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ラプンツェル家は夜笑う  作者: 癒原 冷愛
≪解凍編≫お菓子な探偵
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Ⅳ.さあ、どうする? 名探偵!


「ふっ、何言ってんだか。そんなのはくだらない臆見と単なる状況証拠。かなりお粗末な消去法だわ」

 案の定、生薬原は反撃を試みる。素直に認める相手でないのは予想の範疇だ。

「傍証は他にもある。事件の夜、俺と看田ナースが三階の閂を外した時、汝は云ったはずだ。〝あのアル中オバさんに何があったの?〟と。何故、騒ぎの元が弓野氏だと解った?」

 かず理が三階の階段前の扉に閂を掛けて、外出していた時間帯は概ね二十一時から零時過ぎ。しっかり事件発生時に被っている。三階に閉じ込められていた生薬原に、一階で起こっていた出来事を知る術はないのだ。

「そんなの言葉の綾だわ。何となく予感がしただけよ。日頃から病んでいてトラブルメーカーになりそうなのは、弓野さんくらいだしね」

 生薬原は言い逃れるが、精神的・肉体的に問題を抱えているヤツは他にもいる。萩子や笠原氏、歳を召された癒治Dr.とて例外ではない。

「それに未だ癒治Dr.と石医さんの嫌疑は晴れてないわ。鍵一本ですべての謎が解決するのよ。下手な推理は不要ね」

「もしも癒治Dr.たちが犯人なら、弓野氏の病室の窓は施錠しておかないはずだ」

 館のマスターキーを含め、弓野氏の部屋の鍵を肌身離さず管理しているのは主人だけである。癒治Dr.か石医氏が、扉の鍵を解錠して弓野氏にワインを運んだのであれば、必ず窓は開けておくべきだ。

「何故なら外部犯の可能性も含め、館の誰かが玄関から外に出て一〇二号室の外側に回り、窓からボトルを受け渡したと思わせることができるからだ」

 前述したように窓の開く幅は約二十cm。それだけの隙間があれば、酒瓶の出し入れは可能なのだ。むしろ窓を開けておくことで、あわよくば癒治Dr.と石医氏は真っ先に容疑者枠から外されたやもしれない。

「待って。そうだとしたら、かず理さんにも犯行は可能だわ」

 異論を差し挟んだのは看田好恵だった。

「娜々村さんが今言ったように、事実として館の外側に回り込めば手渡しできます。あの夜、森を散歩するふりをして、館を出ていたかず理さんなら」

「看田ちゃん! なんてこと言うんだい」

 白衣の天使に疑われたのが、よほど心外だったらしい。かず理は泡を食っている。

「それを言ったら、アタシじゃなくてもできたはずだ。誰だって怪しいじゃねえか。それに笠原君だって百パーセント犯行が不可能だったワケじゃねぇ。死人に口無しさ」

 美形のマントヒヒは自棄になり、最後は吐き捨てるように罵った。

 やれやれとばかりに嘆息した石医氏は、 

「面白い推理だけど。娜々村さんの言うことはすべて憶測で、今のところ何一つ証拠がないわね」

腕組みをしながら、人差し指と中指を交互に動かしている。

「さて。どうする名探偵。君の言う通り〝ラプンツェルのトリック〟が使われたなら、生薬原君は極めて怪しく。館を抜けて窓の外側からワインの受け渡しが実行されたのなら、むしろ生薬原君は犯行不可能となり、逆にそれ以外の者が容疑者に浮上する。言うまでもなく、扉の鍵を所持していた儂も含めてのぅ」

 癒治Dr.は試すように俺を見据え、腹の底から重低音を響かせた。間違いなく彼は今、この状況を愉しんでいる。

 クソジジイ。

「生薬原さんだけじゃないです、三階に閉じ込められていたのは。わたしも犯人候補から除外されます」

 菊池氏が毅然と主張した。

 このままでは別解が生じ続けて埒が明かないようだ。まったく。かず理と看田のせいで。

 俺は深く息を吸い込むと、

「ここで重要になるのが第二の事件である」

半分ほど食べ終えたチョコレートをTシャツのポケットに仕舞い、引き換えに見えない切り札を提示する。

「弓野氏が絶命した夜、時を同じくして笠原氏が殺されたのは偶然ではない」

 二つの事件は因果律と相関関係で成り立っているのだ。

「ーーこうは考えられまいか? 三階から一階へ綱紐が垂らされていた、まさしくその時、紐を伝って笠原氏の部屋によじ登った人間がいたーーと」

「なっ、なんですって!」

「じゃあ、まさか笠原さんはその人物に……?」

 動揺し、おしなべて色めき立つ彼らの中で、俺は容赦なく糾弾した。

「左様。〝ラプンツェルのトリック〟が遂行されなければ、笠原氏が命を奪われることもなかった。そうして笠原岳士をメッタ刺しにした殺人者、もうひとりの〝黒髪鬼〟もこの中にいる!」


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