相棒
「いらっしゃい…。」
武器屋の扉をくぐると、店の奥から低めのしゃがれた声。
「すみません、武器を見せてもらえますか?」
チラリとこちらを見てきた店主は、一瞬冷やかしかと思うくらいの、戦いとは無縁のような女2人組に、訝しむような目を向ける。
「…武器っていってもなお嬢ちゃん。一体何をお探しかい?」
ご最もだ。あからさまに向けられる(売るのはいいけど、扱えるの?)と言いたげな表情。武器といっても様々あるし好みもあるだろう。店主に答える前に史絵さんに顔を向ける。
「何にします?」
店主がさらに顔をしかめる。
(何って…。このお嬢ちゃん達はそもそも何かと戦うような風には見えねぇが…。)
護身用だろうか、と思い小さなナイフの売り場を指さして聞いてみる。
「護身用かい?それならあそこに並べてある小型の…」
と言う途中に否定される。
「あ!いえ、護身用…も欲しいんだけど、ちゃんと戦えるやつを買いたいんです!」
黒髪のお嬢ちゃんが答える。
(益々訳が分からねぇ…。)
この世界に来て、村までの道すがら史絵さんとは、お互いのステータスとスキルについて話し合っていた。
光の玉との空間で私が任されたステータス調整。
一体何が待ち受けているか分からない以上、全てレベルMAXまで振り切るという手もあったけど、敢えてそれは回避した。
基本的に、2人旅になる以上何かとのバトルがあった場合、2人の役割分担がしっかりあったほうが、お互いやりやすいだろうと考えたのと、ステータスの他にスキル設定も別枠であったため、スキルで全ての特技を底上げ出来ると判断したから。
基本的には、私が近接で戦い、史絵さんは遠隔。
これらに分類されるステータスは全てMAXに振った。
その他はMAXよりちょい下かな?くらいに抑えてある。それでも充分強そうな気はしたけど、それがどの程度なのかは、まだバトル経験がないので未知の状態だ。
HPもMPも、MAXにはなっているが、設定出来る数字は2人同じではなかったので、元の世界の個人差みたいなものが現れているのかなと思う。
そして、数字があるという事は、不死身ではない、という事だ、元の世界のオリジナル達が変わりなく生活していくためにも、間違っても死ぬ訳にはいかない!
その為に、スキルも練りに練ったし。
各々、ステータスやスキルは自分のものは確認してるから、武器は好みで決めればいいんだけど…。
いかんせん使ったことがないから、使用感とかわかんないので、どうしたもんかと考えていると、史絵さんがおもむろに店内をくるりと見渡して、展示されていた1本の杖を手にした。
「これにするわ。」
「え!?」決めるの早っ!!!
という私の驚きにかぶさるように、武器屋のおっちゃんの「何っ!?」という声が響いた。
史絵さんが選んだのは、艷めく漆黒の柄に丸く紅いクリスタルがはめ込まれた両手杖だ。
「なんだか私みたいじゃない?」
と、杖を眺めて笑顔をみせた。
少し杖に魔力を流してみたのか、杖とクリスタルが淡く光をたたえる。
「なんと…。」
武器屋のおっちゃんが驚きの声をあげる。
「その杖はウチで用意出来るものの中でも1番の業物だ。これまで幾人も我が物にしたいと手にしてきたが、他の者が力を込めても無反応でな。コレクションにと持ち帰った者も奇妙な事象に見舞われ手放す始末…。それが素直に力を貸すとは。杖に余程気に入られたようだ。」
なんだか、漫画とかでありそうな展開になってきた…。
「その杖に名はない。柄は黒金剛石、クリスタルは炎獣の瞳で出来ている。好きに名付けてやってくれ。」
「ありがとう。そうするわ!」
ってな感じであっさり決まってしまった。
「伊織はどうするの?」
と聞かれて、私もくるりとお店を見回す。
(う〜〜ん。…ん?)
「あの棚のあれ…。あれにします!」
「!!?」
何か、目に留まったあの剣。
美しい彫りの入った白銀の鞘に、青い柄糸が巻かれた美しい片手剣だ。
おっちゃんが棚から取り出して手渡してくれる。
よく見ると、柄には碧い宝石がはめ込まれそれを柄糸で固定し装飾している。
スラリと鞘から抜いて見れば、刃の部分もスマートでロングソードと細剣の間のような感じで扱いやすそうだ。
「店の裏に、木人がある。試し斬りしてみるか?」
というおっちゃんの勧めに、ぜひ!と頷いた。
古びた扉の先、店の裏は剣を振り回せるくらいの広さのスペースに、藁の巻き付けられた木人が置かれている。木人っていうか、丸太じゃん!!
すぅ…。と息を吸い細く吐きながらフッ!!!っと踏み込む!!グンッと木人に接近し、シャッと剣を払う!!
ふぅ。思ったより動ける。流石はチート。先ずは一振りと思っていたけど、数えただけでも5回は斬る事が出来た。
ズドドッ!と木人が崩れ落ちた。木製なのに、こんな細身の剣で切り崩せるとは…。斬った感じも全然重みを感じなかった…。
剣を見れば、傷も無い…。怖っ!チート怖っ!
「これにします。」
振り向いておっちゃんに告げる。
おっちゃんはもはや開いた口が塞がっていなかった。
店内に戻って、剣を腰に固定する為の皮のベルトを見繕ってもらう。
「その剣はミスリル鋼製だ。軽く硬いが靱やかさも持ち合わせた一品。使えば使うほどに手に馴染むだろう。」
大事にしてやってくれ。そう言って手渡してくれる。
「ありがとう。」
代金は中々に高額だったけど、変に粗悪なものを買ってしまうより、良い物を買って大事にしようという精神で大奮発!
これからずっと一緒に旅してくれる相棒を手に出来た事に、心強さを感じながら、店を出た。




