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アラフォー2人異世界で  作者: 天知
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それぞれの旅路

「2人には会って行かなくていいのか?」


ジェフの言葉に、後ろ髪を引かれる思いが顔に出そうになる。

「いや、まだ朝早い時間だし、起こしては可哀想だ。」

「世話になりましたね、ジェフ、マーサ。」

朝日がようやく山際に出始めた早朝、見送りをしてくれる2人に、ランスロットと共に別れの挨拶を済ませる。

「あの娘達…。気に入ってたんだろ?」

マーサの鋭さは、昔から変わらないな…。

苦笑いをしながら、馬に括り付けた荷物がぐらついていないか、確認をする振りをして誤魔化した。

「縁があれば、また出会える事もあるだろう。」

「そうだよ。あの娘達…。ひと目見た時から不思議な何かを感じるんだ…。それが何かはわからないけど。きっと、また出会えるはずさ。」

だから諦めるんじゃないよ!と、背中をおされてしまった。

「ありがとう。では、また…。2人ともお元気で。」

馬を駆り、再び王都を目指す。


全身に風を浴びながら、徐々に意識が研ぎ澄まされていくのを感じる。

先ずは、今我が国に降りかかりつつある災いを払わねばならない。

おそらく、ランスロットも同じ気持ちだろう。

順調に行けば3日目の朝には王都に入れるはずだ。

今はただ、前を向いて進むしかないのだから。




「ふあぁぁ。くぁ…。おはょうございます。」

「おはよう。伊織。」


相変わらず朝弱いのね。と、史絵さんに笑われる。

史絵さんはまだ部屋着のままだが、私達のワンピースにブラシをかけながら待っていてくれたらしい。


「朝食をいただきに行きましょ!お腹すいちゃったわ!」

顔を洗って、髪を梳かし昨日のワンピースに着替える。着替えくらい昨日買っておくべきだったかな。と思いつつ、アルバートさん達は早朝に出ると言っていたし、もう宿を出ているはずだ。

(よかった…。昨日と同じ格好を見られずに済んだ…。)

階下へ降りて行くと、マーサさんがフロントに花を飾っているところだった。

「おはよう!良く眠れたかい?すぐ朝食を出すから、食堂で待っていておくれ!」

そう言って、キッチンのほうへパタパタと入っていく。

食堂の、昨日と同じテーブルに座ると、朝日というには高くなりすぎた陽の光と、窓からの柔らかい風が、今日はいい天気になると教えてくれているようだ。

「なんだか、昨日の事が夢のようですね。」

なんだかぼーっとしてしまいそうになる。

宿のベッドで目を覚まして、天井を見た時、いつものアパートのじゃない…という、今日からはこの世界が現実なんだ…。ってあらためて実感させられてしまった。

「さぁ!召し上がれ!」

マーサさんが出してくれたのは、フカフカのオムレツにカラフルな野菜の入ったスープ、ハードなパンに…。これは…。

「昨日頂いたロランアップルをコンポートとジャムにしたんだよ。」

「ええ!?すごい!!」

薄いピンク色をしたコンポートには白いクリームが添えられジャムはパンの横の小さな器に盛りつけられていた。

「「いただきます!」」

スープをひとすくいして、口に運ぶ。

「いただきます…。ってのは何だい?」

「私達の国の、食事の前の挨拶です。命を頂く事への感謝の気持ちを言葉にするんです。」

なるほどねぇ!と、マーサさんは感心した様子だ。この世界にはないのかな?と思っていたら、向かいの史絵さんが驚きの声をあげる。

「このスープ!出汁がすごいです!薄味なのに旨味が深くて…。この出汁は……もしかしてベジブロス?」

「おや、本当に料理が好きなんだね。その通り!野菜の皮や切れ端を煮詰めて出汁を取るんだ。皮やヘタには栄養と旨味がたくさん入ってるからね。無駄にはしないさ!」

「すごい…!この世界にも同じような調理法があるんだ…!」


……。え…。史絵さん?

空気が止まる。


「この世界にも…?」

マーサさんも、さすがに聞き返す。


「あ……。」

史絵さんが、ヤバい…という顔になるが、あんなにはっきり言ってしまっては、言い直すのも難しい。


「えっと…。何と言うか…。」

「世界…というか、国って言うか…。」

2人でアワアワとなっていると、マーサさんがふむと腕を組んで分かった。と呟いた。

「朝食、しっかり食べておいておくれ。旦那を連れてくるから。大丈夫、騒ぐようなマネはしないさ。安心おし。」

そういうと、パタパタと食堂を出て行ってしまった。


「ごめん…。伊織…。」

「仕方ないですよ!いつかは誰かにバレる日がくるとは思っていましたし。」

まぁ、2日目にしてバレるとは思ったより早かったけど。

「それに、マーサさん達なら、私達に害をなすような人達には見えないし…。きっと、大丈夫です!」

朝食、食べましょ!と、再び食事を再開する。

マーサさんが作ってくれた朝食は本当に美味しくて、コンポートもジャムも、どれも優しい味がした。

まるで料理に人柄が出ているようだ。


数分後、ジェフさんを連れたマーサさんが帰ってきて、食堂で、事のあらましを話した。


「はぁ〜〜〜。なるほど…。と言っても信じられない内容だが、お前さん達の昨日の様子やその姿を見れば、つじつまは合ってるし、合点もいく。」

ジェフさんも、驚いた様子だが、やっと納得がいったというような感じが強いらしい。

「お前さん達が初めて降り立ったという、岩の祭壇は、昨日アルバートが話て聞かせた物語にも出てくる。光の柱が暗雲を貫き…ってやつだ。彼処が、光の柱が出現した場所と伝えられている。」

「ええ!?そうだったんだ…。でも、今は暗雲ってかかっていないですし、平和ですよね?」

私の質問に、ジェフさんが少し考え込む。

「ああ、確かに今は平和だが…。アルバート達がウチへ寄ったのは、単なる旅行じゃない。どうやら最近国境付近で、きな臭い事が起きてるらしい。その調査の帰りだと話ていたが…。どうも、引っかかるな…。アイツらと、お前さん達がここで出会ったのも何か…。」

何だか、深刻そうな話になってきて、空気が重くなる。


「そんなに考え込むんじゃあないよ!これでも飲んでリラックスしな!」

マーサさんが、お茶を出してくれた。

これ…

「アップルティーだ!」

ふふふっとマーサさんが笑う。

「紅茶にロランアップルのジャムを少し入れたんだよ。」

「本当にマーサさんってお料理上手ですね!私、弟子入りしたいくらい…!」

「嬉しいねぇ!こんな子がウチの息子の嫁になってくれりゃあ最高なんだがね!」

はははっと笑う。そっか、マーサさん達にはそんなお年頃の子供がいるんだな…。

横で考え込んでいたジェフさんが私達を見て話始める。

「とりあえず、2人は町で旅装備を整えておいで。その間に、王都にいる知り合いに紹介状を書いてやろう。それを持って王都へ行くんだ。アイツは信頼出来るやつだ、君達の助けになってくれるよ。」


ジェフさんの言葉に、私達は頷いた。

この人たちは信頼出来る。きっといい方向に向かってる!そう感じるもの!


「さぁ!そろそろ店も開き始める時間だよ。買い物へ行っておいで!」

「「はい!」」

アップルティーをコクリと飲み干して、出かける準備をした。


まずは、服装と武器だ!

宿の扉を開いて外へ出た。眩しい光の中、石畳を2人で歩く。

もう前に進むしかないんだ!なんとかなれ!!!

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