邂逅3
「お楽しみって…。全然楽しくないし、不安しかないんけど…。」
史絵さんの言葉に、私もうんうんっと大きく頷いた。いきなり魂切り離しました、もう戻れません。異世界行ってもらいます!なんて、横暴以外の何ものでもない。
「救済だなんて、私達にはちょっと荷が重いと思うなぁ〜。他の人に来てもらって、その人にお願いしたほうがいいと思う!」
「そうよね、私達と違って召喚されたいって思ってる人はたくさんいるはずだし、その人にお願いしたほうが意欲的に動いてくれそうじゃない?」と、私と史絵さんの至極真っ当と思われる提案に、光の玉はまぁまぁと少しなだめるような口調で説得してくる。
「もちろん最大限のフォローはさせてもらうよっ☆せっかく異世界に行くんだから容姿のカスタマイズだって好きにしてもらって構わないし、各種スキルや、分かりやすく言うところの【レベル】も自由自在さ☆新しい自分になって冒険するのも楽しそうだと思わない?☆」
まぁ、容姿変更はこの場のみ、変更後の再編集は御遠慮いただいてるけどね!と、光の玉はふよふよと動きながら言葉を続ける。
「でもさぁ…。考えてみて欲しいんだけど…。」
私が、光の玉をツンっとつついて物申す。
「私達、自分で言うのもアレなんだけど、アラフォーなわけ。10代20代の頃のフットワークの軽さはすでにないし、新しい世界とやらがどんな状況なのかも分からないのに、そこに適応しなきゃいけないのって、かなりハードル高いと思うのよね。それに加えて【救済】しろ!だなんて…。」ハァ…っと、我ながらちょっとオーバーかなと思うが、深いため息をはいてフルフルと頭を横にふった。
「…。何が言いたいの…?」
光の玉が、嫌な予感がするのを隠しきれないといった声色で訪ねてきた。
「私達がここまでゴネても、他の人を召喚しないって事は、しない…ではなくて、出来ない…のかなって。」
光の玉の揺らめきが、一瞬止まった気がした。
「だから、どうしても私達にそのとある世界とやらに向かってもらわなくてはいけないのよね。【救済】してもらうために。私達がやる気がなかろうが不向きであろうが関係ない。軽い口調でアトラクションに向わせる遊園地のスタッフよろしく演出してるようだけど、そろそろその演技も止めてくれないかなぁ。お互い腹を割って話すほうが話も早いって思うんだけど。」
どうかしら?と光の玉を見据えて言葉を待つ。
「フム…。なるほどね、ここへ招かれてそこに気づく程度の観察力はあるわけか。」
(あ。やっぱそうなんだ。最後の口調の辺りはテキトーに鎌をかけてみただけなんだけど。)
「ちょっと歳の割にバカっぽいなと思ってたけど、嬉しい誤算だな。」
(おい、いきなり失礼な感じになってるぞ玉!!)と思ったけど、話が進まなくなるので我慢する。偉いぞ私。隣りで史絵さんからはハァ!?というオーラがにじみ出てるけど!
別に秘密にしなくてはいけない訳ではないから、と光の玉が語り出す。
「確かに、君たちに行ってもらうしかないというのはその通りだよ。ひとつの世界に存在できる別世界からの来訪者はそのために召喚された魂のみ。逆に言えば、本体に戻るという選択肢のない君たちは行くしかない、とも言えるんだけど。流石に丸腰で送り込むのもかわいそうだから、カスタマイズ諸々は情けというか、せめてもの僕からの餞別って感じかな。」
なるほど、この玉の言う事を信じるのならば、とある世界には行かざるをえないって事は分かった。
「で、救済って何をどうすればいいわけ?」
1番知りたい事ではあるのだが、ダメ元できいてみる。
「それは秘密…というか、こればかりは送り込んでからの不確定な要素が絡む可能性があるから、僕にも確実な事は言えないかな。ただ、今言えるのはこれから向かう世界の抱える問題を解決する、それが救済となるって事だけだよ。」
むぅ〜〜。結局ほとんど分からずじまいだけど、これ以上の核心に迫る様な情報を聞き出すのは難しいか。
しゃぁない…!史絵さんとチラリと目を合わせ、お互いの気持ちを確認する。両肩をくいっと上げて返事をしてくれた。よおしっ!!
「わかったわ!私達で、何とか出来るのか分からないけど、やれるだけやってみてあげる!」
どうせ戻れないのならば、やるしかない!叩き上げ世代の底力、みせてやろうじゃない!
史絵さんも、ふぅ…とため息をもらした後、
「やるしかなさそうね…。」
と、私に同調してくれた。
「そうしてくれると助かるよ。」
と、光の玉がひと安心といった様子でぽわぽわと瞬いた。
それで…。と史絵さんが言葉を繋げる。
「ちょっとだけ、お願いしたい事があるんだけど…。いいわよね?」
ニッコリと微笑んだ史絵さんの姿に、光の玉はなるほどこれがニンゲンが言うところのアクマってやつかとひとり納得したのであった。




