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「はっきり言うね? クロイスはボクのこと好きなの?」

 

 イブさんに叩きつけられたから、とはいっても彼女がなぜそんなことをするのかという疑問は残る。

 ……困るのはイブさんじゃないの?


「もし、万が一……ありえないことだけど、ボクとクロイスが結ばれてもイブさんはそれでいいの?」

「それについては半分あきらめているわ。貴方がどんな結論を出そうとも、私の想いは変わらない…………離れないわよ?」

「何か言った?」

「いえ。本気で渡すか冗談っぽく渡すかは任せるわ」


 彼女はヒラヒラと手を振りながら見送ってくれるけど、男子に囲まれているクロイスに近付くのは勇気がいる。

 去年はボクと仲良くしてくれた男子たちも、今は怯えたようにすぐ離れていっちゃうしなぁ……。


 その場に立ったまま見つめていると、どうやら男子の一人がボクに気づいたらしい。

 こちらを指さして何か話しているようだけど、やがてクロイスが一人でこっちにきてくれた。


「何か用ですか? セシリア嬢」

「え、ええ。あの、この手紙を受け取ってもらえませんか?」

「手紙? ハヤト、何のつもりで……」

「あとで! できれば人目のないところでお読みください」

「ん? ああ」

「それと…………本気に、ならないでくださいね?」

「それはどういった意味で……」


 任務はこなした。

 あとは彼がどう判断するかにかかっている。

 イブさんのほうをみると良い笑顔でサムズアップされたけど、本当にこれで良かったのだろうか。


 あ、場所を書くの忘れたけど……一緒に帰れば大丈夫かな?




 放課後が近付くと、クロイスは誰の目からみてもあきらかのようにソワソワしていた。

 何度か視線を感じるけど、ボクがそれに応えることはない。


 他の男子に茶化されている姿を見て、何でボクはあの場にいないんだろうなーと物思いに耽ったりした。

 あ、目線が合いそう。


「……何やってんだろ、ボク」


 目線はあくまでも合わせない。

 だって、勝負どころはもうすぐなんだから。




 ボクのほうから向かおうと思ったら、クロイスのほうから近づいてきた。

 ……気づいているのかな? さっきまでの態度から相手が誰かバレバレになっちゃっているけど。


 それをカモフラージュするためにも。


「イブさん。今日のご予定は?」

「え? 貴方……そ、そうね。とくにないわ」

「ちょうどよかったですわ。あら? クロイス様、何かご用でしょうか」

「あ、ああ。その、さっきの手紙の内容だが……」

「今日は三人で帰りましょう。ね?」


 まだ帰り支度をしているイブさんとクロイスの手を握り、早く早く、とせかすように引っ張る。

 そんな行動に慌てたのは二人ともだ。


「ちょ、そんな引っ張らないで。それに私は女子寮よ!」

「そのまま彼の家にお邪魔しましょう」

「か、勝手に決めるな! それに手を……て、彼女も呼ぶのか?」

「何か不都合でも?」

「あ、いや……」


 何照れているんだろ。

 まさか、本当にイブさんの言った通りなのかな?


 イヤイヤする二人の手を放し、準備の終えたイブさんと共にクロイスを待つ。

 ……数人に茶化されて、楽しそうだな。


「どうしたのよ?」

「ううん。何でもない」


 ボクも向こうに混ざって楽しめれば、というのは、姉さんの身体の認識を変えてからじゃないと叶いそうもない。

 そして、そんなボクの視線を勘違いしたような向こうは、勝手に盛り上がっていた。


「……またせたな」

「うん。じゃ、行こ?」


 先行するボクに、二人は少し遅れて付いてくる。


「その、宙に伸ばした手はもしかして」

「何でもない、忘れてくれ」


 ……何か聞こえたけど、聞かなかったことにした。




 クロイスの家へ向かう帰り道、当然のように彼女から疑問が出る。


「で? 私がいる必要はあったのかしら」

「そうだね。せっかくだからここで言おうか」

「なっ、こんな道の真ん中でか! お、俺にも準備ってものが」

「……やっぱり、そうなんだね」


 ここまで来るとボクにもわかる。

 この反応、ボクにイブさんが好きだって語ってくれた時とよく似ている。

 ……素直に喜べないな。


「ハ、ハヤト? それはどういった……」

「はっきり言うね? クロイスはボクのこと好きなの?」

「それは……」


 口調が強めだったのかもしれない。

 ただ、ボクと向かい合ったクロイスも、こちらが本気だと気づいてくれたらしい。


 お互い、歩みを止めて向かい合う。


「……認めよう。俺はハヤト、お前に惹かれている」

「やっぱり、そうなんだね」


 予想していただけに、驚きは少なかった。


「重ねて聞くけど、クロイスが好きなのはボク自身? それとも姉さんの身体なの?」

「それは! ……すまんな。俺にもよくわからないんだ。男だったハヤトにこんな感情を抱いたことはなかった。しかし、今のお前は仕草が愛おしく思えて、気づけば心が惹かれていた」

「……じゃあ、クロイスはボクが戻るのに反対なの?」


 今までいろんな人に聞いてきた。

 もしこれで、クロイスが戻って欲しいというなら問題はなかっただろう。


「……ああ、そのままのハヤトでいてほしい」


 戻って欲しいというなら。

 しかし、姉さんの身体でいてほしいと言われてしまった。

 理由は、好いている相手だから。


「そっか。でもクロイスの感情は、ボクが姉さんの身体にいるからなんだね」

「ああ。でも今のハヤトが男に戻ったら……いや、しかしそれはないと思いたいが、俺にもよくわかっていないので」

「うん。ということで、どうかな?」


 少し離れた場所に居たイブさんにふってみる。

 クロイスは完全に存在を忘れていたようで、風切り音が聞こえるほどの勢いで振り返っていた。


「これで満足?」

「ええ。あとは貴方の選択次第よ?」

「お、おい? それはどういった意味だ」


 彼女は答えず、静かに去っていく。

 残されたのはボクら二人だけど、クロイスの無言の問いかけが辛い。

 ……え、この状態で放置されるの?


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