第十二話 二次試験[6]
『死ねー!』
抱えられて移動する俺の目で追えたのはリアムがハリーに第一撃を打ち込む瞬間だった。
リアムの手はハリーの右脇腹目掛けて完全に入った。
『ぐはっ!?…っ』
あれほどの鋼鉄製の手袋で体内に振動のように伝わったるのら恐らく耐えられたものではないだろう。
きっと臓器には相当なダメージが入っているだろう。
誰が見ても分かる程だった。
現に観客でさえ目を覆っている人もいた。
『どうした、そんなものか?』
もはや彼の目には殺意以外に何も感じられない。
リアムはそのままハリーの腹部を蹴り飛ばし、10mは吹っ飛ばした後、すかさず魔術を放った。
『アイスボルト』
何!?あいつ無詠唱魔術も使えるのか!
俺はリアムのスペックに驚愕とした。
そしてその雷をまとった氷の礫は倒れて込むハリーを襲った。
アイスボルトの影響でハリーはもちろん、ハリー周辺までもが視認できなくなり、しばし沈黙の時が続く。
俺は自分が戦っている最中に気にも留めていなかった観客の視線が妙に気になって仕方がなかった。
『勝手に勝ったつもりになってんじゃねぇよ!』
それは間違いなくハリーの声だった。
まだハリー周囲に雪煙のようなのようなものが蔓延していて視認できないが、俺はどこかほっとした。
『何!?どうやって防いだ?』
『なーに、倒れた時に剣を抜いたばっかりなだけだよ』
どうやらハリーはすんでのところで剣を防御に使ったらしい。
本当、一族の名を語るだけあってどちらも強い。
それこそ、そんじょそこらの冒険者じゃ相手にならない程だろうと俺は確信した。
『今度はこっちから行かしてもらう』
いつの間にか第五ゲートに着いていた俺はローザと同じくただただ傍観に浸っていた。
そして、動き出したハリーの動きはリアム程ではないが本当に素早い。しかし、彼の右足と左足のその両方に切り傷と出血が確認できた。
『その程度の速度か、ガッカリだ。もう終わりにしよう』
リアムは一直線に走るハリーの損傷部「脇腹」目掛けて毒針を投げた。ハリーは損傷部分に当たるという致命傷は避けたものの、放たれた二本の毒針は右腕に刺さった。
『っ…』
こうなればもう戦闘不能だろうな。
何せああいう奴の使う毒針は大抵が一瞬で体に回るよう仕掛けられているはずだから。
しかし、問題は彼を助けるかどうかだ。
もちろん俺の体は限界に等しいし、ハリーを犠牲にすれば俺達は晴れて冒険者になれる。こっちを選ぶのが妥当だろう。
…けど、ハリーは俺達を救った。
そんな人に恩を仇で返すようなマネをしたら、きっとカーソンならこう言うはずだ。「人間なんか辞めちまえ」と。
それと、目の前で戦友が死を遂げるなんか見たくない!
だからこそ、俺はハリーを助けたい!
結局はハリーに救われなければ死んでいたのだから。
『ローザ、ハリーの所に行ってくる』
『!?…エレンってバカ?』
『ああ、バカかもしれない。実際、知識の順位最下位だしね』
『はぁー、もし行くんだったら最低限傷は回復させてあげる。でも、魔力は無理だよ』
『ローザ魔力が回復したのか?』
『少しだけね。だから手を出して』
俺は右手をローザに差し出した。
すると身体中の傷が癒えていくような感じがした。
筋肉の痛みや臓器の悲鳴が一瞬で消えた。
『すご!ローザこんな魔術まで使えるのか』
『でしょ!やっぱり私ってセンスあるのよね』
『まあそれはともかくとして、これで助けに行ける!』
俺は最悪自分自身が囮になって犠牲になればいいと考えた。
まるで自分が負ける前提なように。
そうして俺はハリーの下に走り出した。