2人の野宿スタイル
「なかなか遠いもんですね、王都って。」
史絵さんとルシュタット村を出て3日程たった。街道をテクテク歩きながら、地図を見る。
これまでの2日間は、街道にある冒険者や商人が利用する宿場町で宿泊をしながら歩いて来たのだが、次の宿場や村まではまだ距離がある。
馬が利用出来れば良いのだけど、王都への乗り合い馬車は本数が少なく、聞いてみるといつもはもっと本数が出ているのだが、国の方から減らすように通達が出ており出せないのだという。
原因は、馬車を襲撃するモンスターが出ているのだとか。
警備にも、人数に限りがあるため、物流を担う商人の馬車に警備が優先され、人を運ぶ馬車は本数制限をせざるを得ない状況らしい。
全く、物騒な話だが馬車をチャーターするのも勿体ないし、徒歩という手段をとって今に至る。
「今夜は野宿するしかなさそうね…。」
はぁ…。と隣から諦めのようなため息が聞こえる。
実際結構歩いたのだが、もう日が傾いているし、明るいうちに野宿出来る場所を探したほうがいいかもしれない。
史絵さん、キャンプとかアウトドア苦手だったよね…。
私は割と適応出来るけど、馬車を襲うモンスターの話を聞いた後では、流石に不安になる。
交代で見張りをしながら夜を過ごすしか無いかなとか考えていたら、微かに水の流れのような音が聞こえ始めた。
「水…?川でも流れてるのかな?」
「あっちの方から聴こえるわね…。丁度いいし、野宿出来る場所も探しましょ。」
水の音は、街道横の森の奥から聞こえてくる。
鬱蒼とした森ではあるが、不穏な空気もしないし、とりあえず水場を確認しようという事になり2人で森にわけ入っていく。
『危険察知』と『危機回避』
この2つは真っ先に付けたスキルだ。
私達はいくらチートであっても、経験値0である事に変わりはなく、それを補うスキルは必要不可欠だった。
常にこの2つのスキルを発動状態にしておく事で、少なくとも、先に危害を加えようと向けられた気のようなものさえ掴めれば、あとはチートで何とかなる、はず!
周りに注意をしながらわけ入った森の中は、思っていたよりも陽の光が差し込み、生い茂る草も膝から腰程度で、邪魔になるものをショートソードで払いならがら歩き進める。
おっちゃんに選んでもらったショートソード。主に戦闘用に買った白銀の長剣よりも、更に短く小回りが効いて扱い易い短剣だ。
白い革製の鞘に、長剣と同じ柄糸を武器屋のおっちゃんに巻き直してもらったお気に入りだ。
10分程歩いただろうか、急に視界が開けて目の前に川と…。思っていたら、滝が現れた。
「滝じゃん!!」
「すっごくキレイ!」
高さはそれほどないが、滝つぼを有する立派な滝だ。清らかな水が流れ落ち、ミスト状になってキラキラと輝いている。
滝つぼから流れた水の流れがサラサラと川下へ向かって行くのを見ていると、少し先に開けた場所があるのに気がついた。
広くはないが、平らなスペースは貴重だ。
「あの辺りなら、野宿出来るかな?」
「広すぎても居心地悪いし、丁度いいかもね!」
早速向かってみると、周りには大きめの岩がゴロゴロ見えるがそこだけ砂や小石が混じった土が露出した場所で、これなら岩が目隠ししてくれるし比較的安心して1晩過ごせそうだ。
「じゃ!テント張るから端にいて!」
んん???
「テント…?」
そんなの持ってないよ、と思ったけど、史絵さんがバッグから取り出したもので色々察した。
カチリ。
魔導具のスイッチを押して、土の上に置くと機械的なカウントダウンが始まり、ガチャガチャと開いては組み上がっていくテント。テント…?
「こ、これは…。」
テントって言うから、布張りの三角形なタイプをイメージしていたのに、目の前のこれはもはや家?
余裕で立ったまま入れるだけの高さと、横幅も結構ある。中をみると、4畳半くらいの広さの室内にシングルサイズのベッドと、ベッドサイドには小さなチェスト。物書きが出来る程度のデスクと椅子に、その前には窓もあって風通しも良く快適だ。
「すごっ!!!こんなのもう住めるやつじゃん!」
「こんな事もあろうかと、光の玉に創ってもらったの!伊織の分もあるから使ってね!」
しかも1人1部屋あるなんて…。
地べたに横になるのを覚悟していたから、拍子抜けしちゃった。
「し・か・も!テント持ち主の許可した者しか中に入れない仕組みになってるの。小バエ1匹すら入れないから安心して寝れるわよ。」
外見は若返っても、中身はアラフォーだからと、如何に快適に旅するかを考えた結果こうなったらしい。
確かに、体力とか気力とか以前は気になっていたから、こうなったのも理解できる。
おそらくその一心で光の玉に創らせたんだなー。とか考えたら、隣りに私用のテントを設置し終えた史絵さんが戻ってきた。
「実はまだあるの。」
まだ!?!?
こっちこっち!と手招きされて行ってみれば、焚き火台に、小さなテーブルにイスが2脚。テーブルの上には鉄板にケトル、小鍋に、カトラリーと食器。
この箱型のものはまさか…!!
冷・蔵・庫!!!?
「まじで!?ここまで創らせてたなんて…。」
なんか、最後光の玉がぐったりしてるなー。とは思ってたけど。これで納得がいった。
日が暮れるまえに、薪拾いと夕食の準備をする事になり、2人で手分けして薪を拾う。
火属性魔法で火種を作り、火をおこす。
川の水を使って身を清めようと手を水に付けた…。
すると、シュワンッと手から放たれた淡い光が水面を一気に走る。
「???」
不思議に思って、史絵さんを呼んだ。
「何?どうかした?」
「ちょっと川に手を付けてみてもらえます?」
不思議そうにしながらも、史絵さんが手を川に入れる…と。シュワンッ
「え!?何今の…、?」
「さぁ…?私も同じようになったんですけど、何も変化は感じないし…。」
脚を付けてみたら、やはりシュワンッと、光が走る。
なんなんだろう…。
結局考えても分からないから、手桶に水を汲んでテントで身体を拭った。
初めての野宿飯は、史絵さんが用意していた堅焼きのパンに、マーサさんが持たせてくれたジャムと、冷蔵庫に収納されていたソーセージに、史絵さんが作ってくれた野菜スープ。
夜空を見ながら今後について話し合い、眠くなったらふかふかのベッドにもぐりこんだ。
なんだこれ思ってた野宿と違う。と思いながらも、人間というものは楽な方への順応は早い。
歩きで行けばあと3日、次の村で馬車に乗れれば2日くらいか。
王都で、ジェフさんの紹介してくれた人に会うために。水を走った光が気にはなるけど、王都で調べれば何か分かるのだろうか…。
王都は、ランスロットさんが話していたとおり、水の城に水の都だと、旅ですれ違った人達が口を揃えて言っていたっけ。王都へ行けば、アルバートさんやランスロットさんにもまた会えるだろうか。
なんて…。そんな事あるわけないか。
と考えていたら、いつの間にか眠りについていた。
少し欠けた月の光が寝屋を照らし、2人を見守るように、朝まで雲に隠れる事はなかった。




