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「こんなので、ハヤトに勝利を捧げられるか!」

 

 合図と共に、二人のうち片方が駆け出す。

 先に動いたのはガイアルだった。


「ハァッ!」


 掛け声と同時に一閃。

 まず身体の中心を狙った横薙ぎは、難なくクロイスに防がれる。

 しかし、勢いまでは殺しきれなかったらしい。

 クロイスは後ろへと一歩下がって、何とか踏みとどまった。


「くっぅ、はぁ!」

「……フッ、よく持ちこたえたな」


 その言葉を合図に、ガイアルがクロイスの剣を弾き、お互いに距離を取る。

 どうやら最初の一撃は失敗したらしい。


「俺も鍛えたからな」

「じゃあ、これはどうだ!」


 ガイアルは少し身を屈め、全身をバネのようにして飛びかかる。

 踏ん張りが効かない攻撃ではあるけど、その分速度が上昇し、軌道も予想がしにくい。

 クロイスは剣が来るだろう軌道に目を寄せていたけど、全体を見ていたボクはあっ! と声を上げた。


「危ないっ!」

「これでっ、ぐぅう!!」

「ふっ、まずは一撃……か」


 飛びかかったガイアルは、あろうことかクロイスの場所まで届かなかった。

 予め距離を測っていたのだろう。

 手にした剣は地面を抉り、代わりに足払いが飛び出す。

 それも、剣の軌道とはズレた位置にだ。


 それにクロイスが反応できるわけもなく、一撃をもろに食らって距離を取る。


「くっ……追撃は無しか。よほど舐められているようだ」

「そんなにすぐ終わらせても、料理はこないからな」


 蹴りも良いの? といった目でローレンスさんを見るけど、彼は何も言わない。

 鎧の色が変色したということは、アレも有効打なのだろう。

 残り二回。ボクはクロイスが勝つように祈ることしかできない。


 やがて打ち合いは開始される。

 右側から襲いかかろうとしたガイアルに対して、クロイスは身を翻して剣を躱す。

 もちろん、遠心力を利用しての一撃も忘れなかったけど、ガイアルも瞬時に反応しそれを迎え撃つ。

 体勢を崩したクロイスに、すかさず次の攻撃が襲いかかる。


「もらった!」

「甘いわっ!」


 ……その攻撃は、予想されていたらしい。

 クロイスはそれを手で受け止め、ガイアルの体ごと突きで押し出した。


 ガイアルに有効打。と同時に、二人の距離が離れる。


「ぐはっ、チィ……そこで突きがくるか」

「そうでもしないと、受け止めた剣に潰されそうだったからな」


 まだ手がジンジンしていることだろう。木刀を手で受け止めるなんて正気ではない。

 ガイアルもそれをわかっているからこそ、今度はクロイスの左側を重点的に狙い始めた。


「止めれるもんなら、やってみせろォ!」

「言われなくてもなぁ!」


 その展開も予想できていたのだろう。弱点を狙うのは定石だ。

 それをローレンスさんが教えないわけがない。

 あえて左側を隙だらけに見せつつ、クロイスはそのまま両手持ちに切り替えて応戦する。

 そもそも、真剣の重さを片手で支えられる方が異常なのだ。蹴りも警戒しなければいけない今、踏ん張りが効く効かないは重要だ。


 そして、力負けしてよろけたクロイスに一撃が入る。


「次で終わりだ!」

「チィッ!」


 二回目の攻撃を受けたクロイスには後がない。

 勝利が目前になったことで、ガイアルもすぐに追撃をしたが……転がることによって躱された。

 そして、それを逃がすガイアルでもない。


「無様に転がって、蹴りでも受けやがれ!」

「ぐっ!」

「クロイス!!」


 勝負が決まった……かに思われたけど、その蹴りは左腕でガードされる。

 しかし、上段から突き降ろされる剣も待ち受けているので、今のクロイスには躱せそうにない。


「終わりだ!」

「ハァァッ!」


 躱せない。そう思ったのは、ボクが以前のクロイスしか知らなかったせいだ。

 彼はガイアルの膝に突撃をかけると、体勢を崩したガイアルは突きの位置をほんの少しずらしてしまった。

 いつのまにか足で踏ん張りを効かせていたのも幸いした。

 革鎧に当たりはしなかったけど、代わりにクロイスの左足も負傷する。


「グハァ!」

「グッ、離せ! 剣は……あ?」


 状況がわからなかったのは、本人だけだろう。

 突きを放ったまでは良いが、クロイスが飛びかかったせいで二人とも地面に倒れた。

 その際、攻撃していた反動なのか、ガイアルの手からは……剣が、抜けていた。


 カラン。

 地面に木刀が落ちる音が、虚しく響く。


 勝負は『武器を手放したほうの負け』。

 つまり、まだ剣を手放していないクロイスの勝ちになる。


「えっと、消化不良だけどどうなるのかな?」

「両者、一旦離れて!」


 ローレンスさんの指示で二人は距離を取る。

 負傷しているクロイスに対し、汚れてはいるがガイアルはまだやれそうな雰囲気を出している。


「事前の取り決めでは、殿下の勝利となりますが……よろしいので?」

「……チッ、あともう少しってのに」

「いいわけが、あるか」

「え?」


 その言葉はクロイスから発せられた。

 どうやら彼も、勝負の結果は不満らしい。


「こんなので、ハヤトに勝利を捧げられるか!」

「ちょ、ボクとしては勝ってくれたら何でもいいのだけど」

「……ああ。そうだ兄貴、わかっているじゃないか!」

「ローレンス、続きを。一撃だ……このままどちらかが、先に有効打を与えるまで続ける。今度は剣技のみだ」

「殿下ならそういうと思っていました」

「え? ……え?」


「では、両者構えて!」


 困惑するボクとは裏腹に、イブさんや姉さんたちは盛り上がっている。

 なにこれ、ボクがおかしいのかな?


「ちょ、二人ともやめてよ!」

「うるさい。意地があんだよ、男の子にはなぁ!」

「ハヤト。これは俺らの真剣勝負だ。邪魔しないでくれ」


 一応、ボクのこれからもかかっているんだけど?

 そんな、玉座に座る人物の言葉は無視され、二人の勝負は再開される。


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