第一話 熾烈な過去
幼い頃、栄誉ある四大冒険者一族の一角、アルベルト一族に捨てられた俺は一人の勇者に拾われ、生活を共にした。
だから、父親的存在の勇者の死は悔やんでも悔やみきれない出来事だった。
ーーーーーーーーーーー
『ノア・カーソンは秘境の探索地にて旧帝国魔導師団第一級部隊と交戦、死亡が確認されました。御冥福をお祈りします』
と一通の書面で送られて来た。
余りにも簡易的な知らせにあれだけ泣かされた日の事は一年たった今でも夢に出てくる。
それでも俺がダークサイドに落ちなかったのは、父さんが完璧な人格者だったことが大きいと思う。
だから俺は復讐的な感情を持たず、ただただ知ろうと思った。
冒険者から勇者になった父さんの凄さを。
単純に言うと、父さんに憧れたんだ!
だから俺の夢は《勇者の父を越えることだ》
ーーーーー明け方
『…っう……』
久し振りだな、昔の夢を見たのは。それも冒険者選抜試験の日、何かの嫌がらせのような気がするな。
『さてとっ…』
俺はちゃっちゃっか身支度を始めた。
今日俺は決意した事を果たすために旧の先駆けとして、旧帝国魔導師団の侵攻領域に最も近い冒険者の街である《フラメル》に向かうのだ。
ギルドでの冒険者選抜試験は9時から始まる。
だがその前に《フラメル》の街で借りる予定の新居に向かい、所有者登録を済まさなければならない。
つまり、絶賛遅刻するかもって時だ。
ーーーーーーーーーーー
朝食を抜き、何とか予定通りに出発できた俺は家の前で深々と一礼をした。
『父さん、行ってきます』
俺の住んでいる所は近隣の住民なんて絶対に居らず、辺りには小麦畑や森林しか見当たらないくらいの田舎。傍から見れば寂しい絵だ。
俺は頭を上げ、装備の着け忘れがないか確認した。
全身は必要最低限の父と似た軽装メイン。
修行中に二刀流が使えるようになったため、剣は2つ持ち歩いている。
一つは父さんとの修行の時からずっと使っている剣。
一つは父さんの形見である鮮緑色の剣。
これは遺言で譲り受けた分けではないが、父の戦ってきた重みを知るために自己満で装備品に選んだ。
『よし、これで負けたら(試験に)来年まで倍の修行を積もう』
俺は父さんの剣と努力を積み重ねた剣に向かって宣言し、敢えて自分にプレッシャーをかけた。
そして俺は二本の剣を後ろにクロスするように差し、出立した。