第十三話 二次試験[7]
『これがアルトス分家の注目の新人だとしたら四大冒険者一族のパラメーターも随分と差が開いたものだな』
リアムは倒れ込むハリーに向かいを蔑むような表情をし、さらにもう一本の毒針を右ポケットから取り出し、放った。
俺とハリーの距離はおよそ5mまで迫っておきながら届かない。
その攻撃はハリーの左大腿部を襲った。
『うっ…うゎーーー!!』
どうやら手傷を負った部分に刺さったらしい。
闘技場を包む程の大声が聞こえた。
『ハリー、大丈夫か?』
ようやくハリーの下に駆け寄った俺はハリーの状態を見たが手足が痙攣すでに痙攣している。
ローザの回復魔術も魔力が足りない。
つまり、そうそうに蹴りをつけなければハリーは死ぬ。
この場合でハリーを殺したらリアムは強制失格なはず、今はそれすらも理解できない程の殺意に侵されているということか。
『また君か。見たところ傷は癒えているようだけど魔力は回復してないはず。つまり、剣用魔術はもう使えない。そんなんじゃ僕にダメージを負わせることすらできないよ』
『ああ確かにそうだ。お前は強く俺は弱い。けど、お前が憎いから俺は戦う。たとえ死んだとしてもな』
『チッ…ここには有象無象の衆しか居ないのか?なら死ねば良い』
その途端に攻めかかって来たリアムの鋭い突きが飛んできた。
続いて飛び膝蹴りと回し蹴りの連続攻撃。
しかし、俺は右手に握る剣と左手で上手く凌いだ。
それでもリアムは攻撃の手を緩めず、右と左の鋼鉄製の拳を俺の胴体目掛けて力強く振るう。
俺はまたしてもこれを全て見切り、少しの間合いを取った。
『お前、さっきとどこか変わったか?』
『俺が変わったんじゃない。必然的現象だ。確かにお前の体術はアルベルトの流派を取り込んだだけあって速い。しかし、そう何度も喰らっていれば見切ることはできるんだよ』
当たり前の見解をそのままリアムに伝えた。
『…少しはできるか。なら、これならどうだ』
リアムは手袋を外し、ポーチのような物から短剣を二本取り出した。それは余りにも短く、長さは10cm程だった。
恐らくナイフより小さいだろう。
リアムは流石のスピードで詰め寄って来ると俺の真正面から胸元や腹部を目指して短剣を振るった。
『!?…っ』
何も見えない。そう、リアムのあのスピードで短剣を振るえば、剣が小さいだけあって剣そのものを察知出来にくくする。
つまり、見えない攻撃が体を切り刻んでくるのだ。
到底太刀打ちはできない、俺は再び地に這いつくばった。
『ハハハ!本気を出したらすぐこれだ。これだから日の当たる所で生きてきた奴は悲しみや苦しみを持たぬ故に強さまでない。つまり、それがお前の限界なんだよ!』
その言葉は胸が痛くなる程とても苦しかった。
プライドや体をズタボロにされるのはどうでもいいはずなのに、
何故かその言葉は決して認められない。
むしろ、二度も悲しみや苦しみを軽々しく口にするところに心底腹が立った。所詮、一族の生き残りには分かるはずのない苦しみや痛みがあるはずなのに日の当たるところとは…ふざけるな。
強さ=悲しみや苦しみ?何故そう決めつける?
俺の経験上、悲しみや苦しみは何の役にも立たない。
だから、間違ってはいけない見解をして人を見下す奴を許すことができなかった。
『お前が何を知っているんだ?人の限界がお前に分かるのか?俺がお前に勝てないなんて誰が決めた?お前が正しいなんて誰が決めたんだよ!』
胸はただひたすらに熱く、怒りに満ちていた。
何故だろう?眼の周りまでもが熱い。しかも痛い。
それに…周囲の魔力が見える。これは本当なのか?
明らかに体にも異変を感じた。
魔力とは違う魔力が入って来るような感じで。
俺が辺りを見回すと、視界に入り込んだ観客が騒がしく見えた。
席を立ち、柵を乗り出す人ばっかしだ。
『何だよ!?それは…』
リアムまで慌てていた。
何故か今ならリアムの心理状態が手に取るように分かる。
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『リウス!あの子の周り、あれは精霊じゃないか?』
『そうかもしれない!しかしまず有り得ない話だ。精霊魔術が使えるのは精霊の御加護を受けし存在のみ、かつて使えた者は四大冒険者一族の一角、アルベルト一族の初代勇者であるリア・アルベルトのみだぞ』
『でもあれはどう見たって精霊じゃないか!』
『…仮にだ。仮にその説が本当だとするならあの子には精霊魔力が視認できてるはずだ』
『!?…確認するか?』
『ああ、精霊の眼、精霊眼を見れるならな』
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