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別物語 強化魔術






 同じ田舎者であるはずの二人の公爵令嬢。


 ヴィクトリアからすれば、ユーニアのおっとりしているが、突飛な行動をする気質は心配の種なんだろう。私と比較するのは大分ズレている気もするけれど。

 彼女には生活指導監督の役割もあるようだし、致し方ないんだろうな。


 そんなヴィクトリアの内面に気づくことはあっても配慮することも当然ないので、公爵令嬢たる私は完璧な公用語の発音で口を開いた。


「乙女の秘密として詳しいことは言えないけれど、まぁ、そんなところね。けれど、まだまだ貴女みたいに副作用なく付与魔術エンチャントは使えないわ」


「副作用、ですか?」


 ヴィクトリアは引っかかりを覚えて、ユーニアからこちらに意識を戻す。


 おそらくヴィクトリアは私の使った風属性の魔術は、技術的なものというよりも、生来の『才能』または『天恵』や『恩恵』といった特殊能力のせいだと予測しているだろう。

 オヴリガン公爵家の出自にまで考えが及べば、確信に至ったかもしれないが、そこまでの知識があると考えるのはちょっと苦しい。それより戦士としての感の良さでとりあえずの正解にたどり着いたみたいだ。


 あんまりツッコまれても都合が悪いので、私は先に口を開いた。


「そう副作用」

 私は肩を回すゼスチャーをしながら、

「身体強化系の付与エンチャント、そういう場合は強化魔術ブーステッドマジックっていうんだっけ? 使うと数日動きたくなくなるほど疲れが来るのよね」

 と説明すると、ヴィクトリアが納得したように頷いた。


「ああ、強化魔術の話でしたか。それなら副作用というより、反動みたいなものはそれほど珍しいことはありません。原因は大抵は強制的に身体能力を上げたこと、言ってみれば筋肉痛のようなものと同じだと思います。どんな強化魔術ブーステッドかはお聞きしませんが、御年齢を考えれば、あまりご使用になるのは止めておいたほうがいいと思います」


 そして、ともかく、一般的な付与魔術エンチャントであれば副作用などないはずだ、とのことだ。灰魔術師や闇魔術師たちの得意とする呪術系の付与エンチャントなら別だが、四大元素のそれで副作用など、自身の経験をあわせても聞いたことのない話だとも。


「あるとすればそれこそ『天恵』や『恩恵』といった特殊能力の反動くらいでしょう」

 ここでもヴィクトリアがオヴリガン公爵家の出自にまで考えが及べば、今度も正解にたどり着いたのかもしれない。


「ま、肌も荒れるし使いたくはないんだけどね。つまり反動は私が未成熟なことが原因だと?」


「よくある原因としては、です。そもそもその強化魔術ブーステッドマジック自体が欠陥であったり、人間の限界を超える強化を施す魔術であった場合には当てはまりませんが。どちらにせよ普段我々が使っている力は神のご意思により、我々にとってもっとも良いように形作られているのです。それを考えれば過ぎた力にはどちらにせよ代償が必要だということでしょう」


 数瞬私は天井を見上げてその言葉を反芻した後、またヴィクトリアの方を見上げた。


「それって強化魔術ブーステッドマジックは神の教えに反することにならない、神殿騎士さん」


 ヴィクトリアはその問に何でもないとばかりに力を抜いた口調で答える。


「乱用は良いことではないでしょう。しかし困難や神敵に対抗するために神に縋ることまで禁じてはおられません。覚悟を示す者に神はその力を分け与えることを厭われはしないでしょう」


「代償が必要ってわけね。筋肉痛とか生贄とか」


「そのようなことにならないためにも、日々の鍛錬が大切だということです」


 言葉の割に、ヴィクトリアの信心というやつは、今ひとつ薄いのが感じ取れた。ヴィクトリアのように若い世代には神よりも世俗の風のほうが影響があるらしい。

 実は『恩恵』持ちでありながら信心なんてこれっぽっちもありもしない私が言うことではないだろうから、言わない。


 代わりに目の前のちょうどいいくらいの、腰の位置にある髪の毛を摘んでみた。


「日々の鍛錬に問題があるわけがないから、あとは術式を考えた人間に問題があるわけね灰魔導師カオスマスターくん」


 突然話と責任を振られた少年灰魔導師カオスマスターは竈の前に座り、鍋に顔を向けたまま、髪の毛を摘んだり離したりを繰り返されなすがまま、


「勘弁してよ」


 とうんざりした返事。おい、なんだその態度は。


「具現化した魔力を身体強化ブーステッドマジックに利用するなんて荒業力技、そうそううまくいくわけないだろ」


「やっぱり術式に問題があるんじゃないの」

 

 とは言うものの、これは致し方ない。私としてもEが『色々』忙しいのは薄々感じていたし。そもそも六歳児同士でやることじゃないって? それこそ『私達』だぜ?


 そう言えば、この六歳の灰魔術師カオスマスター、正確には魔道士だっけ? と共に開発した魔導剣技には一対一に於いては明らかなオーバーキルが存在する。私としてもなぜあんな技を作ろうと思ったのか、たった一月ほど前の話であったのに動機が思い出せない。

 私自身、完璧に扱うには技量も足りていない。


「あるに決まってるじゃないか」

 

 と返事をした少年灰魔導師マジックエンジニアの言葉も無責任極まりない。


発動呪文エミットスペルもイイカゲン。起動呪文プレスペルもないような魔術は魔術じゃなくて魔法だよ姫様」

「わかってるならちゃんと術式構築プログラミングしときなさいよ」

「無茶を仰る。風とか適正のない系統魔術なんだからボクにはわかりませんよう。そもそも塔の建設だって終わっちゃいないのにさ……」

「あ、そろそろスープも煮立ったんじゃない?」

 有能なリーダーとは意見(言い訳)の取捨選択を管理するものなのだよ、

「……」






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