別物語 魔法剣士
魔法剣士。
言葉の月次さほどには実際にその名に相応しい存在はこの世界全体でもそれほどいないはずだ。
というのが私の直感。
剣を振れる人間。それを技術として『振れる』と限定してもその数はごまんといることは当然だ。
そして魔術を扱える人間も、剣術ほどでないにしても、珍しいとはいっても見つけること自体は簡単なほどにはいる。
そして剣術と魔術の両方を習得している人間もそれなりにいるだろう。
けれど私が考えるところの『魔法剣士』とは、それらの技術を『同時に』『融合して』扱える人間のことだ。
もちろん、『剣士』でなくともよい。殴っても、蹴っても、突いても、射ってもよいし、作っても、造っても、創っても、場合によってはいいかもしれない。とにかく『何かしらの技術』を『魔術』に融合して使用する者は『魔法剣士』と定義しても、クレオリアとして寛大にも依存はない。剣術というのは単なる便宜上の要素だ。
定義をどう変えようが、それでもその数は変わらないと私は思う。
大抵の人間は、両方の技術を会得していても、剣術を使いながら魔術を発動はできないし、魔術を使いながら剣術を操ることはできない。
そして同時にできたからと言ってもそれは『技術的に』『同時に』『融合して』扱えていると呼べる人間はいなかった。
どれほどの『技術』を水準とするのか、どこまでいけば『同時』というのか、『融合』というのか、『剣士』でもなく、『魔術師』でもなく、『魔法剣士』と呼ぶかは当然ながら定義などない。
例えば少年灰魔術師を始めとするアーガンソン商会の魔術師たちも、魔術を使いながら体術や武具を扱うのは見たことがある。彼らは大陸各地の販路を『担当』する行商人でもあるので『なんでも』できなくてはならない。そこには当然魔術師と言っても『タフさ』が求められる。だがそれはあくまでも魔術のための準備や牽制、逃走のための動作に過ぎない。
それに比べ、私の言うところの、求めるところの『水準』とは、魔法剣士とは技術が『武術』にありながら、同時に取り扱う魔力が『魔術』の域にある者のことだ。
人外という存在をここ数ヶ月の間にそれなりに目撃遭遇したと思うが、そういう者をこれまでの短い人生の中ではまだ二人しか見たことがない。(*作者注1)
そしてその一人目とは、私自身のことであり、二人目がこのヴィクトリアだ。
そしてヴィクトリアなるまだ、(顔立ち以外は)大人にもならない少女騎士が、単なる人間でありながら、あくまでも『単なる人間』の才能と努力のみで『魔法剣士』であるということは、私のその定義の妥当性云々はおいても、注目すべき存在ではある。
「お褒めいただき恐縮ですが、私などがそういう存在だと言うならクレオリア様もそうなのではありませんか?」
ヴィクトリアの言葉は、私が放った『風圧』と剣を中空で操っていた魔術のことを言っているのだろう。
単純に私の年齢とあの発動までの時間と練度を考えればより『ありえない存在』は、私の方だ。
特別拝命によって十四歳にして騎士の職位にあるヴィクトリアは、自身としても護衛騎士としてそれなりの自信をもっているらしいが(今回は大失敗したが)、それでも私の『異常性』に比べれば極々平凡から誤差に収まる事例ではある。
十四歳は才能を発露するには早熟であるということで説明がつくかもしれないが、六歳ではそれは『異常事態』以外の何物でもないだろう。
ヴィクトリアは私にだけ聞こえるように、嘆く。
「私が中央地方の牧歌的な世界しか知らないだけで、『特待生試験』を受ける者とは総じてここまでの『天才』なのでしょうか」
ヴィクトリアは少し心配になって、自身の主人を見た。
不思議な黒髪の六歳児は、その幼い顔に、内面通りの純朴な顔立ちで無邪気に笑っている。
閉鎖された山村育ちであるユーニアは、旅先で初めて出会った同年の少年少女たちとのふれあいがよほど楽しいのだろう。
今回の『進学』が決定して以来、これほど無邪気に笑っている主人は見たことがない。
とも付け加えた。(*作者注2)
(注1) クレオリアの知らないところで、その身近には実際のところ『魔法剣士』と呼べる水準の存在は人間以外にはいる。彼女がそれを目にする機会がないだけであり、六歳まで家から出たこともない六歳児の公爵令嬢がたった二月ほどの間に、それを目にすることのほうがありえない確率だ。
また彼女がそれと気づかず、すでにであっている存在もいる。
列挙するならば、
『自称姉』であり、なにより『天災』と知られる究血姫オルガ。
呪われた存在と自認し、過去を語らぬ『南瓜の魔女』グウィネス。
魂面であり元々は農作業を司る魔族であった格闘家のウカ。
『自称妹』を主張し、元『死の王』で、今も側に潜み、姿の見えない苺姫。
現『死の王』の育手であり、『森の女王』であるダークエルフの『アンジー』・ヴォイト。
変わり種で言えば、当代『闇王』であり、『威血族』のヴォルグことガーランドも魔術と技術を融合した者といえるだろう。
当然彼らは存在そのものが規格外であって、基準にも対象にもならないというのは、それはそれで一意見としては真っ当でもある。
(注2) ヴィクトリアは紛れもない『田舎者』である自分と主人がこれから帝都での生活と逃げようもない政治的な役割を考えると、こんなに『幼くて』大丈夫なのかと心配になっている。
もちろんそれは年齢を考えれば、それが自然で当然のありようである。また実際のところユーニア・A・ウェストミンスターという同じ公爵令嬢の『異常性』は、この『すでに完成している六歳児』に引けを取るものではないことを、当然ながらヴィクトリアは知っていたが、しかしそれはあくまで才能を才能という分類で見た場合の話だ。




