第八話 二次試験[2]
『ところで今何人くらい残っているか分かる?』
『さっき観客席に向けての放送で残り人数は100人になりましたって言ってたよ』
『…なら、闘技場の中央に向かおう』
『え!何で?私戦えないんだよ。さては…見捨てるつもり?』
『違う違う!そうじゃなくて、ローザの魔力を回復させに行くんだよ』
『え?どうやってそんなこと…』
『これを使うのさ!』
俺は左ポケットから注射器を取り出した。
『それは…魔力注射!なるほど…戦闘不能者から魔力をありったけ吸収しようって魂胆ね』
『そういうこと!よし、じゃあ行くぞ!』
俺達は闘技場の中央に走った。
しかし、闘技場の中央に近付けば近付くほど地面はえぐり削られていた。もはや誰を狙ってるのかすら分からない弓矢や魔術詠唱。防御しながら進まなければ流れの攻撃に当たって致命傷を受けかねない。
きっとこの中央部分で戦っている奴らは生き残ることよりも力量を試すことを優先してるな。
それゆえに強さと激しさは段違いか。
『エレン!戦闘不能者一人見つけたよー』
俺の後ろに隠れていたローザがさらに中央の方を指差しそう言った。
『よし!向かうぞ』
俺はもう一本の剣を取り出し、防御の体勢を固めた。
くそっ!この状況を知っていたら…
『そこ!あの倒れてる人』
後悔なんてする暇もないようにお目当ては見つかった。
鉄の鎧を装備したその体は無傷。しかし、首元に二本の針。
恐らくはこれで意識を失った類だろう。
俺はさっきの注射器を取り出し、倒れている彼の左手首にそっと当てた。
『え?それって刺さないの?』
『通常の注射は血液を採取するために血管に通す必要があるけど、魔力注射はその部分から魔力を気化させ採取するんだ。ただ、無尽蔵に魔力を採ることができるから調整を間違えると殺してしまう可能性もあるけどね』
『へぇー、エレンって知識問題最下位の割には色んな事知ってるよね~』
『うるさい!それよりも今採取し終わったからこの注射器左手首に当てて』
『これでいいの?』
『うん、10秒くらい当てたらここを脱出しよう。危険すぎる!』
注射している間に攻撃されなかった事が幸いだった。
俺達は戦闘不能者か何かと勘違いされたんだろう。
何しろ空気すら荒れ狂っていて視認することすら難しいはずだから。
『永久なる永劫を彷徨いし風の神よ』
突然、極めて近距離から魔術詠唱が聞こえた。
この魔術文法は風、そして広範囲!?
高い消費魔力を伴うはずだが正気か?
『ローザ、急いでここを抜けるぞ』
俺はローザを抱えて第七ゲートの方に急いだ。
『今この場に於いて大地に襲来…』
ヤバい、来る!声は途中で聞こえなくなった。
その途端、爆発的な魔力を感じとった。
頭上にはまるでハリケーンのような風の嵐。
俺やローザ、受験者達もろとも宙に浮き、魔術は激発した。
ローザは見失い、引き裂かれるような体の痛み。
二本の剣をガードに使っていたにも関わらず、
20mくらい離れた場所に放り投げられた。
『…んっ』
起き上がろうとしたその時肋骨が数本折れている感覚があった。
焦点を20mくらい先の中央に合わせると、そこには多くの倒れ込む人の姿があり、あれだけ激しかった戦闘があの一瞬で止んでいた。
はっ!さっきの戦闘不能者は…もしかして死んだ…?
もしそうなら、奴らは殺した…のか?
『うん、そうだよ。多分君の思ってる通り』
!?…俺は慌てて間合いを取った。
気配を感じさせずに近づいただと!?
正直、今試験で一番焦った瞬間だった。
『お前がさっきの術者か?』
俺は振り返ってそう問いかけた。
『そうだよ。それがどうかした?』
『さっき君の思ってる通りと言ったな、…殺したのか?』
『うん、でもルールの範囲内だよ』
『殺したって…俺の仲間は!?俺の仲間はどうなんだ?』
『君の仲間?知らないよそんなの。僕の仲間ならピンピンしてるけどね。ほら今も戦闘不能者の装備品から何か回収してるし』
奴の指差す先にはさっきの魔術で吹き飛ばされたであろう戦闘不能者と回収をしている4人の姿が見えた。
その4人とも腕利きなのは奴の仲間ってところからある程度想像ができる。これは本気でヤバいな。
目の前に居るのは俺より恐らく強く、殺す覚悟のある奴。
ルールの穴を破ってでも抹殺してくる可能性は十分にある。
俺は自分の措かれている状況がやっと理解できた気がした。




