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はじまり。

私の同居人は超低血圧だ。

寝起きがかなり悪い、寝つきも悪いのだけれど。

起きない時は起こしてというくせに起きない、まったく起きないのだ。

 今朝も朝10時から仕事だという同居人を起こすのだが例の如く起きる気配は無い。

仕方が無いのでとりあえず準備だけはしてやる、ご飯だけだけど。

支度は自分でやらせる、人の手を借りてするものでもないのだ。

 朝ご飯と言っても特製のお茶漬けと特製ジュースだけ。

まあ、多忙な都会人にはスピード重視の朝ごはん。


 寝室で彼女の携帯が鳴るのが聞こえた。

私はその音を準備をしながら聞いている、あんだけの大音量なのだ起きない方がおかしい。

早く起きろ、早く起きろと思うけれど携帯は鳴りっぱなし。

よくあんな大きな音が耳元で鳴っていても気にならないものと思う。

時間も徐々に無くなってきている。

私は溜息をついて、朝食の準備を中断した。

彼女の寝ているベッドに近づいた、携帯は布団から出ている彼女の手に握られているがまだ鳴り止まない。

 これは、ひどい。

あまりの寝起きの悪さに苦笑する。

物事には限度というものがあるけれど、これは度を越えてひどい。

相手先の人間を不憫に思い私は彼女の手から携帯を抜き取った。

「はい,白木の携帯です。」

彼女の名前は白木 ミドリだった、とりあえず向こうの相手がびっくりしないように言う。

「ミドリの?」

やはり一瞬、間が出来た。

「もしかして、広瀬さん?」

私の名前が呼ばれる、この状態ですぐ私の名前が出てくるのは数人しか居ない。

「そうです、ミドリはまだ寝てます。すぐに起こしますから・・・」

「いいわ、寝かせておいて。」

予想外の言葉が耳に聞こえた。

寝ていていいって?

「今日の仕事は諸事情でスポンサーから延期のお達しが来たから延期だって伝えておいてくれないかしら?

広瀬さん。」

「延期ですか。」

「そう、久しぶりの休暇だわ。今日はたくさん眠らせてあげて頂戴。」

携帯の相手はミドリのマネージャーの雑賀さん、有能マネージャーでミドリとは付き合いが長い。

ちなみにミドリの職業はモデルだったりするのであるけれど。

「分かりました。」

私は雑賀さんが切るのを待ってから携帯の通話を切った。


休みか。


人気の売れっ子モデルは休みが少なかった、多すぎる仕事には愚痴は言わないし文句も言わずにこなしている。

”好きだから”と言って笑うけれど好きでもこなせる限度というものがある、それにこの細い身体のどこにそんな

バイタリティがあるのかと日ごろ不思議に思っていた。

「んん・・・」

ベッドを背にしながら話していた後ろでミドリの声がした。

起きるタイミングがチト遅い。

「いま、なんじ?」

子供のような言い方、もう少ししゃきっとできないものか。

いつもはこんな風ではないのだけれど、私と二人きりの時はこんな調子だった。

「8時すぎ。」

「・・・・8じ・・・?」

少しためができる、次に出てくる言葉はわかりそうなものだけど。

「8時!?」

「そう、8時。」

「どうして起こしてくれなかったの?!」

一気に起きたようで、悲鳴のような声を上げるミドリ。

私は肩をすくめて携帯を渡す。

「あ。」

「起こしたし、携帯のアラームも鳴ってた。でもミドリは起きなかったけど?」

「あー、あー、あー。」

自分でも分かったようで、顔を赤くして頷く。

「ごめん。」

「ここまで寝起きが悪い人は初めて。」

「すみません・・・」

バツが悪そうに頭をかく。

「雑賀さんから電話で、今日の仕事は延期だって。」

「えっ?!」

ミドリの表情がパッと明るくなる、仕事が無いと知って嬉しいらしい。

「・・・そう、お休み。」

彼女はぱたりと掛け布団に横になった。

「ご飯、用意したけど必要ないね。寝てていいよ。」

「頼んでたヤツ?」

「都会人的スピード朝メシ。」

「の、わりに”ふく茶漬け”で豪華な朝メシね。」

「食べる? それとも寝てる?」

布団に横になり少し考えていた。

「由記は仕事なの?」

「いきなり脈略の無い質問ね。」

「いいから、仕事なの?」

「夜のバイトはあるけど。」

私は日中は印刷所の正社員、夜は高級ホテルのバーテンダーのアルバイトをこなしている。

今日は丁度、会社の創立記念日で休みだった。

「夜だけ?」

確認するように言う、ミドリは何が言いたいのだろう?

そして、彼女は何かを思いついたようにいたずらな笑みを浮かべた。



 寝起きは悪かったくせに一旦起きるとあのスローアクションが嘘のような動きをするミドリ。

『久しぶりのお休みなんだし、いつも時間が合わないんだからこの時間を大事にしないと。』

そう笑って言ったその後、ミドリは私を手招きした。

私には彼女が何をしたいのか察していたけどせっかくの休み、休養に使うのが筋なのではないかと思い進言する。

「雑賀さんは今日はたくさん眠らせてあげてだって言われてる。」

「雑賀さんは、心配性だから。」

私と雑賀さんの心配なぞ気にしていないようでぽんぽんと布団を叩き、私にベッドに座れという。

諦めの溜息をついて私は座った。

食卓には食べる人を待つ、作りかけのふく茶漬けがある。

「ミドリ、お茶漬け・・・」

私に伸ばされる腕。

「お茶漬けなんて後で食べるから、そんなの。」

そんなの呼ばわりとは・・・・かわいそうに”ふく茶漬け”。

「こんな朝から一緒に居られることなんて皆無なのよ?」

「まあ、そうだけど。」

顔が近づく。

「由記は、私としたくない?」

ストレートな(苦笑)。

ミドリは物事をはっきりと言うタイプである、しかしちゃんと我慢すべきところは我慢する。

そこら辺の切り替えがうまいので他人からは嫌われずにいた。

 モデルだけあって寝起きとはいえ容姿は端麗、すこしばかり乱れているパジャマの合わせ目から覗く胸には誘われるものがある。

「・・・したい。」

思わず本音がぽろり。

出るだろ、普通! ってひとりつっこんでみた。

「でしょ? 私も由記としたいの、夜まで抱いてね♪」

それは・・・ちょっと無理、と言う間もなく私はミドリに唇を奪われた。

「んんー!」

どっさりと布団に押し倒されて息つくひまもなくキスの嵐をお見舞いされる。

「ちょ・・・」

「黙って。ね?」

ね?って・・・ごそごそと人の服の間から手を入れてるし!

これがさっきまで寝ていた人間なの?!

「昨日もおとといも早く帰って来たのに疲れちゃってまともなスキンシップもなかったでしょ? 私たち。」

これがまともか?とも思う。

ミドリの唇が私の首筋を上へとなぞった、感じるというよりどちらかというとくすぐったい。

いつもそう、そう言うとミドリは怒るけど。

彼女は私が少し笑ったので愛撫を止めて私の顔を見た。

「なに?」

「ネコがじゃれついてきているよう。」

「ひどい、由記。」

だって悪いけど全然、その気にならないし。

むしろ微笑ましいという感がある。

「ミドリの愛撫にはエロが無い。」

「由記、下品。」

びしっと額を人差し指で弾かれた。

 エロは大事だよ、大事。

「じゃあ、私がお手本を・・・。」

ミドリを肩に手を回して自分の胸に引き寄せ、身体を入れ替えてベッドに引き倒した。

「やる気の由記って素敵♪」

仰向けに私を見上げるミドリが変なことを言う。

「・・・茶化さないの。」

「茶化してない、ない。やっぱり由記にしてもらう方が好き。」

首にミドリの手が巻かれ、引き寄せられた。

「好き?」

「うん、好きよ。由記の全部。」

くちびるが触れる。

先ほどのキスの嵐の時とは大分種類が違うキスだった。

「私が、好き?」

「うん。でも、そうだなあ・・・仕事が一番だからその次。」

・・・ちょっと我慢ならない一言じゃないの(笑)。

今度は私がミドリのパジャマの裾から手を入れて、素肌を撫でる。

肌に触れた瞬間、彼女はビクリと身体を震わせた。

ミドリは触れられると敏感に反応する、産毛を逆立て、とり肌を立てるのだ。

「ちょっと、やける。」

「由記にヤキモチをやかれるのって快感。」

「S気があるんだ?」

耳の裏にくちびるを寄せそのまま、うなじ近くを舐めた。

「んっ」

耳元に囁いたわけでもないのに肩をすくめる。

すくめると同時に私の身体もぎゅっとミドリに強く引き寄せられた。

その行動で身体が密着し、パジャマ越しに反応する二つの突起を感じることに。

「立ってる。」

「もう・・・言わないでよ、そんなこと。」

恥ずかしがって顔をそむけるミドリは可愛いいと思う。

もっと可愛い部分を見たいという思いも湧き上がってきて撫でる手は妖しく動いた。



PM:18:30。

私は夜のアルバイトの支度を終わらせた。

制服は向こうで支給なのでこちらから着て行くことはないが一応ホテル内なのでカジュアル過ぎる服装は厳禁。

 ミドリ、まだ寝てるかな?

仕事が終わるのが深夜になるため、夕飯は一緒に食べられないので夕飯は作っておいてある。

私は彼女の寝室を覗いた。

ナイトテーブルの上でほのかに調光ライトが光っているだけで何の音もしない。

寝息が聞こえないのでどうやら布団を被っているようだ。

「由記。」

開けた扉を閉めようとしたら名前を呼ばれた。

「起きてるの?」

「うん。」

私はベッドまで歩く。

とりあえず、顔を見てから出かけるのが日課だけど。

今日は見ないほうがいいかなって思ったから見ないで行こうかと思っていた。

布団を覗くと少しお疲れ気味な感じのミドリが現れた。

「ごめん、大丈夫?」

半分以上私のせいなので謝る。

「大丈夫じゃない。」

恨めし気にぼそりと。

自分でしたいって言ったからこういう結果になったんだと思うんだけど、とは思いながらも口には出さなかった。

度を越しちゃった感もあるし。

 あんまりミドリが可愛かったから、私の中の欲望がどんどん増幅していってついには抑えきれなくなってごめんねーと謝る結果になったわけだけど。

「お詫びに帰りに何か買ってくるから何がいい?」

「いらない。」

あらら。

すねてるのかな? でも、それにしては表情はやわらかい。

「早く、帰ってきて。」

「お。」

「・・・何よ。」

「予想外のお言葉。」

早く帰ってきて、といわれるとは思わなかった。

むしろ逆に帰ってくるな!って言われると思っていたし。

「別に予想外じゃないでしょ、恋人としては早く帰ってきて欲しいものじゃないの?」

「今日、初めて耳にする言葉だから予想外だった。」

「そうだった?」

「そうだよ、初めてミドリから聞く。」

「そうだったかなあ。」

布団を口のところまで被って首をかしげる。

そうだよ、初めて聞く。

『いってらっしゃい』はいつも私を送り出す言葉だったけど、『早く、帰ってきて』は無かった。

「あんなにいじめたのに、嬉しいね。そんなに思ってくれてるなんて。」

思わず、頬の筋肉も緩む。

「だらしなー」

そんな私にミドリから手厳しい、反論。

「・・・わかった、なるべく早く帰ってくる。」

それが彼女の意思なら、私はその意思に沿うようにしよう。

「寄り道なしよ?」

「もちろん。」

「由記ってモテるんだから、絶対お客さんに誘われても断って。」

最後の”断って”を強調した(爆)。

「はいはい。」

「”はい”は、一回。」

「了解。それよりミドリ、行って来ますのキスはする?」

私は掛け布団をずらして言った。

「いい、お帰りなさいのキスをするから。」

お帰りなさいの方か、どちらもしたいんだけどな・・・。

そんな視線を送ったらミドリが視線を反らした。

 してくれなさそう。

仕方が無いのできびすを返してドアに向かった。

ドアノブに手をかけた時にまた再び声が掛かった。

「由記。」

「なに?」

「かっこいい♪」

ビシッと親指を立ててミドリが言っていた。

「なにが?」

私はわけが分からず苦笑するしかない。

「カッコ。惚れ直しちゃう。」

カッコ。

この格好ね・・・そう言われて自分の服装をちょっと見直してしまう。

ミドリの仕事中にくらべれば全然だと思うけど。

一応、ブランドのスーツ。

私にしたら格好は気にしないのだけれど仕事に行くのに困るので着ている。

モデルのミドリに言われるんだからスーツに着られているわけではないのだろう。

「ありがと。」

私はウインクをして部屋を出た。

出際ぎりぎりにまた『早く帰って来てね』とミドリが言ったのを聞いた。

 何となく照れくさいけれど今晩は気分良く、出勤できそうである。


後先考えずに投稿していまいました(笑)。

一応、自分の中では作品を完結させるつもりです。連載とはいえ短いものとなるかとは思いますがほんの少しでも興味を持って頂ければ幸いです。

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