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口紅の魔法
新しいリップを買った。
ちょっと良い、値段の高い口紅。
成人式の日につけていくんだ!
張り切って化粧をして、玄関を出る時に母が言った。
「マスクは?」
*
振袖かわいいと褒め合う、地元の懐かしい輪の中に彼の姿があった。
お洒落なカフェの厨房、そこが彼の職場。週二で通ってるけど彼はきっと私に気づいていない、一方的な恋心。
写真撮ってあげると彼がカメラマンになった撮影会が終了し解散となった時、袖を掴まれた。
「今日、口紅塗ってんだな」
「え?」
「あ、えと、いつも店来てくれてありがとう。あとで写真送る……じゃあ」
踵を返した彼のスーツの裾を咄嗟に掴んだ。
赤面した彼と目があって、ペロッと下唇を舐める。
近くで、生で見たらもっと綺麗だよ。
だからもう少しだけ、新しい私を見てほしい。
「この後、お茶しない?」
動揺した彼の様子がマスク越しにでも伝わった。
コクンと頷いた彼が可愛くて、まだ子供じゃんなんて考えてちょっと笑ってしまった。