世界の成り立ちと一夜の夢
「ここからは私が話そうか。」
ひとしきりのランスロットの説明が終わって、次は世界の成り立ちを話始めるところだったのだが、思わず割り込んでしまった。
ランスロットの各国の説明は、要点を押さえていて分かりやすく、必要最小限にまとめられていたから、きっと初めて耳にする彼女達も、頭に入りやすかったはずだ。次の世界の成り立ちについても、ランスロットに任せておけば間違いはない…と思って聞いていたのだが、隣りで息をのみ、時として興味深げにランスロットの話にくぎ付けの彼女に…イオリ嬢に、私にはそんな表情を見せてはくれないのかと、ムズムズとした気持ちがわいてしまい、つい口を挟んでしまった。
私が身体をむけると、ビクッとしてソファの端に逃げてしまう。
嫌われているのか…?と不安を覚えたが、手を引きこちらへ促せば、拒否する事なくそれに応じてくれた。
少し頬を赤らめた表情からは、どうやら嫌われてはいないようだと、少し安堵する。
「では、始めよう。」
向かいのランスロットとシエ嬢も、ソファに深く座り私の次の言葉を待ってくれている。
そして、少しずつ語り始める。この世界の遥か昔から語り継がれる物語を。
「これは、各国で諸説ある話になるかもしれないが、我が国で語り継がれる物語の1つだ。」
私が話始めると、イオリ嬢も、向かい側の2人もこちらを向いて聞き入ってくれる。
「遥か昔、この世界は人族、エルフ族や、ドワーフ族など、多種多様な生き物が住処を侵す事無く平和に暮らしていた。
だが、ある時そのバランスが壊れる自体が起きる。空が暗雲におおわれ太陽が姿を隠してしまったのだ。
すぐに晴れると思われた雲は晴れる事はなく、それぞれの種族の間でお互いを疑い争いが起き始めるのに、そう時間はかからなかった。
各地でいざこざや戦が起こり、森は枯れ水は腐り始めた。消耗戦となり、自らの種族や世界の最期を覚悟した時、彼らは雲を貫く一筋の光を目にする。
その光に呼応するように、空に6体の龍が顕現し、それぞれの光を持って暗雲を消し去った。
龍の放った光により、木々は芽吹き、水は浄化され、それぞれの種族はお互いの誤ちを認め不可侵の契約を持って平和な世界へと戻っていく。というのが、だいたいのあらましなんだけど。」
隣りのイオリ嬢を見る(っ!!!)、吸い込まれそうに碧い瞳と目が合って思わず目を逸らしてしまった…!
今のは誤解をさせてしまっていないか心配になったが(誤解…?何のだ…)と、自問してしまい、答えを見つける前に話の続きを始める。
「その時に現れた龍は各地へ散らばり、その力を持ってその地を繁栄にもたらしたという。世界の大国6国は、その龍が降り立った地に出来たと言われ、その地の歴史に古くから存在する国々なんだよ。」
「龍…って、今もいるんですか?」
イオリ嬢が期待を隠せないといった表情で質問してくる。
「その時に現れた6龍がその後再び現れたという話は残っていないが…。各龍の眷属は各地に存在しているよ。干渉を嫌い、人里に現れるような事はないが、1部の龍の眷属は、各種族と盟約を交わし、お互いの利を得る為にその力を貸してくれるものもいる。」
「じゃあ、龍に会えるんですか!?」
と食い気味に詰め寄られて、胸の動悸がうるさい。
「あ、あぁ。だが、龍と盟約を交わしているのは王族や各国の盟主達だ。それなりに立場がないと龍は使えない。」
「そうなんですか…。」
分かりやすくシュンとしてしまう。
「旅をしていれば、いつか出会えるかもしれないよ。」
いたたまれなくなってそう言ってみたが、私や、ランスロットならば龍を使えるのだが、今立場を明かす訳にもいかず、それ以上言葉をかけてやることは出来なかった。でも…と顔をあげてイオリ嬢が私を見る
「今のお話とても参考になりました。目指すところもはっきりしてきましたし。」
ありがとうございます。とイオリ嬢とシエ嬢が頭を下げてくれるが、
「いや、大した事はしていない。私達は明日の朝早くにはここを出なければならないが、君たちは町でしっかり備えをしてから出発するといい。」
私の言葉に、
「ええ、そうします。」
とシエ嬢も答えてくれた。
「では、そろそろ部屋に戻って休みましょうか。」
ランスロットの言葉に、一同席を立つ。
イオリ嬢とシエ嬢は、マーサに香茶を入れてもらって部屋に戻ると言って、私達は食堂で別れた。
「じゃあ、おやすみランスロット。」
ガチャリと部屋のドアを開ける
「珍しいですね。」
「…何がだ…?」
何を言わんとするかは、想像がつく。
「女性に興味を持たれるのがです。」
「おい。誤解を生むような言い方はよせ!」
慌てて否定する。
「これまで興味を持つ様な出会いが無かっただけだ。」
「ほぅ…。では、イオリ嬢には興味を持たれたと。」
カマをかけるような物言いにムッとして思わず私も反撃する。
「お前だって、シエ嬢に興味を持っていたんじゃないのか?」
「なっ!?そんな事は…!……ないとは言いませんが…。一夜の夢の様なものですよ…。」
確かに…。私達は王族と公族だ。いずれは由緒ある家柄の令嬢を妻に迎え、王族や貴族としての務めを果たさねばならない。
「そうだな…。」
ポツリと答えて、部屋に入った。
明日は、早朝に出立だ。
早く王都へもどり、自らの口で、陛下へ報告せねばならない。
ベッドを整えて、窓の外の月に目をむける。
今日は美しい満月だ。月の光のように美しい髪を思い出す。信心深いほうではないが、思わず祈りを捧げる。
せめて今宵の出会いを…夢の続きで見られるように…。