魔法の使い方
翌日
「伊織?準備できた?」
扉の外から史絵さんの声が聞こえた。
「はい!今行きます!」
侍女のミリヤさんに着替えを手伝ってもらって、扉を開けて貰うと、両手で本を抱えた史絵さんが待っていた。
今日は二人ともドレスやワンピースではなく、タイトなジャケットにパンツスタイルで、さながら乗馬服のような出で立ちだ。
というのも、リースさんとのお話の後はいよいよ演習場での腕試し!そのために動き安い服装をアルバート殿下が前もって仕立てを依頼してくれていたらしく、今朝方、自前の冒険者装備に着替えようと準備していて、時間になりいざ着替えようとしたらミリヤさんからストップがかかり、あれよあれよという間にこの状態である。
「あら。似合うじゃない!」
と、史絵さんが褒めてくれたけど、何と言うか…気づいてしまった…。
史絵さんのジャケットは、濃い紺色に金の刺繍が入っている。私のは、ぬけるような夏空を思わせる蒼色に金の刺繍。
「はは……。」
乾いた笑いで誤魔化したけど、これってアルバート殿下とランスロット様の髪の色や瞳の色じゃない!!
きっと史絵さんの服は、ランスロット様からに違いないな…。
元の世界ではラノベを読み漁っていた私には、その意味が分かってしまう。
自分の髪や瞳の色をしたドレスや、装飾品を贈る時は相手を好ましく思っている時が多い。時には、独占欲を形にした様な意味にもなり、他の男避けみたいなところもあったり…。
この事は史絵さんには黙っておこう…。
「何してるの?リースさんをお待たせしちゃいけないから、さっさと行くわよ!」
「はぁい…。」
全く、アルバート殿下とランスロット様は一体何をお考えなのか…。
見る人が見れば、彼らから贈られたんだってバレバレなんだろうし、お2人の立場にご迷惑にならないか心配しかない。
(なんだろうなぁ〜そんな興味引くような事したっけなぁ…?)
心当たりが全くないから複雑だ。
リースさんとの情報交換もつつがなく終わり、竜の花嫁たる力については更に調べを続ける事で話がまとまった。
「そう言えば、お2人はこの後演習場で力試しをされる予定でしたね。」
リースさんが、紅茶を飲む姿はお手本のように優雅で、伯爵という肩書きは本当なんだなと思わされる。
「はい、剣術と魔術の実践と実験をさせて頂く事になってるんです。」
史絵さんが答えた。
「実験…というと?」
はて?とリースさんが首を傾げる。
「その…属性の違う魔法を同時に発動させる事…の実験とそのリスクについて、騎士団の魔導師さんに教えを乞うつもりなんです。」
途端に、リースさんの目が見開かれ
「同時に発動ですって!?そんな事が可能なんですか!?貴女方は…」
いや…。なるほどもしや…とリースさんがしばらくブツブツと独り言を唱えていたかと思ったら、急にニッコリと笑ってこう言った。
「その力試し、私も参加させて頂きましょう。」
「え!?!?」
急に!?大丈夫かな…と史絵さんと二人で顔を見合わせると、そんな空気を余所にリースさんは余裕の表情だ。
「問題ありませんよ。これでも私、魔法についてはそこら辺の魔導師よりも精通しているつもりです。きっとお役にたってみせましょう。」
そう言うと、席を立ち上がって、殿下と騎士団長に許可を頂いて参ります。と言い残していそいそと部屋を出ていった。
「大丈夫かな…。」
史絵さんがぽつりと呟いた言葉が、テーブルに残された紅茶をゆらりと揺らした。




