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「お前は、勝手に居なくなるなよ?」

 

 無言のクロイスから感じる視線が痛い。

 そりゃ、向こうからしたら告白されたのに放置されるようなものだ。

 理由だって聞きたくなるよね。


「ごめん。ボクもよくわかっていないんだ」

「まさか、俺を試したわけじゃないだろうな!」

「きゃあ! ちょ、落ち着いて!」


 肩を掴まれ激しく揺らされるも、ボクはなんて言えば良いのだろう?


「お前があんな手紙を渡すから、俺だってな!」

「だ、だって! 本当にそうだなんて! 思っていなかったからっ!」


 そこまで伝えると彼もようやく揺らすのを止めてくれた。

 至近距離で見つめ合うなんて照れくさいけど、ここは照れている場合ではないとボクもクロイスもわかっていた。


「……この気持ちには、蓋をする予定だったのだがな」

「ごめん。けど、ボクは元に戻りたいんだ。クロイスも姉さんを探すのに協力してくれる?」

「そのお願いは、反則だろ……」


 未だに肩を掴まれたままなので動けないけど、頭は自由なのでクロイスに上目遣いでお願いをする。

 鏡の前でも試したことはあるけど、目に涙をため角度まで完璧に練習したこの仕草だ。クロイスにとっては酷なお願いだったかもしれない。




 結局その日はクロイスの家には行かず、ボクの家まで送ってもらった。

 歩きなので結構な距離を歩いたけど、その間ボクたちに会話はなかった。


「では、俺の方でも二人は探しておく」

「うん。よろしくね」

「じゃあな……それと」

「え?」


 クロイスが引き止めるなんて珍しいな? と思いつつ振り返ると、真っ直ぐな視線に射抜かれた。

 ……こんなの、ボクは知らないよ?


「お前は、勝手に居なくなるなよ?」

「それって……」


 返事するよりも早く、彼は背を向けて去っていく。

 その姿を見て思ったのは、護衛なしで大丈夫かな? なんて、どうでもいいことだった。




「そうやってハヤト様は現実逃避をなされたのですね」

「だって……!」


 帰宅早々サラさんに言われた。

 どうやらさっきの場面を見られていたらしい。


「というか、何でボクが思ったことがわかったの? 双子の姉さんじゃあるまいし」

「あの視線が、殿下の背中ではなくて周囲の物陰に向けられていたことなんてすぐに気づきます」

「ぐっ……! だからって、本当にそんなこと思っていたかなんて」

「違うのですか?」

「いや……その通り、だけど」


 フフン、とサラさんは得意顔だ。

 だって、あんなこと言われたらまるで……。


「まるで、ボクがクロイスから逃げるようじゃないか」

「なッ!」

「どうですか? 合ってましたか?」

「……怖いから、部屋に入ってこないで」

「そ、それは! すみませんもうハヤト様の心を邪推するのはやめます」


 まだ謝るサラさんを無理やり追い出し、部屋で一人になる。

 ボクってそんなにわかりやすいのかな?


 鏡の前で一人百面相を行うも、姉さんの顔が面白いくらい変形し、人には見せられないような顔を映すだけだ。


「私、クロイス様のことなんて……何とも思っていませんのよ。またお友達としてよろしくできますか?」


 鏡の前では上手く言える。

 ただ、これはボクの本心ではない。


「ボク、クロイスとは友達のままで居たいんだ。もし、元に戻れないようなことがあったら……その時は」

「ハヤ……ト、様?」

「あひゃぁ!!」


 聞こえた声に振り向くと、追い出したはずのサラさん……ではなく、姉さん付きのフローラさんが立っていた。

 ノックの音も聞き逃すくらい、ボクは集中していたらしい。


「えと、これはあの!」

「……ハヤト様。お食事の準備が整いましたので、食堂へお願いします」

「う、うん?」

「では、ごゆっくり……ハーちゃんもお年頃ですからね」


 すれ違いざま、メイドをしていた頃の呼び名が聞こえて振り返るも、フローラさんの表情は見えなかった。

 ……しかし、鏡から見えたフローラさんの顔は、慈愛に満ちていたような、いなかったような。


 それ以上は恥ずかしさもあり、そそくさと食堂へ向かった。




 姉さんがいなくなってから二人だけの食事にも慣れた。

 最初はメイドさんたちを同席させようともしたけど、皆揃って遠慮してこの状態だ。

 ……そういや、メイド仲間として働いている時に言われたっけ。旦那様と同じ食卓なんて恐れ多いと。


 後ろに控えてはいるけど、近くにくることはない。


「姉さんは見つかりそう?」

「いや、こちらも探して入るが、全く情報が入ってこないな」

「そっか」

「まあ家出にしては期間が長い。大方何処かの貴族の世話になっているのだろう」

「そうだと……いいけど」


 もし。

 万が一だけど、姉さんとリリアさんが心中でもしたら……ボクの身体は永遠に戻ってこない。

 さすがにそんな選択肢は取らないと思うけど、イブさんいわく『ありえる未来』というのだから油断はできない。


「発見したらすぐに教える。お前は何時も通り過ごせば良い」

「そんなこと言われても……」


 戻った時の姉さんが怖いので、それでも食事はきちんと摂取する。

 体型が少しでも変わったり肌が荒れていたら、あの手この手で戻りたくないって言われるだろうし。


 今は、時間が解決してくれるのを待つしかないのかな?




 満月の夜まで残り一週間をきった。

 だというのに、姉さんに関する情報は驚くほど入ってこない。

 学園を一週間も休んでいるというのに、周りも自然と受け入れている?


「……おかしい。何か、ボクの知らない場所で動いている気がする」

「何がだ?」

「うひゃあっ!!」


 すぐ耳元で聞こえた声に飛び上がる。

 クロイスはそんなことしないし、声の持ち主は彼よりもちょっと背が高い気がする。

 だって覆いかぶさる影を感じたんだもの。

 首筋にも息がかかるところをみるに、その人物は少し身体を曲げて覗き込んでいるらしい。


「全く! そんな失礼なことをする人物なんて……!」

「そんなに怒ってどうした? ようやく決闘する気にでもなったか?」

「今はそれどころじゃ……! そうだ。姉さんを知らないかな? 居ないことには決闘も何も」

「それならウチにいるぞ」

「ボクも本来の身体で全力を出したいから……今なんて?」


 どうやら、ボクもお世話になったことのある屋敷……その場所に姉さんはいるらしいけど。

 だとしたら何で、誰が探しても見つからなかったんだろ?

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