アルバートの決意
王宮へと続く廊下は午後の日差しが射し込んで、美しい白壁を更に明るく魅せている。
国王陛下との謁見、会議を済ませたアルバートは、足取りも軽くあれこれと考え事をしながら執事のダレンの元へ向かっていた。
あまりにも考え事に夢中で、その向かう先にある人影に気づきもせずに…。
「ご機嫌が大変よろしいようですね?アルバート。」
はぁ…。
ついついため息をついてしまった。
「待ち伏せとは趣味が悪いなランスロット。」
2人きりでいる時は、昔からお互いに呼び捨てに名を呼ぶように自然となっていったのだが、こうして呼び捨てにする時は本音で話をしているのと同義となる。
しかも、少々嫌味を混ぜて話しをしてくる時は大抵何かを企んでいる。
「保護と称して、あの2人を…。イオリ嬢を城に引き留めるなど、公私混同ではありませんか?」
「城に留め置く事は、お前の父親でもあるセドリック宰相も賛同してくれている。」
「ほ〜〜〜。公私混同を否定なさらないのですね?」
くっくっと笑いながら嫌味ばかり言ってくるので流石にムッとする。
「そういうお前だって、2人が城に住む事になれば毎日シエ嬢に会えるのだぞ。感謝されこそすれ、嫌味を言われる筋合いはない。」
「ええ、感謝しておりますとも。貴方や、父が発言しなければ私が進言しておりました。しかし、これまで婚約者を決める事をかわし続けてきた貴方が、特定の女性を近くに置いたと話が広まれば、この国や諸外国の貴族が大人しくしているとは思えません。」
確かに、それはそうなのだが。
「それはお前も同じだろう。今まで、俺の世話が忙しいだのなんだのとかわし続けてきたお前が、特定の1人を決めたとなれば、これまで熱心にアピールしてきていた令嬢達が黙ってはいまいよ。」
「それは私も理解していますとも。…ですが、貴方はこの国の第一王位継承者です。その貴方が選ぶ女性はこの国の未来の王妃。その判断は、軽々しく決めて良いものではありませんよ。」
ランスロットの言うことは正しい。
私は、側妃を持つ気はないし、妾など以ての外だ。ランスロットも、昔から私の事を良く知っているから、こんなことを言ってきたのだろう。
イオリ嬢と過ごしたのは、これまで合わせてもほんのひと時。だが、今日目の前で見たあの涙が、きっと彼女なら国を、民を想う、誰もから愛される王妃になると、そう思わずには居られなかった。
その為には、私の事を少しずつでも知ってもらいたい。そしてその先に私の事を…。
「直感したんだ。知っているだろう?俺は直感を外した事はない。だが…時間が必要だ。」
お互いを知り合える時間が。
もちろん、異変の調査は第一だ。だが、その合間の時間に共に過ごす事ができたなら、可能性を現実に出来るかもしれない。
「そうですね。私達は立場は違えど同じ目的を持った同志です。お互いの想いの成就の為にも、協力し合いませんか?」
「協力?」
「今、あの2人はこの国にとって重要人物となる可能性があるため、保護されていますが。今はまだ、ただの身元不明の庶民です。貴方や、私と釣り合う程の『肩書き』が無ければ、外野が黙ってはいません。ですので、貴方と私で、彼女達を保護出来ている間に、最大限のサポートをしてその肩書きを確固たるものにする必要があります。」
それは私にとっても言わずもがなだ。王族としての立場をしっかりと内外に示す事で、その威厳や影響力を揺るぎないものに出来るのだ。
第一王子が、庶民の女を囲ったなどと囁かれれば、その途端に、王族に成り代わって国を動かそうと企む者の格好のネタになってしまうだろう。それ以前に、そのような噂の的に彼女を巻き込みたくはない。
「彼女達の求める為せる事がはっきりとするまでは、2人の存在は最重要機密事項とし、箝口令をしきましょう。時が来るまでは表に出さない方が、彼女達を守る事にも繋がります。」
「ああ、そうだな。王宮の客間に滞在している間も、世話係は特定の者を厳選してあたらせよう。」
丁度、執事のダレンに会いにいくところだったから、ダレンに人選を任せて、女官長にも話をつけておかなければ。
「私も、護衛につける人物を騎士団長に相談して参りましょう。」
「ああ、よろしく頼む。」
その場で二手に分かれ、当初の目的であったダレンの元を目指す。
1度は夢と諦めたこの気持ちを、再びこの手の届くところまで引き寄せられたのだ。
もう逃がしはしない。




