プロローグ
「えっと…。ちょっと状況を整理しましょう…か。」
2人の今の精神状態とは裏腹な、さわやかな風が2人の頬を撫でた。
今、佇んでいる場所、そこは見晴らしのいい丘の上にある大きな岩の上だった。足元の岩を見ればかなり大きな一枚岩で、直径は5mほどはあるだろうか。
綺麗な円形状で、人の手で造られたものなのか、ちょっとしたステージのようにも見える。
そんな岩の上に2人は今、両手を繋ぎあった状態で立っていた。
「どうしてこうなった…。」
2人は元々同じ職場で働く同僚だった。
史絵の方が2つ年上で、半年ほど先輩だったが、一緒に働くうちにウマが合い、伊織が退職した後もプライベートで食事をしたり買い物に行ったりする仲だ。今日は1ヶ月ぶりに呑みに行こうという事になり、史絵が気になっていたという焼き鳥屋に来ている。
今は2人差し向かいに座り、各々に好きなお酒を嗜みながら地鶏の炭火焼をつまんでいる。
「で、最近どうですか?みんな変わりないですか?」
「あ〜ー。佐藤部長の頭が…さらに薄くなった…かな?」
元職場を気にかける伊織に、苦笑いしながら史絵が答える。新入社員があーだとか、仕事させるわりに、残業代が〜とか。なかなかにお互いダークな話題をしながらも、似た年齢の2人は悩みも似てきている。
「私達ももうアラフォーだし、何か体力作りとか、一生ものの趣味とか見つけたいですよねぇ〜〜。」
「伊織にはゲームがあるじゃない。」
「まぁ、ゲームは日常っていうか…。」
話が尽き始めると、だいたいこの話題になる。
今年で伊織は36歳、史絵は38歳。お互い独身で彼氏もなく、家族からも結婚の心配もされなくなった。いや…、諦めに近いものがあるのかもしれない。
その辺は、申し訳ない気持ちもあるのだが、こればかりは縁とタイミングが合わずこの歳までおひとり様を楽しまざるをえない状況だ。程よく酒が進みそろそろ場所を変えて二次会に行こうとなり、伊織が下調べをしていたデザートカクテルを出してくれるというBarを目指す。
そしてお目当てのお店の扉を開けた…はずだったのに…。
デザートカクテルにはありつけず、2人は今、小高い丘の上にいる。