国王陛下との謁見
国王陛下との謁見の後、国の上層部の方々を混じえての会議が開かれ、リースさんから私達の事や、禁書を解錠させた事、1000年も前に異世界から訪れた日本人女性。他にもセドリック宰相や騎士団長さんからも現在判明している事が報告され、本を読み解けばさらなる情報が得られるかもしれないと、話が締めくくられた。
「異世界から訪れたとは…。俄に信じ難いが、セドリックやリースの話を信じよう。異変の調査に関しても、是非とも協力して欲しい。その間、王宮への滞在を許可する。」
エドガー国王陛下は、アルバート殿下と同じブロンドの髪に蒼い瞳で、2人の顔立ちも似ていた。アルバート殿下も、歳を重ねたらこんな感じになるなのかなぁとマジマジと見つめてしまう。まだお若いのに、王としての覇気を感じるのは経験なのか覚悟なのか、おいそれと出せるものではないだろう。
言わずもがなだが、絶対モテる。
王様に向かってモテるも何もないかもしれないけど、まだまだ若く、これから更に円熟するとまた違った魅力が…。とか考えていたら、隣の史絵さんから肘でつつかれた。
はっ!
「あ、ありがとうございます!お力になれるよう頑張ります。」
慌てて膝をおり御辞儀をした。
「では早速、客間の支度をさせましょう。」
アルバート殿下が、部屋の外に待機していた執事らしき方に指示を出している。
「あ、あの…!!」
視線が私に集中する。
「お願いしたい事があるんですが…。」
「何だね?話してみなさい。」
「はい、私達はまだこの世界に来て日が浅く、人々の生活やこの国の歴史についても何も知識がありません。それこそ、りんご1つ買う事すら、数日前に初めて経験したほどです。ですので、それらを学ぶ為の時間が欲しいのです。それと…騎士団演習場の使用許可を…。」
「演習場の使用だと…!?」
驚きの声をあげたのは、このアシュフィールド王国の騎士団団長のウォルター様だ。
「はい…。私も史絵さんも、多少の戦いの心得があるのですが…実際どの程度使い物になるのか分からないんです。ですので、演習場でちょっと試したいな〜なんて…。」
ははっと笑って変な空気を誤魔化そうとしたけどあんまり意味なかった。
「戦いは騎士団の役割だ。貴女方が前線に立つ事はありえない。故に、演習場の使用は … 」
「私も、お願い致します。」
史絵さんが頭を下げている。
「今は、国王陛下の計らいで保護して頂いている身なのに厚かましいお願いだとは思いますが…。この先、私達は救済を為さねばならないのです。まだ、何を為さねばならないのか…探求する状態ではありますが…。そのためには自分自身をもっと理解しなくてはなりません。その時が来た時に力を引き出せなくては意味がないのです…!」
「お願いします!」
私も、頭を下げて国王陛下の返事を待つ。
「…騎士団演習場の使用を許可しよう。」
ガバリと頭を上げて、史絵さんと手を合わせて喜び合う。
「ただし、演習場を使用する時間は騎士団が使用していない間だけだ。使用する時には騎士を指導役として必ず付ける事。良いな?加えて、この国の事、民の生活についてはその実情に詳しい者を教師として充てがう事を約束する。」
「「はい!ありがとうございます!」」
「では、2人を客間へ案内してあげなさい。」
扉が開き、執事さん?が入室してきた。
「執事長のダレンと申します。お二人のお部屋にご案内させていただきますので、どうぞこちらへ。」
「よろしくお願いします。」
執事って、初めて見たー!すごい!本物だわ!私達の要望が聞き入れられて、テンションが上がっているから、執事という響きがやたらとインパクトが大きくてワクワクさせられる。すると、
「あ、あの!」
アルバート殿下から、緊張の面持ちで声をかけられた。
「…アルバート殿下?何か…?」
「2人とも良ければ、今夜の食事は私と一緒に如何だろうか?ルシュタットで会って以降、どんな旅をしてきたのか是非聞かせて欲しい…。」
「あ、も、もちろんっ…!ね?史絵さん。」
「ええ、喜んで。」
「ありがとう…!楽しみにしているよ。」
ホッとした表情から、きらきらとした笑顔を向けられて心臓が…!!こんな笑顔向けられてドキドキしない女性居ないでしょう!?
「イオリ様、シエ様、ではこちらへ。」
はわわとしてたら助かった…!ダレンさんナイスタイミング…!
ダレンさんがドアを開きエスコートしてくれる。
客間へと、ダレンさんの後ろを歩きながら、考える。
これまでトントン拍子に、事が運んでる…。
リースさんに会って、禁書を見つけて…。救済のヒントも分かるかもしれない。
あまりにも何事も起こらなすぎて逆に不安になるけど、起こらない方がいいんだし、今は足元を固めなくては…。
異変の調査は、騎士団と警備隊の更なる報告を待つとして。
私達は歴史と今を勉強して、演習場で力を試す。
まずはそれからだ。
ゆっくりと歩き進める美しい白亜の宮殿の中は、水路を流れる水の音が微かに聞こえて、さながら神殿のようだ。
通路を飾る様々な彫刻や、美しい花々。脇を通り過ぎる女官の方々も、洗練されているのがその所作からも伺える。
世界一美しいと評されるのも頷けるというものだ。
こんなところに住まうのはちょっと緊張するけれど、呈示されたのは破格の条件だ…!乗っからない手はない!
人知れずやる気を燃やしていたら、ダレンさんの足が止まった。
「イオリ様のお部屋はこちらでございます。」
ひとつの部屋の扉を開き、中へ案内された。
へ????
ええええええええええっ!?
「な、なん…!?」
「…?どうかなさいましたか?」
「ひ、広すぎる…!」
私も史絵さんも、余りの驚きに開いた口が塞がらない。
まるで、どこぞのリゾートホテルのスイートルームかと言わんばかりだ。
室内も広々としていて天井が高く、真っ白な室内に合うソファやテーブルが置かれ、ドレッサーやチェストも同じデザインで統一されて部屋の統一感を持たせてあるし。
飾られたお花やグリーンは生き生きとしていて、隅々まで手入れされているのが伝わってくる。
部屋の向こう側は、大きな窓が天井まで伸びて大きく開かれ、外には広々としたバルコニーが広がり、部屋の中からでも開放感が感じられて気持ちがいい!
ダレンさんが、隣へと繋がる部屋を開けている。
「こちらの扉の奥が、寝室とサニタリールームでございます。」
ひぇぇぇぇぇぇ!
「あの!豪華過ぎます!!こんな贅沢させていただく訳にはいきません!」
ここが私のお部屋、という事は1人1部屋用意してあるという事だ。こんな広いお部屋、ソファでも2人余裕で寝れちゃうっていうのに!
「お2人はこの国の大切なお客様ですから、この程度のおもてなしは普通で当たり前でございます。どうかお気を使わずに、ご自由になさってくださいませ。お2人には専属の女官を2名ずつ手配致しました。分からない事や、御用の際はなんなりとお申し付けください。」
そう言って、深々とお辞儀をしてくれる。
あわわわわ…。えらいことになってしまった…。
これ以上嫌だとごねるわけにもいかないし…。
「もうしばらくすると担当の女官がお茶をお持ちしますので、どうぞお寛ぎなさってください。さて、シエ様のお部屋はお隣でございます。さあ、参りましょう。」
ダレンさんによってエスコートされ、余りの衝撃に表情が引きつった史絵さんが部屋を出ていった…。
ぽつんと部屋に残されて、広い部屋が更に広く感じる。
「まじ…?」
結局、お茶を持った女官さんが部屋に来るまで、その場に立ちつくしていたのは言うまでもない。




