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2 何気ない朝。いつもとちがう距離。

朝の眠気が晴れないまま、真新しい制服に袖を通す。


髪を整えてからキッチンに移動する。


時刻は午前六時半前。いつも通り、朝食と弁当の用意を始める。


トントン、とリズムのいい包丁の音が響く。




「いってきまーす!」




そんな中、外から元気な声が聞こえてきた。ハルくんの声だ。




「今日も元気だなぁ……頑張れ」




部活の朝練習に出掛けた幼馴染みに小さなエールをポツリとこぼしながら手を進める。


彼の声を聞くと、どうしても少し気持ちが安らぐ。


でも、ここ最近は違う。




ダメだな私。ハルくんのこと諦めないといけなのに……。




朝食を食べ、両親の料理を皿に取り分ける。それらを冷蔵庫に入れて、家を出た。




私の両親は、お父さんが医師、お母さんが看護師で二人とも夜勤だ。家にいるのは殆ど昼間頃。だから昔から私が朝食や夕食を担当している。




うー、寒いなぁ……。




まだ少し寒さが残る今の季節。上着を羽織っているのに身体が冷える。




「かーおーりーー。おはよ!」


「お、おはよう。優衣ゆいちゃん」




突如両肩に手を置かれ、身体を軽く揺らされる。


優衣ちゃんは今日も正常運転だ。




「どーした、かおり。元気ないなあ~」


「優衣ちゃんが元気過ぎるんだよぉ。もう、ぽっぺたつつかないで~」


「よいでわないかー、よいでわないかー。ぷにぷにぷにぷに~」


「う~、今日の課題見せてあげないよ!」


「ごめんごめん!怒らないでよ~」


「ふぅーんだ」




彼女は牧野優衣まきのゆい。肩まで伸ばした茶色がかった髪が特徴の私の親友。小学校からの付き合いで、こんな絡みは日常茶飯事だ。




「もう、つれないなぁ」




そう言ってやっと優衣ちゃんは離れてくれた。




はぁ、優衣ちゃんも私の気持ちを知らないで……。




二人で話ながらのんびりと登校し、教室に入った。






「おはよー!」


「おはよ。今日も元気だな牧野は」


「元気が一番!清水もおはよ!」


「おお、おはよう」


「朝から勉強ばっかだと午後が大変だよ」


「大丈夫だ、これは今日の課題だ」


「決め顔で言うことじゃなーい!」




優衣ちゃんは仲のいい人に声を掛けていく。私はその後ろでそれを見ながらついていく。




優衣ちゃんは男女分け隔てなく人気だ。誰にでも優しくて明るい。


一方私は、あまり男子と話すのが得意ではなかったりする……。




「あ、ユイユイ、かおりん!おはよー」


「おはよー、咲さき」


「咲ちゃん、おはよう」




私の右横の席にいる咲ちゃんに挨拶をして、席につく。


私の席は、一番後ろの列の窓際から二番目。右の席は空席なので、実質の教室の一番端っこだ。


優衣ちゃんは私の左斜め前。私の前にハルくん。前回の席替えはラッキーだった。




「ねえねえ、今日の課題多くなかった?」


「あ、それ私も思ったー」




咲ちゃんが私と優衣ちゃんに話しかけてきた。




「それマジ!ヤバイ、かおりー、ノートプリーズ!」




いつも宿題を朝にしている優衣ちゃんが私にお願いしてくる。




「いーや!さっきのぷにぷにのお返しだ~」


「なら、咲!お願いしまっす!」


「変わり身はやっ!いいけど、私今ノートないよ」


「え!?いずこに!」


「夏奈子かなこに貸してる」


「夏奈子ー!見せてー!」




優衣ちゃんの声が朝の教室に響く。


優衣ちゃんの激しさには今に始まったことではないため、このクラスでは早くも日常とかしている。




「それでさぁ、かおりん。さっきのぷにぷにって何?」


「優衣ちゃんが今朝私のぽっぺをぷにぷにしてきたの」


「なら、私も~」


「やめてぇ~!」




香菜ちゃんとも付き合いは長い。長いといっても中学の受験日に知り合い、これまでずっと同じクラスだ。クラスの中では二番目の付き合いの長さかな。




「まぁ、それは冗談として……」




咲ちゃんは、顔を近づけて少し小さな声で話しかけてくる。




「でさ、彼とはどうなのよさ」


「彼?」


「とぼけないでよ。彼よ彼。長瀬君」


「ああ、ハルくん……」


「中学から何か進展あった?」


「うん、まぁ……」




私はこの思いを誰にも伝えていない。しかし、咲ちゃんにはいつの間にかバレていた。


誰にも話さない約束をして以来、私にちょこちょこ近況報告を求めてくる。




彼女とのやり取りが、自分の気持ちに気付くきっかけになったのだけれど……。


はぁ、香菜ちゃんまで私の気もしらないで……。




「最近は受験とか部活とかであまり聞けなかったけど、どうなの?」


「まぁ、あったような、無かったような……」


「え?何々!教えて~」


「それは……、そのー……」




もう、いっそのこと打ち明けようかな……。


と、思ったところでホームルームのチャイムが鳴った。お喋りはここまで終わってしまった。




……私、どうしようかな。




目の前の空席となっている幼馴染みの席をぼんやりと見つめながら、私は溜め息を一つ吐く。




先生がやって来たが、ハルくんは一向に現れない。何故、あんなに朝早く出ていて遅れるのかなぁ。




「遅れてすみません!」




扉が勢いよく開かれ、彼が現れる。


先生に軽く注意されながら、ハルくんは席に着いた。




「どうしていつも遅れるの」


「わりぃわりぃ。ちょっとあってな」


「もう、気を付けてよね」




幼馴染みとして少し恥ずかしい。いやまぁ、幼馴染みの関係はあまり知られていないけれども。それでもシャキッとしてほしいというのは我が儘だろうか。




すると、ハルくんはいつの間にか席に戻っていた優衣ちゃんと話始めた。


後ろから見る彼の横顔は……とても笑顔だ。そう、私と話している時とは違う、嬉しそうな笑み……。




私、本当にこれでいいのかなぁ……。




今日の空の青さはいつもよりも白々しく見えた、気がした。

お久しぶりです。なんとなく再開します。

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