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「……兄貴。せっかくだから俺らもやるか?」


 イブさんもガイアルの家に泊まることになった。

 せっかくなのでエニフ家当主に挨拶を、とも思ったけど、ガイアルいわく必要ないとのことだ。


 姉さんはボクが泊まることに難色を示していたけど、ガイアルの言い出したことだ。

 客人としては強く出れるはずもなく、リリアさん共々、早々と屋敷へ引っ込んでしまった。


「いきなり言い出したことだけど、イブさんもよかったの?」

「ま、予想はしていたわ」


 そんな彼女の荷物は、予想していただけあって一泊できる用意が揃っていた。

 聞けば、サラさんとフローラさんも用意してあったらしい。


「え? じゃあ……ボクのは?」

「あるわけないじゃ……いえ。こちらにあります」

「それってサラさんのじゃ」

「ご心配なく。こんなこともあろうかと、です」


 でもって、渡されたのはメイド服。

 ん? これって前の時もあったような……。


「あの、やっぱりこれサラさんのじゃ」

「サイズはセシリア様の……いいえ、ハーちゃんのですよ」


 フローラさんが援護射撃をする。

 彼女が言うなら間違いない。

 間違いないけど、なんでまたメイド服?


 その疑問を尋ねる前に、二人は部屋へと引っ込んでしまった。

 着替えを用意してくれたのは助かったけど、メイド服なんて。

 やり取りをなんとも言えない顔でみていたイブさんが、やけに印象的だった。




 部屋はサラさんとフローラさん、ボクとイブさんで同室にしてもらった。


「なら、夕飯時に勝負は持ち越しかしら?」

「うん。それもどうやって姉さんに食べてもらうかだけど……やっぱりリリアさんに協力してもらうしかないのかな」


 彼女から渡されたものは食べる。

 つまり、リリアさんが取りそうなお皿に乗せる必要があるということだ。

 ……そうすると、リリアさんが食してしまうリスクもあるわけだけど、血の繋がりがない彼女とは入れ替わる心配はない。


 でも、食材はそれで足りるのかな?


「そもそもよ。セシリア派の彼女が、いくら貴方の頼みだからって聞いてくれるとは限らないわ」

「それはそうだけど」

「……手がないことも、ないけれど」


 そう言って、イブさんは自らの唇に人差し指を軽く当てる。

 ……ダメだ。さっきの出来事のせいか、視線が吸い寄せられてしまう。


「それってもしかして」

「何にしろ。フローラだっけ? あのメイドがどう仕込みをしたかにかかっているわ。今は彼女に任せましょう」


 その後はイブさんと話している間に時間が過ぎ去っていった。

 いつの間にか夕飯の時間になっていたらしい。


 呼びに来たメイドさんに連れられ、この屋敷の食事へと向かう。

 案内された場所には、姉さんたちやクロイスが既に揃っていた。


「昼は豪勢にしたからな。夜は少なめだが勘弁してほしい」

「いいえ。急な宿泊になりましたが、対応に感謝ですわ」

「それに俺もあまり腹が減っていない。誰かに気絶させられたおかげだろうか?」


 露骨に責めてくるので、ボクはいち早く視線をそらす。

 口笛は吹けないけど、とぼけることはできる。


「おほほほほ。サラさんやフローラさんはいらっしゃらないですね。気づけばローレンスさんの姿も見えませんわ」

「ごめん姉さ……ハヤト。笑うならもっと自然にしてよ。そのままだと気持ち悪いよ」

「きもっ!」


 驚いて周りを見渡すと、サッと顔をそらされる。

 こちらをみたままなのは、姉さんとリリアさんくらいだ。


「逆に面白……いえ、真面目な彼には失礼ね」

「俺は何も見ていない」

「まずはあの顔を教育……いや、元に戻るなら必要ないか。しかし……」

「そんなお姉様も素敵ですわ」


 唯一リリアさんのみが肯定派らしいけど、そんなことを言われるとはショックだ。

 呆然としている間にも、並べられた料理は冷めていく。

 食事を開始する皆とは別に、まだ動かないボクを見かねてか口元に料理が差し出された。


「ほら、食べなさい」

「え?」


 気づけば、イブさんが目の前にスプーンを差し出している。

 これ、あーんというやつでは?


「ちょ、ちょっと待って! そんな真似」

「目の前を見てみなさい」

「前?」


 そこには、仲睦まじくお互いに食べさす姉さんとリリアさんの姿が!

 え、ちょっと待って。


「ちょ、ガイアルさん? あれは咎めないのでしょうか?」

「ああ。慣れた」

「慣れたってことは」

「慣れって、怖いわね」


 イブさんまでもが驚いている。

 しかし、差し出されたスプーンはそのままだ。


「で、コレは何かな?」

「食べないのかしら。これは、貴方の好物でしょ?」


 言われてみても、このキノコのスープ? のようなものは初めてみる。

 好物かどうか言われても、食べたことないのだから……と考えていると、イブさんの視線がこっちを向いていないことに気づく。


 視線の先には姉さん。

 彼女もまた、スープを同じようにスプーンで運んでいる。

 もしかして。


 視線で確認を取る。彼女はうんと頷いた。


「ありがとう……うん、おいし」

「そう。よかったわ。じゃ、食べさせて?」

「え? ……わかった」


 姉さんと同じものを食べる。

 フローラさんの料理がどれかわからないけど、同じものを食べていれば間違いはないはずだ。

 でも、イブさんに食べさせるのに何の関係が?


 ま、まあ……そのほうが自然に見えるよね?


 そうして、ボクとイブさん、姉さんとリリアさんはお互いに食べさすという桃色空間を展開する。

 残されたのはガイアルとクロイスだ。


「……兄貴。せっかくだから俺らもやるか?」

「おいやめろ。ただでさえ疑われているのに、俺をそっちの道へ引きずり込むな」


 ……イブさんはキラキラした瞳を向けていたけど、ボクは何も聞かなかったことにした。




 そうして、姉さんとは会話もなく食事が終わる。

 向こうは最後まで警戒していたようだけど、リリアさんが関わるときだけは警戒を解いていた。

 ……せめて、フローラさんが上手くやってくれていたら助かるのだけど。


 湯浴みも済んだ後、ボクの部屋には四人のメイドがいた。


 二人はまだいい。ボクのメイド服も……この後すぐに寝巻きへと着替えたら良い。

 ただ、ボクと同室の彼女までがメイドなのは、いかがなことで?

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