第十一話 二次試験[5]
『って!?ローザ!生きてたのか?』
『失礼ね。それより体の方は?』
『ああ、肋骨数本と左足と右手は筋肉が裂けてる。それと全身が多分傷だらけだ』
『えっ?…何をしたらそうなるの?』
『剣用魔術を使ったぐらいかなー』
ローザは唖然としていた。まさかこいつ魔術使えたんだ!?という感じだった。
『ぅあ…お二人さんはチームかな?あんな高等魔術を使うとは君も凄いね。でもね、彼はもう動けないよ。一人でどう戦うの?』
傷が思ったより浅かった。すんでのところで防御したか。
『一人っ!?何言ってんの?私ももう魔力無いんだけど…』
『えっ?』
『えっ?…』
これには俺もリアムも心底唖然とした。
わざわざ敵に好機を与え、味方の不安を扇ぐ最悪の一手だった。
『ハハハー!じゃあ体術はまともに使えないってことね。…なら、終わりですね』
剣用魔術を使っていない状態での俺はリアムのスピードが圧倒的なものに感じた。
いつの間にかその右手は眼前まで迫って、確信した。
こいつの殺気は本物だと。
『俺の獲物に手出してんじゃねぇよ!』
眼前にあったその殺気の塊は胴体ごと突如として10mくらい先に吹っ飛ばされた。
『お前は!?…ハリー!、生きてたのか?』
『今死にかけてた奴が何言ってんの?そんな事より今は共闘するしかなさそうだな』
『お知り合いなの?』
『ああ、ローザに会う前少しな』
『初めまして!ハリーと言います』
『よろしくー!ローザです』
二人に今までどこにいたのか聞く暇もなかった。
『チッ…どいつもこいつも!』
リアムの額からは浅い傷痕と出血が伴い、口振りも急変した。
『お前か、アルベルト一族本家の子は』
『あなた知ってますよ。アルトス一族の分家の中でも期待の子だと。だから今日はアルトス一族本家の方まで来場しているとか』
『なるほど…で、その手負いで俺の相手を一人でするわけね』
『一人?何言ってるの?味方と戦うに決まってるじゃん』
想像通りやっぱり所詮は口約束だったか。
俺は4人が居た位置を警戒した。
『えっ?仲間?それならもう片付けたけど?』
『バカな…おいお前達も手伝え!…手伝え!…手伝えって!』
『無駄だよ。だって本当だから。そしてその態度の変わりよう、
傲慢さが無くなり、焦ってるようにしか見えないのだが気のせいか?』
『チッ…アルトス一族の本家の子でもないお前に俺が負けると言いたいのか?…良い機会だから教えてやるよ。四大冒険者一族本家の子は皆幼い頃に追放を賭けた戦闘経験を幾度も積む。親から見放されれば最後で生き残るのは一人。…俺の6人の兄弟も今では消息すら分からない。そんな苦痛を耐え抜いてきた俺がお前達如きに負けるとでも?』
『!?…』
ハリーは一族の分家だけあって重い表情をし、ローザに関しては驚愕の顔をしていた。
しかし、自分だけはいつもと同じ顔。
だってそれは俺にとって普通の事だったから。
だから今は生き残った分際でこれ以上苦しい事があるか!と語るリアムに対しかつてない程の憤怒に包まれた。
別にリアムが生き残った存在だからとか生き残った分際で今さら兄弟を心配するなら助けてやれよ!とかでもなく、ただ知ってほしい。大切な人を失った事の辛さがどれだけのことか。
だから、平気で人を殺せるお前なんかが悲しみや苦しみを口にしてはいけないと。
リアムは崩した顔の表情を元に戻し、完全な戦闘モード。
『ローザさん、エレンを連れて逃げて。時間を稼ぐから』
『分かりました』
そうするとさっきまで戦闘にすら執着がなさそうだったあいつが俺を抱え、まるでドラゴンを見たような感じで第五ゲートを目指し走った。
『さて、始めますか』
その途端、リアムは10mはあった距離をハリーの反応速度より上回るスピードで詰めた。まるで戦闘だけに執着し、他の余計な事は一切忘れているような感じで。餌を前にする獣のように、圧倒的な迫力だった。