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別物語 普通のスープをあなたにあげる2






「じゃあ……塩スープと雄鹿麦、それに僕の食材を足して……」


 簡単に手順を皆に説明した後、さっそく調理に取り掛かることにする。


 まずは六人分の塩スープを一旦鍋に戻し、竈の火にかけ直す。


「それでは竈担当は我が兄Vヴィーにおまかせしよう」

 それまで全く我関せずで会話にも入らなかった少年Eの兄Vヴィー。いじくり回していた工具手入おあそびを止めさせ、竈の火の番をお願いする。


「沸騰したら、吹きこぼれないように火の調整してくれ」

 六歳とは言え鍛冶師見習いであるVなら竈の火の調整はお手の物だ。他に気を取られなければ。


「刃物を扱うので、ヴィクトリア様お願いします」

 Eは包丁の切っ先側を持つと、そのまま男爵家の少女騎士にそれを向けた。

「え? 私ですか?」

 ヴィクトリアは何をすればいいか分からず、少し躊躇いながら、包丁を受け取る。


 Eはさらにまな板を用意すると軽く水洗いした乾燥野菜と干し肉を置く。

「これを、小指の先より少し小さいくらいに切っていってもらえますか?」

「は、はい」

「ヴィクがんばって!」


 主人からの声援を受け、乾燥野菜と干し肉を細切れにしていく。

 ヴィクトリアは料理など殆どしないと言っていたが、刃物の扱いは慣れているせいか、料理人とは言えないまでも危なげなく言われたサイズに切っていった。


 切れの悪い包丁で乾燥野菜を切るのは少し苦労したが、干し肉はすでに炙られていたために柔らかくなっていた。


 やり終えたヴィクトリアは布巾を受け取ってべっとりと着いた肉脂を拭き終えると、まな板の上にこんもりと置かれた乾燥野菜と干し肉の横に包丁を置いた。


 その間にEは他の準備にとりかかる。

 沸騰する前に少年灰魔術師カオスマスターEは、鍋の中に乾燥魚醤の棒をへし折って、五センチほどの欠片を鍋に放り込む。


「これでベースは完成。沸騰するのを待ちます」


 徐々に沸騰を始める塩スープ。それにともなって放り込まれた魚醤の固まりが溶け始め、固まっていた香辛料や魔物の内蔵だったものが対流し始める。


 沸騰し始めた鍋からスプーンで塩スープだったものを一掬いして、それを私に渡した。


「こんなものかな?」

 細かな澱が混ざっているそれを顔を顰めながらも、私は口に含む。


「うーんちょっと濃いわね」

 魚の魔物、その内臓を利用した魚醤と聞くと少し味が心配だったが匂いは存外悪くない。香ばしい臭いがしているが、塩スープに魚醤を放り込んだために少し塩辛いと感じた。味自体は魚醤と言う割に癖が強くない。鰹節と香草が混ざったような味だ。


「ちょっと濃いくらい? それならバッチリ」

 Eも一口味見して頷く。それを見たユーニアが自分も味見したそうにしていたので、小さなスプーンに半分ほど満たしてそっと手渡す。


 ユーニアはヴィクトリアから火傷しないように注意され、頷きながらそっとスプーンを口に含んだ。

 スプーンを口に含んだまま、黒いような灰のような髪色の頭をコテンと横に寝かす。

 山育ちの公爵令嬢は初めて、魚貝のスープを口にしたのだろう。美味いとも不味いとも言わなかった。よくわからないといったところか。拒否反応がでないなら問題ないだろうと、Eは次の工程に取り掛かる。


 少し待って、ひと煮立ちすると一旦竈から鍋を外す。


「ちょっと一手間。僕とVヴィーだけならこのままスープを作るんだけど、今日は女の子が多いので布で濾して澄んだスープを取ります」

「そういう気遣いは大事よね」


「魚醤が沈殿するのを待ってから、上澄みを掬ってもいいけど、手間なので布を使って絞ります」

「そういう時短はアリよね」


 Eは自分の荷物から布を取り出す。


「それは? なんか茶けているけど綺麗なんでしょうね」

 私の問いに、頷くE。

「キャンプ道具……というほどでもないから便利グッズだね。見たとおりただの布なんだけど、野外で果実を絞ったりするのに一枚あると便利だよ」

「当然使い回しよね? そのシミは以前使った跡ってことでしょ。それだと食材の味が混ざったりしないの?」

「大丈夫。僕は鉛の舌だって言っただろ?」

「一緒にすんじゃないわよ」

 とは言うものの、私もそれほど強く気にしているわけでもないので、早速スープを濾すことを許す。


 Eは大人たちからもう一個鍋を借りてくるとそれを地面に置く。

「じゃー」

 と一同を見渡し、

「ユーニア様、ナタリー様は鍋の両サイドに立って貰って……」

 ユーニアとナタリーがトテトテと素直に鍋を挟んで立った。


 素直キャラでどことなく似た二人だな。

 と思いながらもEは二人に布の両端を渡す。


「じゃあ、両側を持ってもらって……上からスープを注ぐからゆるくカーブを、そうそう。スープが足にかかるといけないから、ヴィクトリア様二人が座っていたクッションを……お二人ともそこに両膝をついて布のお尻が鍋にかかるくらいで……うん、じゃあ注ぎますよぉ」


 私はそんなEを、細かい奴だなと思いながら、自身は手伝う様子は微塵も見せずに仁王立ちして両腕を組んでいた。

 細かな指示はEの世話好きを表しているが、そういった性質は実際組織を率いるには余り向いていないことを証明しているなと、私は特に重要でないことを考えていた。


 しかし組織の剛柔度にとっては必要不可欠な要素であったりする。

 そして、ユーニアと並んで素直にお手伝いをしてるナタリーの可愛さは凶悪だわ。とも思っていた。

 つまり腕組をして仁王立ちという偉そうな態度をしているだけ、ということだ。


 そういうことだ。






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