「両者、構えて!」
彼はボクとは目を合わせず、まずはガイアルを説得するらしい。
「父上を説得するのに苦戦してな」
「父上? それはまさか……王さ」
「俺が負けたら、俺の立場をやろう」
その意味は、ここにいた全員には理解できなかっただろう。
ガイアルさえもが『こいつ何言っているんだ?』といった目でクロイスを見ている。
「……元から王族に向いていないと言われていたんだ。兄様を補佐するにしても、俺じゃ不足だとな」
「お、おい。何をいって……」
「簡単だろ? 勝てばこのまま。負けたら身分を捨てる。親友を賭けるなら、それくらいの覚悟はしないとな」
「それって、ボクのためには身分も捨てるってこと?」
そこで初めて、クロイスと目が合う。
彼はボクの顔を見て、視線を下から上へと移動させると、深くため息をついた。
「……綺麗だ。似合っているぞ」
「あ、ありがとう。けど、男に戻るからね?」
「そうだったな。そのためにも、俺はお前に……勝つ」
その宣言を受け、ガイアルは動揺していたようだけど、すぐにキリッとした顔になる。
「ククク。そう来るか。兄貴は自分の立場を弁えているらしいな。いいぜ、やってやろうじゃないか!」
「ああ。すぐに始めようじゃないか!」
やる気マンマンな二人には悪いけど、既に料理は冷めてしまっている。
クロイスにも準備があるとかで、料理はその間に作り直すらしい。
……もったいないなあ。
「大丈夫だ。あとで使用人に全部片付けさせる」
「次の料理は少なめでお願い、ね?」
さすがにかわいそうなので、そう懇願する。
急ぎなのでサラさんも加わるみたいだけど、その際に軽くウインクされる。
まさか、このタイミングで仕込みを?
あとはどう姉さんに食べさせるかだけど……まずはクロイス、頼んだよ。
主役は揃った。
姉さんもリリアさんも、クロイスをそんな熱のこもった視線で見つめないでくれるかな? 彼あれで照れているから。
イブさんは予定調和というように通常運転だ。
さっきキスしたのに、そんな平然としていられるなんて。
そうして見つめていると、ボクの視線に気づいたらしい。
「いいのかしら? 勝ってもクロイス様にメリットがなさそうだけど」
「え、ボクはすごく嬉しいんだけど」
「そりゃあね。でもクロイス様にとっては、貴方が男に戻るし、嫌いな立場もそのままだし、もしかすると……」
いや、あのとき約束してくれた。
ボクのためにクロイスは全力で戦ってくれるはずだ。
「それも全て、クロイスに任せるよ。信じてるから」
「あらそう。じゃ、貴方は向こうね」
そうして、処刑台……じゃないや。用意された景品台へと指を差される。
あの場所にお飾りの人形として座れって? ……それで二人のやる気がでるらしいし、用意してくれた使用人にも申し訳ない。
ボクはしぶしぶ、その用意された台ヘ登ろうとして……イブさんに問いかける。
「さっき、ボクにキスしたよね。それはここまで考えて?」
「……その答えは、勝負のあとにね。いってらっしゃい」
「いじわる」
「フフ。これで不確定になったわね」
彼女はいつもそれだ。
未来を変える行動……それがどういったものか教えてくれないので、振り回されっぱなしだ。
彼女の目指す未来って、どんな未来なんだろうか。
一歩一歩、用意された椅子への階段をのぼる。
もしかして十三段あったりしないよね? と思っていたけど、十二段で終わってしまった。
そのことに安堵しつつ、高台から見える景色で現実逃避する。
「うわー、周りが一望できるよ」
「姉さーん。気分はどうかな?」
「うん、最悪」
姉さんの顔で出来る、最上級の笑顔で答える。
そんな返答をされた本人も、よかったねーと呑気に返してくる。
リリアさんは恍惚としているけど、大丈夫なのかな?
椅子の座り心地をたしかめ、何度かポフポフとしていると、クロイスとガイアルが戻ってきていた。
お互いに向かい合って、いつでも開始できる状況みたいだ。
「兄貴が目を覚ます頃には、料理も運ばれてきているだろう」
「ほざけ。お前が目を覚ます頃には、全ての料理がなくなっているだろう」
「フン、言うじゃないか」
審判役はローレンスさんだ。
ボクがやってもよかったけど、大人しく飾られてくださいと言われてしまったら仕方ない。
というか、ローレンスさんまでそんな認識だったことにショックだよ。
防具は動きを阻害しない革の鎧。打撃を与えられた箇所は変色するように特殊な薬剤が塗られているらしい。
そして扱うのも真剣ではなく、重さを真剣に似せた木刀らしい。
故に、練習用で使うものとは少し違う実戦形式だ。
「では、ルールを確認します。鎧のどこか三ヶ所に有効打を受けるか、武器を手放したほうの負け。首から上への攻撃は反則とみなします」
「鎧のない場所は?」
「何もありません。体術も、痛みつけるのも一つの戦略です」
「……ほう。良いことを聞いた」
ニヤリ。とガイアルが笑った。
しかし、クロイスもそれについては重々承知のことだろう。
「両者、構えて!」
皆が注目する中、二人は少し離れて向かい合う。
ボクは真上から見下ろす形だけど、二人のピリピリとした空気がここまで伝わってくるみたいだ。
「では、始め!」
ローレンスさんの言葉を合図に、試合は開始された。




