村の探索を開始せよ!
石畳の上を歩きながら、両脇に軒を連ねる店や路上に露店を出す店など、村で1番人通りが多いであろう道を史絵さんと進む。行き交う人々は、この世界へ来てから始めてすれ違う人であるのだが、見た感じ私達と同じ『人』であるようだ。
野菜や果物を売る店、肉や加工品を売る店、鍛治屋や映画でしか見た事がないような武器や防具の店もある。
「どこから見ましょうか…。」
周りをキョロキョロし過ぎて、首が疲れてきたので、どこかめぼしい店はあったか史絵さんに聞いてみる。
「そうね…。この世界の物価を見るためにも、野菜や果物を売る店で何か買ってみる?」
買い物ついでに、宿があるか聞いてみましょう。という意見にひとつ返事で了承した。
「何か美味しいフルーツとかあるかな!」
あわよくば腹ごしらえをしようという勢いの私に、しょうがないわねと笑いながら、
「食べ物に夢中になって、目的を忘れないでよ!」
とクギをさされた。
「いらっしゃいっ!!何を入り用だい??」
八百屋のオヤジさんめっちゃ笑顔が眩しいっ…!!
ニッと満面の笑顔で褐色の肌に白い歯が眩しい!
「えっ…と。今の時期おすすめの果物を…!」
それならこれだな!と、オヤジさんがおすすめしてくれたのは、小ぶりなりんごだった。
「これからが旬の、"ロランアップル"だ!」
「ロランアップル?」
と小首をかしげる私達に、驚いた顔をしてオヤジさんが解説してくれる。
「何だ、知らねぇのかい?ロラン地方の特産でよ!普通のりんごよりは小ぶりだが、味が濃厚で果汁も多いんだ。そのまま食べるもよし、料理に使うも良しだ!」
試食してみるかい?と、ひとつ手際よく半分にカットして、私達に手わたしてくれた。
シャリッ。
「!!!!!!」
「うまーーーい!!!」
だろ?っとオヤジさんが自慢げに続ける。
「王都では、有名な菓子職人が作るロランアップルパイやタルトが大人気らしいぜ。なんでも、王室御用達を賜ったとかで、なかなか手に入らないって噂を行商仲間がボヤいてたな。」
なるほどそれは肯ける、アップルっていうから私達のよく知るりんごのイメージだったけど、これは全くの別物と言っていい!ひと口かじると、りんごのような食感なのだが芳醇な香りと甘みはしつこくはなく、噛み進めるとベリーのような味と酸味の果汁が湧き出してきて、鼻から抜ける香りも口の中に広がる味も正にりんごとベリーを合わせたような味がする!これがひとつの果物だなんて!確かに、これで作ったパイやタルトは絶品だろうなぁ…!!っていうか…王都ってどこなんだろ?
ふと湧いてきた疑問だが、あまりの美味さにどうでも良くなってきて、勢いで10個も買っちゃった。
史絵さんが横から何か言いたげだが、敢えて気づかぬふりをする。
大丈夫!責任持って全部食べるから!!
「ところでご主人、私達、今夜の宿を決めかねているの。この村のおすすめの宿をご存知ないかしら?」
史絵さんがしっかり仕事をしてくれる。
「何だ、見かけないお嬢さん達だとは思っていたが旅の人かい。この村のおすすめってんなら、マーサさんとこの"とまり木"だな!値段も手頃だし、女将のマーサさんの作る飯がまた絶品でよ!宿を尋ねられたら決まっておすすめしてるのさ!」
「"とまり木"かぁ!じゃあそこに行って泊まれるか聞いてみましょ!」
私が、袋いっぱいのロランアップルを受けとりながら、史絵さんと頷きあった。
何やら、2個おまけしてくれたオヤジさんにお礼を言って、日の傾き始めた石畳の路地を歩く。宿はここからそんなに遠くはないらしい。
パカッパカッパカッ。通りのむこうから、雑踏の音に混じって、かすかに石畳を蹴る蹄のがする。
まだ人通りはそれなりにある時間帯だが、宿を求めて新たに旅人や商人が村へ訪れているのかもしれない。しかし私達は『女将さんの絶品料理』のパワーワードの前に、完全に浮き足立っているし、ほのかに香ってくる家々の晩御飯の匂いが否が応にも期待を膨らませるのであった。