないですけど」
学園初等部特待生試験の試験科目はどうなっているかというと。
まず公表どころか、公式に認めてもいないが、特待生試験には『足切り』が存在する。受験推薦状を元にした書類選考がそれだ。これは身上調査とは別である。
推薦状は有力貴族が中央の上級官僚に発行を依頼するものであるが、その発行を依頼した貴族の政界での地位によって事実上『ゲタ』が履かされる。こう言うとなにやら腐敗しているように聞こえるが、学園と学院が帝国政府の『部品』を集めるためのものである以上、有力な後盾を見つけてくることも重要な才能とみなしているのだろう。
お兄さま達二人は、初等部の時は今ひとつその発行依頼をしてくれた貴族の力が弱かったので落ちてしまったようだ。
その点私は心配ない。なんせ五大家であるリシュリュー公爵家が発行依頼して、現宰相が発行するという『最強』の推薦状である。
これ以上となると、もう皇帝陛下が発行命令を下すしかないだろう。そんなことはありえないのだが、そんなことをいったら、いくら役人の一人だといっても現役宰相が出す推薦状もありえないのだそうだ。
そう言えば、そのあたりのことも訊かないとね。でもこんなとこで訊く話でもないか。
とにかく、まずはその推薦状によって事実上の『足切り』がある。
もちろん試験自体は受けることはできるから、『足切り』を撤回させるチャンスはあるだろう。ただそれにはとんでもない実力差を示す必要がある。それこそ特待生の中でも10年に一人とかそういう才能が必要だ。誰か受かれば、誰かが落ちる。この場合には自分より格上の推薦状を持つ受験生を蹴落とす必要があるんだから。
次に面接だ。面接は特待生試験受験者だけでなく一般入試受験者でも受けなければいけない、つまり全受験生が受ける科目なのだが、よほどの異常者でもなければこれで落とされることもないのだそうだ。よほどの異常者でも家柄さえよければ受かるらしいけど。困ったもんです。
残りの教科はいよいよ本格的に能力を計る試験。
算術、国語、特筆の三科目。
この三つの中からどれか一つだけで受験してもいいし、逆に全部受験して総合力でアピールするのも受験生の自由だ。
この中の特筆は自己アピール試験、または一芸入試。つまり自分の得意なことを発表する試験だ。特に何と指定されているわけでもなく、たまに芸術的な才能をアピールする受験生もいるが大半は剣術か魔術を披露する。
私は特待生試験を国語と算術で受ける。
特筆試験、つまり剣術や魔法技術を披露する一芸試験は受けないつもりである。
さっき見た五度の手合わせで受験者達の腕前を見た限りでは私も剣術だけの一発試験で行ける気がするが、国語と算術なら確実に満点を取る自信があるのでそちらを選んだ。お兄様達も特筆以外の二科目受験だったので試験対策はそれを軸にしていたし、剣術での受験生たちの実力を見たのは今が初めてだったからどの程度の難易度があるのか分からなかったからしょうがない。
「兄からみんな学校の授業だけでなく、市井の私塾にも通うと聞いたものですから」
とにかく、私が剣道場と魔導塾に通うのは、そんなわけで、私的な目的のためだ。
「そこまでするのはよっぽどだけどね。将来騎士団に入りたいとか、宮廷魔術師になりたいとか」
「そうですか。私の場合は自分を高めたいだけ……だとおもいますけど?」
「よくわかってないのかい? 六歳ならそんなものかな将来なんて」
「でもそれなら丁度いいかな」とフィリップ様(仮)が一旦話を打ち切る。
『面接』の結果はいかにと思っていたら、フィリップ様(仮)は手を挙げる。
「?」
「おーい! ジーク!!」
フィリップ様(仮)は赤髪の少年の方に手を振って呼び始めた。
げ! やめてよ面倒くさい。




