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「うん、いいよ。ボクの身体、クロイスに託すね」

 

 目の前で繰り広げられているはずなのに、どこか遠くの方で起こっている出来事な気がする。

 それだけボクは他人事として……他人事だったら、よかったなぁ……。


「まさか兄貴から言い出すとはな。でもいいのか?」

「何がだ」

「俺に一度も勝てたことがないだろう。兄貴の親友に見せる最後の姿が、無様に負ける姿でいいのか?」

「ちょ、そんな言い方! それに最後なんてそんなことっ!」


 あまりの言い様につい口を出してしまったけど、クロイスに片腕で制止させられた。

 どうして? という疑問も込めてクロイスの顔を見ると……彼は真剣な眼差しでガイアルと向かい合っていた。

 それこそ、ボクは黙って聞いてろと主張するように。


「最後の姿、か。はは、その通りだな」

「何?」

「俺が負けたら、ハヤ……セシリア嬢はこのままなんだろ?」

「兄貴が代わりに戦うというならな」

「確かに親友としては(・・・・・・)最後になるかもしれない。だが、勝つのは俺だ」

「フッ、大した自信だな」


 二人とも不敵に微笑んでいるけど、どうしてボクが戻れない前提で話し合っているのかな?

 男だよ? ボクも。


「いつにする? 今すぐにでもやるか?」

「いや、兄貴には時間が要るだろう。満月の前日に俺の屋敷でどうだ? ちょうど役者が揃っているのでな」

「フン。そんな舐めきって、後で後悔するなよ」


 片手を上げて去っていくガイアルに対し、クロイスはその手にノックをするかように拳を当てて返した。


 気づけば、キャーキャー騒いでいた女子たちもガイアルと共に去っていったみたいだ。

 ボクのクロイスの二人だけが、学園の前に取り残される。


 そのまま数秒が経過しただろうか……無言に耐えきれなかったのかクロイスのほうから言葉が漏れてきた。


「その……悪いな。勝手に決めて」

「本当だよ。いつの間にかボクを賭けてさ」

「その、俺が負けたらハヤトは……」

「クロイスとしては、そっちのほうが嬉しいんだよね?」


 この前そんなようなことを言われたので、ちょっとした意趣返しのつもりだった。

 だけど彼は、まるで心外とでもいうかのように驚いた顔で言い迫ってきた。


「違うッ! お前が望まない限り、それはない!」

「ひゃぁ! ご、ごめん」

「やるからには俺も全力でやる。だからハヤト……お前のこれからを左右するとはわかっているのだが」

「うん、いいよ。ボクの身体、クロイスに託すね」

「……ありがとう」


 そのままクロイスに抱き寄せられる。

 ボクも抵抗しないまま二人の身体が密着し、そしてだんだんと顔の距離が……。


「おい、お前ら学園の前で何やっているんだ。たく、今日はやけに遅刻が多いと思ったら、こんな場所でイチャつきやがって」

「のわっ!」

「ふへゃ!」

「反省文、書こうな?」


 その言葉に、二人で項垂れるしかなかった。


 先生に連行されて歩いている途中、先程の行為が思い出される。

 あの時はされるがままになっていたけど、ボクは一体何をされようと……いや、何をしようとしていた?


 あのままもし、先生が乱入しなかったら距離はゼロに近づいて……そこまで想像し、ボッと顔から火が出だ。


「どうしたセシリア? 体調でも悪いのか」

「ちちち、違います! 覗き込まないでください!」

「そうか。なら、良いが……」


 こういう時は深呼吸しよう。

 すー……はー……すー……はー……よし。


 隣のクロイスを見る。

 彼は不思議そうにチラっと視線をよこしたけど、それだけだった。


 でも、ボクの目じゃなくて、ちょっと下の方を見られていたような……胸よりは上だけど、鼻よりは下にある唇を……。


「ク、クロイス様!」

「ん、いきなりどうした?」

「めっ! ですよ」

「っっ! お、おう。わかった」

「何だ二人とも。反省文追加されたいのか?」

「滅相もございません! の、めっ! ですわ!」


 ……言い訳は苦しかったけど、それ以上詮索されることはなかった。

 しかし、提出を要求された反省文はクロイスが一枚。ボクが三枚だった。


「解せぬ。あっ、どうして私が三枚なのか、説明を要求しますわ!」

「あー……ほら、あれだ。お前は普段の行動からな? 今回もお前が唆したせいで殿下は巻き込まれたのだろう?」

「なっ!」

「普段の行ないのせいだ。受け入れろ」

「うぅ……ううぅ!!」

「すまんセシリア嬢。俺は無力だ」


 クロイスと行動を共にするだけあって、ボクは先生方にも優等生で通っていた。

 それこそ、周りからあの姉と双子だなんて信じられないとよく言われるほどにだ。


 つまり姉さんの素行はあまりよろしくなかったわけで……問題、とまではいかずも先生の頭を悩ますことはしていた。

 現在、そのツケがボクにまわってきたらしい。


「ボクじゃないのに……ボクのせいじゃ、ない……のに」

「何だその目は? 全く弟の方も何日も休んで、親御さんと話をしたほうがいいのかもな」

「……姉さんめ」

「ここは耐えてくれ。すまん」


 早々と書き終えたクロイスは待っていてくれたけど、ボクは書き終えるまでの間、先生の愚痴を長々と聞かされることになった。

 クロイスの目があるからか直接的なことは言われなかったけど……まとめると、淑女としての自覚を持て、だってさ。


 先生には悪いけど、ぜっぇぇぇぇぇたい! に、嫌。


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