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「父さんの後は、僕が引き継ぐから」

 

 ボクはやる気だったのだけど、姉さんはこの世の終わりといったような表情をしていた。

 勝てばいいだけなので、そこまで心配していなかったのだけど。


「あんた……いえ姉さん! どれだけ大変なことをやらかしたかわかっているの!」

「え? ただ男同士の決闘を約束しただけだけど」


 ボク達にとって、決闘はお遊びみたいなものだ。

 喧嘩をしても、殴り合いの代わりに決闘をする。そのほうが剣の鍛錬にもなるし、対人戦の動きが勉強できる。

 まるで模擬戦のようだけど、防具なしの棒きれで始める喧嘩もボクらの中では決闘に分類されるので、決闘は子供の喧嘩みたいなものだ。


「姉さん……姉さんが、だよ?」

「ほぇ?」


 その指摘に、下を見下ろしてみる。

 ハラリと落ちる金色の髪。学園指定の女子制服に包まれた身体。そしていつものボクより、ちょっぴりと細腕でサラリとした白い肌。

 それが、ボクの動きに合わせて移動する。


「え、もしかしてボ……私が、この身体で決闘を?」

「…………馬鹿ぁ!!」


 姉さんの叫びに、ボクはようやく事の重大さに気づいた。




 教室についても、こちらを見てヒソヒソと噂されるのは変わらなかった。


 男女で決闘するということは、求婚されたことに等しい。

 騎士ならともかく、貴族の女性が男性に敵うわけがないからだ。

 大抵の女性は決闘を受け入れるイコール、妻になることを認めたという結果になるわけだけど、本当に決闘する馬鹿はボクが初めてらしい。


「あの……セシリア様。噂は本当なのですか?」

「勇ましくはあるのですが、相手はガイアル様。無駄な抵抗はおやめになされては」

「聞けば、他の方を守って……今ならまだ間に合いますわ」


 名前も知らない、交流のなかった女子達が話しかけてくるけど、ボクのやることは変わらない。


「うふふ。では、私の勇姿を期待していて頂戴?」


 そういって、近寄ってくる女子を余裕の笑顔で撃退する。

 内心では結構焦っているのだけど、それをチラチラとこちらを窺っているイブさんに悟られるわけにはいかないのだ。


 そのまま放課後の時間までやり過ごそうとしたら、姉さん並に厄介な人物が勢いよくバンッ! と机を叩いた。


「キャッ!」

「……セリシア嬢。どういうことですか?」

「クロイス、様」


 気づくと、ロクに説明しなかったせいかクラス中の誰もがこちらに注目していた。

 皆、どんな経緯でそうなったのかを知りたいのだろう。


「どうもこうもありません。決闘を申し込まれましたので、受けて立つ、と言っただけですわ」

「しかし、か弱い女性である貴方が、あいつに勝てるわけが!」


 まだ言葉を続けるので、これ以上は不要をいう意味を込めて、クロイスの唇に人差し指を当てた。

 その時、周囲からキャーッ! という悲鳴が聞こえたけど、これくらい姉さんともやるし普通だよね。


「か弱いかどうかは、クロイス様が判断してくださいませ。私は守りたいのです」


 そうして、チラッとイブさんに目を向ける。

 彼女と目が合うも、いつものようにすぐ逸らされる。

 ……べつに、感謝されたかったわけじゃないけど悲しい。


 少しボーッとしていると、目の前の人物に腕を掴まれた。


「……わかった。そのだな、指を離せ」

「あっ、すみません! とにかく! 私は大丈夫ですので!」


 そう気丈に振る舞ったからか、それ以降クロイスや女子達が来ることはなかった。

 全く、姉さんもクロイスも心配しすぎなんだよ。

 たかが決闘の一つで。




 放課後。

 すみません、ボクが間違っていました。

 たかが決闘、されど決闘。


 朝の騒ぎもあってか、決闘の舞台となる講堂にはこれでもかというくらいに観客がいた。

 何故ここまで大事になったかというと、まず生徒の一人が男女間での決闘について先生に聞く。

 前例がないと興味を持った先生が他の先生に聞く。

 なら、正式な場で見本にしてしまえばどうかとの提案がでる。


 そうして、非公式ながらも先生方公認の舞台が整えられ、興味を持った生徒やガイアルという男子の美貌に惹かれた女生徒が合わさった結果がこれだ。


 既にガイアルはスタンバイしているのだけど、いかにも騎士といった格好をしていて恐縮する。

 こっちは鎧とかないから、ただの制服なんですけど!


「姉さん……本当に大丈夫なの? 今ならまだ」

「こここ、ここまで来て、逃げるなななんて!!」

「おい、お前の姉さん大丈夫かよ?」


 クロイスまでもが心配してくれるけど、答えはノーだ。

 ボクはこう、中庭でするチャンバラを想像していたのに、どうしてこうなった!


 この世の理不尽に頭を抱えていると、肩をポンと叩かれる。


「安心してよ」

「姉さ、ハヤト?」

「父さんの後は、僕が引き継ぐから」

「嫌ぁぁぁ!!」


 それってつまり、ボクは嫁に行けっていうことだよね?

 反論しようと頭を巡らせていると、対戦相手がツカツカと近づいてきた。

 どうやら、いくら待ってもボクが行かないので痺れを切らしたらしい。


「おい、さっさとしろ。それとも怖気づいたか?」

「ま、まあ……女性は身支度に時間がかかりますのよわ?」

「姉さん、言葉」

「セリシア嬢……もし不安なら、代わりに俺が」


 そこでガイアルは、初めてクロイスの存在に気づいたようだ。

 こちらを見てニヤッと笑うと、標的を変更した。


「これはこれは。お兄様ではありませんか。このような決闘にも足を運んで頂き、誠に恐縮で……」

「御託はいい。今すぐこんなことは辞めろ」

「ハハッ、なら兄貴が相手をするか? 一度も俺様に勝てたことがないお兄様よォ!」


 その言葉は、ボクや姉さん、そしてクロイスを凍りつかせた。

 同時に、拳を握りしめて震えるクロイスが目に入る。


「第一、こんな茶番なんかせずとも、俺様の勝利は確定しているんだぜ? 相手が兄貴なら、まだ観客を楽しませる余興ができるってもんだ!」

「くっ、俺もあれから……なッ!?」


 ボクは右腕を伸ばし、クロイスを静止させる。

 これ以上の戯れは必要ない。


「準備が整いました。では、参りましょうか?」


 ――クロイスを馬鹿にする奴は、許さない。

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