邂逅、そして新生
話がまとまってしまえば、スムーズに事はすすむ。
史絵さんと2人、新たな自分となる存在をデザインし、私は今、ステータスやスキル調整(これについては、史絵さんから私のほうが詳しいだろうからと一任された。)をすすめているところだ。
史絵さんはというと、私が2人分の調整をしている間、何やら光の玉と交渉をつめているようだ。
「よし!こんなものかなっ!」
調整完了!っと。史絵さんと光の玉のほうはどうかなとそちらを見やれば、どうやらあちらも話はまとまったらしい。
「一体何をお願いしたんです?」
興味津々で史絵さんに訊ねると、
「後で話すから、楽しみにしてて!」
とウインクで返されてしまった。
「それじゃあ、早速転移してもらうけど、準備はいいかな…。」
光の玉、若干ぐったりしているような…。
私達がオッケー!と返事をすると、光の玉が虹色に眩い光を放ち私達の足元に魔紋を作り始めた。
(これが魔法陣ってやつか!!)ゲームやアニメの世界でのみ見てきたそれが、今まさに足元に完成しつつある。
「見た目やスキルは、転送完了時に変更されるから心配しないで。お願いされた物も近くに転送されているはずだから周りを確認してね。」
と、簡単な説明をもらう。
「それじゃあ、2人同時に送り込むから、向かいあわせに立って、両手をかさねて。」
光の玉の指示どおりに、史絵さんと向かい合う。重ねた手のひらは、少し緊張しているからか、2人ともしっとりしている。
大丈夫、なんとかなるっ!
自分にいい聞かせるように心のなかで反芻する。
あ〜そうそう。と光の玉が今思い出したとばかりに話始めた。
「魂を切り離したとは言っても、元は同じ魂だから、大きな怪我や病気、ましてや死んじゃったりすると本体にも影響が出る場合があるから気をつけてね。」
んん!!???
2人でぎょっとして抗議する。
「ちょっと待って、それめっちゃ大切な話じゃん!」
「そんな話聞いてないわよ!?」
「だから今言ってる。」
いけしゃあしゃあと言う光の玉。
「ニンゲンで言うところの、一卵性双生児の双子のようなイメージで考えてみて。どちらかの不具合を片方が感じたり、同期したように行動がリンクしたりするって話があるでしょう?あれと似たような感じと思ってもらっていいよ。」
「どのくらい影響がでるの!?」
慌てて質問する私に、玉は平然とした様子で付け加えてくる。
「今の君たちが最悪亡くなってしまったら、本体にもそれに近い影響が出る可能性があるって感じかな。それで本体が生きるか死ぬかは、本体の生命力によるけど。まぁ、死ななきゃ平気だから安心しなよ!」
じゃあ、魔紋できたから、送るよ!と、こちらの返事は受け付けないよ、とばかりに転移が始まった。コイツ!絶対わざと思い出したふりして今話たな!!?
「覚えてなさいよ、光の玉ぁぁああああああ!!」
…シュインッ!!
断末魔のように放った私の声の余韻が暗闇に溶け込むように消えた。
「頼んだよ…。僕の(ザッ…ザザッ)を守って…。」
スゥ……。光の玉も消えた世界は、また何もないただの空間にもどる。
「ぁぁああああああああぁぁ…!!」
…シュインッ!!
「ぁ?」
そよそよと気持ちのいい風が頬を撫でる、新緑の緑が美しい…。
眼下にはまばらに生えた木々と草原、そして目の前には、はじめましてといいそうになるが、新生した元職場の同僚であろう人物が、綺麗なルビーレッドの眼をぱちくりしながら私を見つめていた。