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5  話し合う二人。めぐる気持ち。

「よしっ……!」


綺麗になった自分の部屋を見渡してふぅ、と一息つく。


私は晩ごはんを食べた後、お風呂に入り、二階の自室にいる。


そして、ハル君から「今日もよろしく」というメッセージを受け取り、部屋の片付けを終えたところだ。


「もうすぐかな……」


時計を見ながらベッドに腰かける。手持ちぶさたでぶらぶらと足を揺らしていると、ピロリロリンとスマホが鳴った。


ハル君からだ。


私は慌てて近くのスタンド式の鏡と櫛を取り、髪型をチェックする。


……よし、大丈夫。


確認を終え、鏡と櫛をささっと元の場所に戻す。

ぺちっと軽く太ももを叩いて気合いを入れる。


コンコン


「俺だ」

「どうぞー」


ドアノブが回りドアが開かれ、黒で統一された服を着たハル君が姿を現した。


「よっ。遅くなってごめん」

「いいよ。いいよ。気にしないで」

「そっか、ごめん。ありがとう」


そういいながらテーブルを挟んで私の向かいに腰かける。


「じゃあ始めるか、反省会」

「そうだね」


ハル君は私が用意していたお茶を一口飲み、話を始めた。


「にしても、あれだなーなかなか上手くいかないんだよな……」

「どうしたの?またアタック失敗したの?」

「いや、失敗はしてない……はず」

「はず?」

「なんか手応えが……」

「あー……。まぁ、あっちもまだそっち方面でハル君を意識してないからね」

「やっぱりまだ意識されてないのかー……」


はぁーとため息をつきながら後ろに倒れ、天井を眺めだしたハル君。すると、ポーンという音がどこからか響いた。


「こんな時間に誰だ?」


ハル君はポケットからスマホを取り出した。

誰からなのか気になったが、ここはプライバシー的に考えるのを止めた。ハル君を待つ間に、この反省会について思い直すことにした。


反省会が始まったきっかけは、あの日ハルくんが私に相談した時だ。

あの日を境に、私とハル君は話し合いの場——主に私がハル君の相談に答える場——を作ることにした。目的は『ハル君の恋を成功させる』こと。


始めは散歩しながらだったり、受験に向けて勉強しながらだった。

最近は、何かと便利な私の部屋を利用している。

リビングで話し合うつもりだったが、ハル君が落ち着かないとのことで昔よく一緒に遊んだ私の部屋ですることになった。

同じ部屋でしかも家には誰もいない。二人っきりの状況。今でも少しドキドキしている。


でも、ハル君が何かしてくることなんてないけど。

……ん?待って、これじゃあ何かしてくるのを私が期待してるみたいじゃない!違う違う!そんなことはこれっぽっちも思ってない!だって――


「よしっ。すまんな、話し中断して」


ハル君はスマホから目線を外し、こちらを見た。


「大丈夫だよ」

「はぁ、でも一体どうしたら振り向いてくれんだー?」

「そうだねえ……」


――だってハル君、私のことなんとも思っていないみたいだし。


「そういえば、あいつ何か言ってたか?」

「ああ、えーとね。タイプはハル君みたいな人かなって言ってたよ」

「お!マジか!これは脈ありとみて……」


嬉しそうな顔をして、目をキラキラされるハル君。それを見てるだけで私の顔も緩んでしまう。でも心の奥ではモヤモヤとした感情も同時に押し寄せてくる。まるで、水に絵の具を一滴落とし、それが広がっていくように。


ぎゅっと右手を胸元で握る。


「ん?どうしたんだ?」

「いや……」

「教えてくれ、香織」


先程とまでとは違う真剣な顔つきで問われる。


その顔は反則……。


「うっ。その……理由としては、仲がいい人で腐れ縁だからーって言うってたから、脈ありとはなんとも言えない感じかな~」

「そっかー、腐れ縁……」


ハル君は少し表情を落とした。


そんな悲しい顔しないで……。


「で、でも!ハル君!名前が出てくるだけでも少しは成果があったんだと思うよ!」


なんとかして励まそうとする私。


「そう……だよな。ありがとう、香織」


ハル君が何気無い笑顔を向けてくる。

その瞬間、ドキンと胸が震え、苦しくなるのを感じた。

そして、握る力も強くなる。


「き、気にしないで」


頭が上手く働かず、ぎこちない笑顔でそれだけを言うのが精一杯だった。

それから軽く深呼吸をして、すぐに落ち着きを取り戻す。


「他には何か言っていたか?」

「え?ああ、あと仲がいい人以外ならって聞いたら『水原十流(みずはらとおる)』っていう名前が出たよ。ハル君と同じサッカー部って言ってたけど、知ってる?」

「……ああ、知ってる」


ハル君の声のトーンが少し下がった気がした。もしかしたら、この話はあまり聞かない方がいいかもしれない。幼馴染みとしての勘がそう私に告げた。この勘は大体当たるので、それからは当たり障りのない話をして、約一時間ぐらいでその日はお開きにした。


……緊張した。


ハル君が帰った後、私は明日の課題や準備を終え、ベッドにタイブした。


何かは分からないが、少し心に引っ掛かるものがある。考えをまとめたい。


仰向けになり天井を眺める。汚れ一つない真っ白な天井。ぼー、と見ているだけで眠気がゆっくりと襲ってくる。

ここで寝てしまってはもったいないので、もぞもぞと体を横に向ける。


「はぁ……」


ため息が漏れる。

何かがまだモヤモヤする。何なのだろうか……。反省会の後はいつもこうだ。


そこでふとあの時のハル君の顔が頭に(よぎ)った。


ハル君、どうしたんだろう……。


『水原十流』君の名前を出してから明らかに口数が少なくなった。全く話さなくなったわけではないが、ずっと上の空というか何かずっと考えているようだった。


あれはきっと何か隠している。


他の人には分かりにくいが、幼馴染みとしての勘でなんとなく分かる。あくまでなんとなくだが。


でも、どうして……?


もしそうだったとして、どうして私に隠す必要があるのだろうか。それとも、私には関係ないことなのか。


どちらにせよ、相談してくれなかったのは、少し寂しかったな……。


昔はどんなときもよくお互いに話し合っていた。時には怒り、時には泣き、一時期それがきっかけで一週間口をきかないこともあった。それでも、最後には子供らしく飴とかお菓子を交換して仲直りした。


『一人で抱え込まないで』

『二人なら大丈夫だよ』


そう言っていたのは、ハル君なのに……。


「あーもー」


よくわからなくなり、掛け布団を頭から深く被る。


「……でも、私もなんだよね……」


布団に挟まれ心地よい感覚に包まれながら呟いた。


結局のところ私自身も嘘を吐いている。

あの日言えなかったこの思いを……。


今も変わらず、私はハル君が好きだ。大好きだ。

そこに理屈はなく、理由もない。近くにいるだけで、ああ私はこの人のことが好きなんだと実感する。

それなのに、この思いを告げれていない。


「ダメだな……、私」


逃げていてはダメだとわかっていても、逃げてしまう。

これは、甘えだ。ハル君の気持ちを利用しているだけだ。

でも、この関係は続いてほしい。

でも、このままでは何も変わらない。


もうどうしたらいいの……!


ハル君の隠し事。

ハル君と約束したハル君の恋のサポート。

ハル君に言えないこの思い。


あーもー、素直になれないこんな自分が嫌いだー!


足を布団の中でバタバタと振る。

ひとしきり足をばたつかせたあと、両足の降るのを止めてゆっくりと下ろす。


「……でも、考えてみたら全部ハル君のことばっかりだな、私」


そう考えるとなんだか笑えてきた。どれだけ『ハル君脳』なんだか。

こんなこと香奈ちゃんにいったら親バカならぬ『春バカ』と言われそうだ。


「でも、どうにかしないとね……」


春バカでもいい。とりあえず、一つ一つ解決していこう……。


怖くないと言えば嘘になるが、頑張るしかない。

モヤモヤはまだ晴れないけれど、私は私にできることをしよう。


「うん。頑張ろう、私」


そして、全部終わったらまた昔みたいに飴をあげよう。そして――。


そこまで考えると、急に眠気が襲ってきた。それ同時に疲れも感じる。私はそれに抗うことはできないず、おもむろに電気をリモコンで消して眠りについた。


明日もハル君とお話したいな。



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