セドリックの考え
「セドリック!」
前を歩くセドリックを呼び止める。
この国の宰相を勤める彼は、言わずと知れたランスロットの父親だ。
私の父である国王のエドガーとは、義兄弟にあたる。彼の妻と、私の母は公爵家の姉妹で、2人とも結婚前は、アシュフィールドの双華と呼ばれた程、社交界でも有名な姉妹だったらしい。
「おや、アルバート様。遠征、お疲れ様さまでございました。何か御用でしょうか。」
「ああ、先程の話なんだが、貴殿が知る人物に私も会わせて頂けないだろうか。」
フフッと笑い、やはりといった顔だ。私が呼び止めた時には、いや、あの会議の場で既に私が同行したがっている事に勘づいていたのだろう。
「そう来るだろうと思っておりました。勿論、構いませんが、お疲れではございませんか?」
「いや、問題ない。是非よろしくたのむ。」
ふむ。とセドリックが少し考え込む。
「では、本日午後より会いに行くと致しましょう。それまでは、お身体を休めてください。彼の者が住むのは、王都の中です。向かうのにはさほど時間を使いませんので。」
「ああ、わかった。そうしよう。」
ランスロットは、と言いかけて後ろを向こうとしたら「私も同行させて頂きます。」
先手を打たれてしまった。
「あ、ああ。そうだな。ランスロットも一緒に現地を見てきたんだ。」
貴方が行くのに私が行かないとか有り得ません。と顔に書いてあるようだ…。
「では、お時間まではゆっくりとなさってください。馬車の支度がととのいましたら、お部屋までお声をかけに参ります。」
私とランスロットが頷くと、セドリックは一礼をして
私は交渉のための準備がございますので、ここで失礼させて頂きます。と去っていった。
セドリックがそれ程までに準備をするとは、余程変わり者なのか…。
だが、情報を得られるかもしれない貴重な人物だ。必ず助力を得て戻らねば。
部屋に戻って、仮眠をとり交渉に備えよう。
ガラガラガラ…。
馬車の車輪の音が客車の中に聞こえてくる。
私とランスロット、宰相のセドリックを乗せた王族の馬車は、国立図書館へ向かっている。
「その知人とは、どんな人物なんだ?」
向かい側に座るセドリックに、訪ねてみる。
「そう…ですね。彼は、図書館の司書を勤めておりますが、歴とした我が国の侯爵ですよ。ただ、昔から社交界にはほとんど顔を出さないため、友人は私以外にいるのかどうか…。今は本の虫が講じて図書館の司書をしておりますが、私との出会いは学生時代に魔法学を専攻するために留学していたブルンクデール国の図書館です。」
セドリックが留学していたというのは初耳だ。
「彼はそこで私と同じく留学生として魔法を学ぶ傍ら、図書館へ足繁く通いある事を調べていた…。この世界を救ったという6龍。その龍を顕現させたという光の柱について。6龍に関する伝承は数多かれど、光の柱については、詳細な話はほとんど残っていません。彼は光の柱にこそ、世界を救った何かがあると考え、それを知りたがった。」
確かに、6龍が暗雲を払い世界は息を吹き返した。
その後、6龍が各地へ散らばり、国の礎となったと伝えられるため、人々の間には6龍を敬い崇めるもの達が現れた。そのため、6龍については各地に様々な伝承が残っている。
しかし、その伝承のほとんどで、その出現元である光の柱にはふれられず、6龍が何故光の柱から顕現したのかは、正直な話私も理解していない。
光の柱が立ったという、ルシュタット村近くの祭壇も、手入れをされ、年に1度祭りが開かれているが、その意味を深く考えている者は居ないのかもしれない。
「その昔、世界に降りかかった災い、6龍、光の柱。これらが、今我が国に降りかかっている事象とは関係ないかもしれませんが、ブルンクデールで図書館に入り浸っていたとき、何か関連するような書物に目を通しているかも知れません。あの国には今易々とは行けませんからね。」
馬車の車輪の音が止んだ。
御者が客車の扉を開き、図書館に入る。
入り口では、受付の司書が私達を出迎え、客間へと案内をしてくれた。
「こちらでお待ちください。すぐにリースを連れてまいります。」
司書が扉を閉めてパタパタと足早に去っていく音がした。
暫しの間待っていると、再び扉が開かれる。
「お待たせして申し訳御座いません。」
扉から現れたのは、艷めく水色の髪を腰まで伸ばし銀縁のメガネをかけた初老の男だ。
「やあ、リース。久しぶりだね。」
「ああ、セドリック。久しぶり。アルバート様、ランスロット様、このようなところまで御足労頂き、恐縮にございます。」
私達に向かって一礼する。
「いや、こちらこそ、急な訪問ですまない。どうしても早急に貴方の力を借りなければならないのだ。」
「私の力…ですか?私などにそのような…。いえ、まずはお話を伺いましょう。」
案内をしてくれた司書が、お茶を出し部屋から出ていったのを確認して、セドリックが話を始める。
「これから話すことは他言無用だ。」
リースが眉をひそめて、話の先をうながす。
その後のセドリックの話に、リースは絶句した。
何から話をすればいいのか…。一言目を探しているようだ。
「何とも信じ難いお話ですね…。」
重々しく口を開いたリースが、自分の頭の中を整理するように、ゆっくりと話始めた。




