3 めんどくさい仕事。知らない男子。
「では、今日はここまで。日直」
「起立、礼」
ありがとうございました、と一連の流れが終わり、クラスが賑わい始める。
「う~ん、はぁ~、終わった終わった!さー、部活部活!」
伸びをしながら優衣ちゃんが立ち上がった。
「香織~。行こー!」
「うん。あっ、ごめん。先に行っててもらえる?」
「ん?なにか用事?」
「職員室に提出物をね。先生に言われたやつだよ」
なぜか英語の先生には気に入られており、五時間目に提出課題を放課後持ってくるよう言われていた。
「あー、あれか。私も手伝よう」
「ありがとうー、でも、大丈夫だよ」
「そう?」
「うん」
「分かった。なら、先に行って香織の分も準備しとくね~」
「えっ!本当!?ありがとう~、優衣ちゃん。じゃあ、よろしくお願いします!」
「ほいほーい!お任せたまえ!この優衣様にかかれば朝飯前よ!」
「もう夕方前だよ~」
「き、気にしたら負けなのだ!じゃ、行ってくるねー!」
「うん、廊下走ったら駄目だよ~」
「はいはーーい」
私の忠告は馬に念仏だったようで、鞄とラケットケースを握りしめて、すごい勢いで教室から出ていってしまった。人にぶつからないことをねがいたい。
「さっ、私も……」
黙々と帰り仕度を済ませ、教卓横に積み上げられているふたやまの提出物を一瞥しながら、軽くため息をついた。
「ふぅ…………」
地味に重いなぁ、これ……。
私たちのクラスは四階、先生に指定された教室は二階。今は螺旋階段を利用し、三階に差し掛かったところだ。
しかし、一気に運ぶためにノートを一つに重ねたため重い。
「んしょ、早くしないとね……」
一度ノートを持ち直し、リズムよく降りていく。
「えー、なんだよそれー!」
「はぁ?お前知らねぇのかよ」
「ありえねぇー」
下のの階から男子三人が昇ってきた。
もう、少しぐらい間空けてよね……。
壁と男子の間に隙間があるが、流石にこの状態では通りきれるか微妙なところだ。
「ん……」
今は階段の途中。壁側に名一杯寄って、肩を縮める。これでギリギリ……。
「でさー、……あっ、ごめん」
「あっ……!」
通れるかと思ったが、端の男子の腕に少し当たり体勢を崩してしまう。そのせいで提出物の山が揺れる。
「あ……、あぁ!」
ぐらぐらと山は揺れ、上の方から前に崩れていく。
このままじゃ……、どうにかして戻さなきゃ……!!
咄嗟に階段をタタンと二段降りながら、体を捻り手元を引く。すると、山はなんとか元に戻り、腕の中に収まった。
「ふぅ……、えっ!」
けれど、降りる時と逆の向きになり、そのままの勢いが殺されていない。
私の意思とは関係なく少しずつ後ろへと倒れていく。
ヤバイッ……!落ちる!!
どうにか前に戻るよう踏ん張るも、焼け石に水。提出物を離せばいいものの、そこまで頭が回らず、体は動かない。
ダメだ!!
もう無理だ、と諦めぐっと小さくなり目をつぶる。しかし、足が宙に浮くことはなかった。代わりに後ろ側で何かにもたれ掛かるように止まった。
「え…………?」
目を開けると、体は止まっていた。
「どうして……?」
疑問が残る中、後ろに人の気配に気がつく。
そこには男子と思われる人が手で私の肩を、胸元で体を支えてくれていた。
「あ、あ、これはっ……!す、すみませんっ!!!」
パッとその場から離れ、元の降りる方向に戻る。その時、後ろの男子の顔をはっきりと見た。
「大丈夫?」
白の眼鏡を掛けている男子だった。私とは面識のない人だ。
「あ、はい。おかげさまで。ありがとうございました」
提出物のせいで深くはできないが、軽く頭を下げる。
「気を付けてね、落ちたら大変だ」
少し笑みをこぼしながら、注意を促す彼。
「は、はい。本当にありがとうございました。……では、私はこれで」
知らない生徒、それも男子。助けて頂いたことには感謝だが、時間も時間だ。
お礼をきちんとすまし、頭を下げながら階段を降りる。
「うん、じゃあね、姫路さん」
彼もそれだけを告げて、階段をたったった、と昇って行った。
ん? 私、名前言ったかな……ま、いっか。
それから私は無事に提出物を渡し、部活へと向かった。




