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「あれって処刑台だよね?」

 

 姉さんのことを考えていたせいか、すぐにガイアルの屋敷へと到着した。

 イブさんに相談しても解決策は見つからなかったし、あとはサラさんの手腕とボクの演技次第だ。


「サラさん、頼んだからね?」

「ええ。お任せください。お嬢様に食べさせるのを成功させた暁には、ハヤト様も同様に食してくださいね」

「うん。わかった」


 そうして、先に降りたイブさんに続き、ボクもイブさんに手を引かれながら降りる。

 本来はサラさんやフローラさんの役目だけど、イブさんたっての希望だったので了解した。


「……っと。ありがとう」

「いえいえ。それにしても、綺麗よ」

「……言われても嬉しくないよ」


 いくら落ち着いた色のドレスとはいえ、その服装から溢れ出る気品は抑えられない。

 イブさんが制服姿で、他がメイドというのも対照的だろう。

 すなわち、招かれた女性たちの中で一番目立ち……それは庭で準備をしていた使用人にとっても、重要人物とアピールするには充分だった。


 こちらに気づいたメイドが一人駆け寄ってくる。

 どこかで見たことある顔だけど……あの顔はまさか!


「お待ちしておりました」

「ヒィッ!」

「あら、知り合いですか? この間は、うちのお嬢様がお世話になりましたね。居候もさせていただいているようで……主人に代わりましてお礼を申し上げますわ」

「いえいえ。こちらとしても有望な新人メイド……いえ、おもちゃ……客人で楽しめましたし」


 一番にボクらに気づいたのは、かつてボクをメイドの道へ引き込んだ女性だった。

 彼女が余計なことをしなければ、自分の屋敷でメイドをすることもなかっただろうけど。

 ん? もしかして引き合わせたらまずかった?


「お嬢様のメイドの適正を見抜いたのは貴方だったのですね。ご慧眼に脱帽いたします」

「こちらでセシ……ハヤト様も養っていただいているとお聞きしたのですが、会わせていただけないでしょうか?」

「ええ。でしたら向こうの方へ……本日の段取りは手伝って頂いても構いませんか? 何しろ人手が足りなくて」


 見てみると、まだ庭の準備は終わっていないらしい。

 草刈りから始まって地面の整地とかはわかるけど、テーブルとか飲み物の用意も必要なのかな?

 すぐに決着は着くと思うけど。


「離れてもよろしいでしょうか? さすがに私達も客人というのは、旦那さまにも申し訳ありませんので」

「うん、お願い。父さんの荷も軽くなるはずだよ」

「ありがとうございます」


 そうしてフローラさんは去っていったけど、メイドさん三人で集まって何かを話しているらしい。

 何度かこちらを見て口論しているようだけど、何だろう?


 そして、去っていったばかりのフローラさんが戻ってくる。


「どうかした?」

「いえ……向こうの方から、メイドが足りないならハヤト様にも手伝ってもらえと言われまして。せっかく着飾ったのに乱すのはもったいない、と説得できたところです」

「そ、それは。ありがとう」

「ドレス、あの方も褒めてましたよ? なのでやんちゃな行動はお控えくださいね……着替えはメイド服になりますので」

「わかった。忠告ありがとうね」


 三人のメイドは今度こそ、連れ立って去っていった。

 ボクとイブさんは別の使用人にテーブルへと案内される。


「あら、貴方は向こうじゃないの?」

「……見なかったことにさせて。少なくとも今はこっちで」

「そうね。さすがにアレは、私でも恥ずかしいわ」


 イブさんが見る場所には、整地された地面とは別に階段つきの台が置かれてあった。

 高さはそこまでないけど、いかにも王様が座りますと主張するような豪華な椅子が置かれており、エニフ家当主が座るのかと思っていたけど。


 ご丁寧にも『セシリア様はあちらへ』とさっき執事さんが教えてくれた。

 ……行くよ。皆の準備が完了したらね。だからせめて、今はこっちで。


「あれって処刑台だよね?」

「貴方にとってはそうかもしれないけど、準備してくれた彼らに失礼よ。それに本物は……せめて玉座といいなさい」

「と、言われても。え、いま本物っていった?」


 それ以上イブさんは何も言わず、ボクも静かに玉座を眺める。

 テキパキと準備は進んでいるようで、待ち時間にどうぞと置かれた紅茶もすでに二杯目だ。


 そうして三杯目に突入するかといったタイミングで、後ろから聞き慣れた、そして懐かしい声をかけられた。


「そんなに飲んで大丈夫なの? お手洗いは済ませておいてね」

「……姉さん」

「お久しぶりですわ、お二人とも」


 最後に見たときとは変わらず、お互いの腕を絡ませた状態で姉さんとリリアさんは立っていた。


「あら? ここではハヤト様とお呼びしましょうか。今まで姿を眩ませていたことについて、何か言うことはなくて?」

「そうだね。これでおあいこと言いたいけど……ちゃんと言われたことは守っているから、許してほしいな」

「戻る気がないのは変わらないんだね?」

「だってこんな勝負の景品にされているんだもの。戻れって言われても嫌に決まっているよ」


 姉さんは見せつけるように、リリアさんの腕をギュッと抱く。

 それに満更でもなさそうなリリアさんの顔も……イラっとする。


「もしクロイスが勝ったら、返してもらうからね」

「どうしてそうなるのかな。僕はこの状態が……」

「ハヤト様」


 いつの間にかフローラさんが戻っていた。

 彼女は姉さんの背後から、耳元へと囁きかけたけど……いつ近づいたのか、全く気が付かなかったよ。

 それは姉さんも同様だ。


「うわっ! 何だ、フローラか。久しぶりだね」

「旦那様から、これを」

「うん? 何々…………お、おおう」

「何て書いてあったの?」

「リリア。いまからガイアルに喝を入れに行くよ。この勝負、何としてでも勝ってもらわないと!」

「は、はい! お供します!」


 そのまま二人は屋敷のほうへと駆け出していった。

 フローラさんもその後ろを追いかけていく。

 残されたボクとイブさんにはハテナが浮かぶだけだ。


「何だったんだろ」

「さあ? それにしても、主役は遅いわね」


 書かれていた内容は気になるけど、現時点でさらに気になることがある。


「クロイス……きてくれるよね」


 ボクの全てを託したクロイスが、まだこない。

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