デート。
由記とミドリのふたりのデートはこんな感じ。
「・・・・・・」
相方が終始超不機嫌。
デートの始まりは上機嫌だったのに。
久々のデートなのにこれじゃあ楽しくも無い。
売れっ子モデルは化粧もしなくても目立つ。
ミドリは基本的に化粧は嫌いで、家に帰ってきたら速攻落とす。
プライベートで外出する時も化粧に時間をかけない、私は人に見られるんだからと言うけれど本人はどこ吹く風で
『幻滅されて、仕事が減ったらその時はその時でしょ。』と言い放つ。
まあ、基本がいいから。
私は一緒に街を歩いているミドリを横目に見る。
もうずっと見ているのに見飽きないというのは【美人は三日で飽きる】ことわざは嘘なのかと思わせた。
私自身の贔屓目もあるとは思うけれど。
「なに?」
不機嫌を声に出してミドリは私を見た。
「見られるのは宿命でしょ、仕方が無いじゃない。」
「わかってる、でもね、写メを撮られるのがたまらなくイヤ。」
表情は他人には不機嫌とはわからない、けれど近い人間には彼女の機嫌が悪い事は分かる。
街行く人に顔を知られるとほぼ80%以上の人はミドリを写真に納めようとする。
それは仕方が無い事だと思うのだけれど、撮られる本人にしてみれば気分は良くないだろう。
何か自分が珍獣にでもなったような感覚なのだろうなと思う。
「じゃあ、ゆっくりできるところに行く?」
「え?」
買い物はなんとか午前中に終えたから用事という用事はない。
視線が気になるなら他人の視線が別の方に向かう場所へ行こうと誘った。
「はい、チケット。」
「うん・・・。」
私は自販機でチケットを買った、企画展は千円以上かかるけれど通常展示物は安くで見られる。
行き先は東京国立博物館。
展示物・収蔵物の質においては国内の博物館の頂点に立つ。
入り口でチケットを見せて中に入る。
「ここなの?」
「ここ、静かでしょ?」
「あっちに人が行ってるけど。」
入ってすぐに左に人が流れている、現在14時過ぎたのにまだ人が途切れない。
「あれは平成館の企画展、あっちはいつも人が多いよ。うちらはこっち。」
私は右を指差す。
東洋館だ、左奥は平成館だけれど入ってすぐの左は日本館。
日本館は特徴的なモダンな建物で入り口に緑のライオンが居る、以前は開いている日が少なかったのだけれど今は開いている日を結構見かける。
本館もいかにも日本的な形で趣があって私は好きだ、あまりにも大きいので写真に納めきれないのが少し残念。
「ミドリは来た事ない?」
「無いかな・・・小学生の頃から仕事してたから遠足とか、修学旅行だって行けなかったから。」
それは残念な幼少時代だわ(笑)。
「興味ない?」
「歴史は好きよ。」
「それは良かった、興味がなくてミドリがさらに機嫌が悪くなったらどうしようかと思った。」
「大丈夫、大丈夫。ここには私に携帯を向けるような人は居なさそうだし。」
企画展を見てからの人がちらほらしていたが今の時間はもう少ない方だった。
基本的にこういう場所は写真撮影は禁止なので心配はしていない、それに展示物を見に来ているのでミドリには街を歩く人より興味薄のようだと踏んでいた。
「由記は良く来るの?」
「時々ね。」
「一人で?」
誰と来るというのか、私は笑う。
「安心して、ひとりだから。」
「違うわよ、心配なんかしてないもの。お友達とかと来るのかと思ったの。」
「残念ながら、この良さを共有できる友人があまり居ないもので。」
特別展なら興味で一緒に来るという人はいるけれど、なかなかこういうものを日常的に見に来ようといってくれる人は少なかった。
国宝や重文クラスがたくさん展示してあるのにね。
「じゃあ、案内をお任せしてもいい?」
「もちろん。」
時間が許す限りガンガン案内しますよ。
「・・・コレだけ人が少ないなら、腕を組んでもいいわよね?」
「するの?」
館内は展示物の保護の為に照明が調整してあり薄暗い。
「普通でしょ? 普通にしてれば何も言わないと思うけど。」
まあ、男同士が腕を組むわけじゃないし。
時々、母娘で展示品を見ているのは見かけるから大丈夫かな。
「デートだし。」
そう言われると断る事も出来ない。
「・・・デートだし。」
「そう、堂々と腕組めるからいいわね。」
嬉々としているミドリ、機嫌は直ったようだった。
「じゃあ、タイムスリップと行きましょうか。」
「レッツ、ゴー。」
我々はゆっくりするのも忘れて展示品を見るべく端から回りはじめた。
時間はあっという間に過ぎるもので(まあ入館も遅かったのだけれど)退館を促されてしまった。
良く見るとまわりに人が居ない(笑)。
「すみません。」
学芸員の方に頭を下げて正面玄関を出た。
あ、しまったなグッツを買い忘れた・・・・。
「また来ればいいじゃない、面白かったからまた来たいかも。」
がっくり肩を落としている私にミドリは言う。
「まあね。」
いつでも来られるけど、今日という日は今日しかない。
「説明してくれる由記、ちょっとカッコよかったなー」
外に出ると夜風が吹いていて寒い、ミドリは身体を寄せて言う。
「そう?」
「インテリっぽくて。」
「インテリ? もっといい表現ないの?」
なんかこう、もっとしっくりくるような表現であり、褒め言葉。
「ごめんなさいねッ、語録が乏しくて。」
「期待はしてないから。」
「あ、言ったな。」
ボスッ!
不意にお腹に軽くパンチを受けた。
「痛いって。」
ボスボスボスボスボス・・・・。
おい、おい、おいー。
「明日から、また仕事かーぁ。」
私に身体を預けてミドリは言う。
「大好きな仕事じゃない。」
「そうなんだけど、仕事の楽しさと由記と居る時の楽しさって別物なの。」
公園の中央にある噴水の横を歩く、ライトアップがされていて噴水が吹き上がるたびに綺麗に光った。
「1日仕事の終わりは、次の仕事への期待と予感があって気力が漲るんだけど。由記との1日の終わりはなんだかしんみりしちゃう。」
「次が無いわけじゃないのに、しんみり? 一緒に家に帰るのに?」
「そ、一緒に帰るのにね。どうしてかな?」
「感傷的になるってことは繊細ってことじゃない。」
日々を淡々と生きてるんじゃなくて、きちんと一生懸命生きてるんだと思う。
長く一緒に居るとそんな初々しい感情はなくなってくることが多いけど、そう感じることができるというのはすばらしい感性の持ち主なんじゃないのかな。
「繊細ねぇ、意外と図太いのよ私。」
「それも知ってる。」
思い当たって私は笑った。
「それも含めて、私はミドリが好きだけど。」
「由記ってそういう事をさらりと言うのね。」
「気に入らない?」
「ううん、私は由記のそういうところが好きかな。」
照れているのかミドリは私の顔を見ないで言う。
「今まで色んな人に好きって言われたけど、由記の”好き”が一番気持がいい。」
気持がいいって・・・はじめて言われたよ。
”好き”が嬉しいんじゃないんだ?(爆)
「気持がいいって?」
「うん、耳にスッと入って来て私の心臓をぎゅっと掴むのよ。」
それって、気持いいの? ぎゅっと掴むっという表現だと気持いいとは少し離れるような気が。
「由記の言葉は私の心に素直に入ってくるの。」
嘘は言ってない。
好きなのは本当だし、いつも本心から言っている。
「じゃあ、何度でも言ってあげよう。」
「それはイヤ。」
「なによ、それ。」
「あまり言い過ぎると、磨り減っちゃうでしょ?」
真面目に言ってるのかな、ミドリ。
「好きが?」
「そう。」
そんな柔な感情じゃないんだけど・・・な。
”好き”を言い重ねる事で自分の中で認識して、更にミドリを好きな事を実感しているのに。
「そんなわけないじゃない、言う度に増してる。」
「・・・ほんとに?」
信じてもらえないのは少し悲しいぞ、私としては。
「ほんとに。」
私は立ち止まってミドリを抱きしめた。
暗がりで顔がはっきり見えないと思うから、他人の目は気にしない。
周りのカップルだって自分達のことしか考えていないだろうし。
「由記・・・見られてる。」
めずらしく、ミドリが抵抗した。
「見られていてもいい。」
「由記。」
「私の言う事、信じられない?」
「うううん・・・」
身体を少し離してうつむくミドリの顔を両手で掴み上げる。
「私は、ミドリが好きだよ。」
いつもベッドの中でも言ってるのに(笑)。
「好きすぎて、困るくらい。」
本当に困る、強いヤキモチは焼かないけどミドリが他の人に親しく話しかけているのを見たりすると心臓が締め付けられた。
それに・・・好きと言われて反応するミドリは私を扇情し、理性を失わせる。
「・・・わたし、だって・・・」
「好き?」
「好き・・・」
感情が高ぶり、ミドリを欲する気持が強く湧き上がった。
場所は関係ない、けれど・・・公的秩序というものがある。
私は唇を重ねるだけに押し留めた。
ただ、何度も感情の波が途切れるまで。




