Ⅰ.ひとりの女が死んだのさ
すべての謎が繋がった。
無性に喉が乾いている。クコの実エキス配合のドクターペッパーを一気に喉へ流し込むと、俺は自室を出た。
「一体全体、何だって言うんだ! 人の睡眠を妨害しやがって」
深夜二時。寝静まった館の住人たちを起こし、一階に呼び集めた俺へ、真っ先に食ってかかってきたのは萩子瞹太郎だった。
「まったくだわ。どういうつもりかしら」
今回ばかりは萩子に同感らしく、生薬原がじろりと俺を睨む。
「こんな夜更けに叩き起こされちゃっちゃなぁ」
あくびを噛み殺して寝ぼけ眼を擦りながら、かず理も悪態ついた。
「草木も眠る丑三つ時と云ってね、娜々村さん。此処には曲がりなりにも患者さんがいるの。立場をわきまえてほしいわね」
当然の如く不満をこぼす一同を代表して、石医氏が諭した。
「一連の事件の謎が解けた。今からそれを証明したい」
「謎が解けたですって?」
「犯人が解ったっていうのかい」
「ああ。二人の人間を殺めた真犯人〝黒髪鬼〟は、この中にいる」
厳かに告げた俺に。
「我々の中に犯人が……?」
出鱈目だろう。ハッタリかますな、真夜中に。明日にせんかい。いや、しかしーー。邸内は響動めき、誰もが混迷する中で、
「待ちなされ」
廊下の最後尾から癒治Dr.が現れた。車椅子を自ら転がして近づいてくる。
「良かろう。その推理、聞かせてみたまえ」
ラプンツェル家の住人たちを挟んで、館の主は俺と対峙した。
「但し、知っての通りラプンツェル家は儂らの館であり、此処におるのは皆、儂の身内じゃ。本来は部外者の君が、頓珍漢な推理をかませばタダでは済まないがな」
半ば脅しのような釘を刺されて身構えるも、ここで怯むことはできない。
「肝に命じている。癒治医伯」
水を打ったように廊下が静まり返れば、拡散していた彼らは見えない磁力に吸い寄せられるように、ふたたび円を囲む。
推理に甘いものは必須。俺は地下室でくすねておいた二枚目のチョコレートを取りだした。今度はホワイトチョコだ。
まずは第一の事件、弓野殺しのからくりから暴いていく。
「既に周知の事実だが、弓野直子の死因はワインの摂取によるアルコール中毒死。肝臓がヤられ、元より体内にガタがきていた弓野氏は、とうとうあの日の夜に絶命した。犯人は計画的に弓野氏にワインを与えることで、いずれ彼女が絶命するよう蓋然性を高め、時期を狙っていたのだろう」
通常の毒殺と異なるのは速効性がない点だ。飲んですぐに死ぬとは限らないゆえ、生死の閾値を超える瞬間を予測できない。
ベストなタイミングは夜の回診後。翌朝の回診時まで時間が空くので、彼女に異変が起きてもすぐに気づかれることはない。癒治Dr.たちに勘づかれないよう皆が寝静まったあとで、ほぼ毎晩こっそり届けていたと思われる。地下室の貯蔵庫からワインが頻繁に減っていた証拠である。
「一体どうやって届けるのですか。弓野さんの部屋は常時、鍵が掛かっています。現に事件当夜は密室でした」
看田好恵が訴えた。こんな時でさえナースキャップを被っているのが意地らしい。
左様。それも自身では開けられない。弓野氏の病室は特殊で、扉の内側にサムターンはついていないのだから。
「弓野さんの部屋の鍵は癒治Dr.が厳重に管理しています。マスターキーも含め。だから自由に開け閉めすることができるのは、癒治Dr.しか」
菊池文華が館の主を見やった。
「そう。或いは癒治Dr.と親密な仲である石医先生なら、鍵を預かることもできたかもね」
漆黒のネグレジェに身を包んだ、エセ薬剤師は含みを持たせる。
「いずれにせよ彼の夜、三階にいたわたしたちに犯行は無理ね」
菊池氏へ同意を求めるよう生薬原は目配せし、当人も頷く。
「いや、残念だが二人を容疑者圏内から外すことはまだできない」




