表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/5

1 始まりの夜。変わる関係。

――十二月二十五日——

クリスマス


街の小さな丘の上。街を一望できる私のお気に入りの場所。


そこにあるベンチに、私と彼は座っていた。


うっすらと雪が降っている。少し息が荒い。

ハァーと息をゆっくりと吐く。それでも心は落ち着かない。

彼は遠くを見つめている。街を見ているのか、何か考え事をしているのか。今の私には分からない。


私は手袋を外して自分の手を見てみる。冷たい空気が肌に刺さる。

ほんのりと暖かい自分の手。手を合わせて、また息を吐く。


彼とは幼稚園からの幼馴染み。クリスマスなのだから家にいるのは味気ないよねと声を掛けて、二人でここに来た。


二人してただ街を眺める。街の光はキラキラと輝き、雪がそれを淡くする。こんな時間は嫌いじゃない。隣に彼がいるだけで心がふわふわする。


「なぁ、香織」

「ん?なに?ハル君」


いきなり声を掛けられてびっくりしたが、恥ずかしいのでばれないように平穏を装う私。


「いや、……やっぱりなんでもない」


止めるぐらいなら声かけないでよ……。


「期待しちゃうじゃない……」


そっぽを向いてポツリと言葉を漏らす。

ハル君はまだ遠くを見つめている。


ハル君が隣にいるだけなのに、ドキドキする。


本当は言うつもりでいた。ここに来るまでに何度も覚悟した。

しかし、結果はこの(ざま)だ。たった一言ですべてが伝わる。でも、その次の彼の一言によってすべてが変わる。


彼が断れば、きっとすべてが崩れ去る。今の関係も、この距離感も……。


でも、今のままじゃダメ。それも分かってる。


それでも、一歩が踏み出せない。

こんな弱い自分が嫌だ。


いろいろと考えていると、少しだけ涙が出てきた。


「香織?」


ハル君が私に優しく声をかけてくれる。何年も聞いている声。安心する声。


「ごめんね。大丈夫、ちょっとゴミが、ね」


指で涙を拭いながらハルくんの顔を見る。さっきまでの横顔とは違う感情が読み取れる。


「本当に大丈夫か?」

「えっ?あっ……ハ、ハル君!?」


ハル君が右手を私の頬に、左手を私が涙を拭った手に重ねる。


「じっとして……」


そんなこと言われなくても私は動けない。

手と手が重なり合い、ハル君の温かさを直接感じる。


「あれ、ゴミないぞ?ま、いいか。気をつけろよ」

「あ、ありがとう……」


ハルくんは私から離れて、元の位置に戻る。戻る際にポンと軽く頭に手を置かれた。少しドキッとした。

先程までハルくんが触れていた頬が、少し温かく感じる。


やっぱり、私、言おう……。この思いを。


もしかしたら、この関係が終わるかも知れない。

もしかしたら、ハル君は私のことを嫌いになるかもしれない。

でも、この思いに嘘を吐きたくない。


――だから、私は踏み出す。


「あ、あのね。ハルくん……」


少し声が震えている。


「わ、私。ずっと昔からのハルくんに言いたいことがあったの……」


息を吸い、言う。


「私、ハルくんのこと--」

「あのさ!香織!」

「…………え?」


ハル君が強い声で割り込んできた。

とても強い意志。私と同じく決心した思いのある声。

ハル君を見ると、じっと私を見つめている。


―――怖い。


私の気持ちに気付いて先に断られるのだろうか。

ギュッと目を閉じ、手を握る。

しかし、ハル君は予想外なことを口にした。


「相談にのってくれないか」

「……え?」


目を開けてハル君を見る。

ハルくんの顔は真剣そのものだった。

私は自分の決心を挫かれ、今の状況に頭が追い付いてこない。


「……そう、だん?」

「うん、相談。いいか?」

「え、う、うん。いいけど……」

「けど?」

「ううん。なんでもない」


どうしようか迷ったけど、ハルくんの真剣さに負けてしまった。


「それで、相談って?」

「そ、それが…………」


ハルくんは頬をかきながら、少し照れながら言い出す。


「俺、好きな人が出来たんだ!相談に乗ってくれ!いや、下さい!」



◇ ◇ ◇



ピピピ、ピピピピピピピピピ…………カチッ。


「……う、う~ん」


目覚ましを止め、まだ気だるい身体をなんとか起こす。

朝の陽射しがカーテンの隙間から漏れている。


「……ハルくん」


私は、あの夜を思い出しながら、片思いの彼の名をポツリと呼んだ。


ゆっくり投稿していきます。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ