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「クロイスの心? それってどういう意味かな」

 

 姉さんの行動は予想通りと言えばそうだけど、やっぱりかという失望のほうが大きかった。


「どうする? 諦めて次の機会まで待つか?」

「それでも良いけど、姉さんがもう戻ってこなかったらどうしよう」

「ありえない、とは言えないな。とはいえセシリアも馬鹿ではない。連絡の取れる場所にはいるだろう」


 聞くと、既にリリアさんの家が使いをいくつかの場所に出して捜索しているそうだ。

 フォーハウト家にとっては、一人娘も一緒なので一大事なのだろう。


「学園も休みというが、くれぐれも思いつめて行方不明に、といったことにはなるなよ。こちらでも手は打つ」

「うん、ありがと。ところでさ」


 今までの行動から。

 そして、今回姉さんを探すのに協力してくれる姿勢から。

 気になるのは、その理由だ。


「父さんはボクが戻ることに賛成なの?」

「双方が納得できたというなら何も言わないさ。ただ、セシリアが戻りたくないという内は反対だな」

「……やっぱり、父さんは姉さんに甘いんだね」

「娘が可愛いのは当たり前だろう」

「それって、今のボクにも適応される?」

「……………………」


 珍しく反応がなかった。

 ……無言の肯定って受け取って良いんだよね?


「そっか。最近やけに協力的だと思ったら……」

「あとはこちらでやっておく。だから一人で探しに行こうとするな」

「はいはい」


 ボクが姉さんであるうちは父さんも味方……らしい。

 なんだかそう思ったら、何もやる気が起きないや。




 姉さんの身体だけど、休み中にやることは普段と変わらない。

 いつものようにお庭へいって……行くのは我慢し、部屋で道具の手入れと積み上げていた本を読み。

 トレーニングしようと動こうとして……動くのはやめ、ベッドで横になりごろごろと時間を潰す。


 その様子を途中から見ていたサラさんは、いつかと同じように果物を持ってきてくれた。


「随分と慣れたことだと思いましたが、まだお辛いようですね」

「……うん。慣れたくないなー」


 ボクは今、あの日を絶賛体験中でもある。

 これがあるから早く戻りたかったのに、姉さんってば。


「サラさんはこんな痛みに襲われても普段通りですごいね。いつそのタイミングか全くわからないや。それともまさか――」

「……いっそのこと、そのままのハヤト様で居てくださいな」

「ごめん! 冗談だって」


 詳しく聞くと、ただ軽いだけで何度も経験すると自然と慣れるものらしい。

 そうだよね。身体の一部がアレでもサラさんが男性ってことはさすがにないよね。


「サラさんは、ボクが戻るのに賛成?」

「このタイミングで聞きます?」

「あっ、気になったから。ね」

「……そうですね。今のハヤト様も可愛いのですが、やはり男性らしく振る舞おうとして可愛く見えるハヤト様のほうがお可愛いです」

「え、それって」


 前回元に戻ったボクって、そんな風に振る舞っていたってこと?

 そういや、元に戻ったとカミングアウトしてからも、皆から疑うような目で見られていたけど、それってそういう?


「なのでたまにこのように入れ替わって頂いて、時々女性の仕草を見せるようになったハヤト様こそが至高の存在だと――」

「待って待って!」

「? 何か」


 さも当然のように語って、首を傾げるサラさんだけど……もしかして要注意人物だった?


「つまり、賛成ってことで良いのだよね?」

「今は賛成、といったところでしょうか」


 ……それ以上は聞くのが怖くて、ボクは寝たフリをして過ごした。

 そうしているうちに痛みも引いたし、結果としてはそれでよかったのかな?




「ということで、姉さんとリリアさんは行方をくらましたみたい」

「あらら。貴方はどうするの?」

「探してもいいけど、父さんに任せてみようかな」


 いつものようにイブさんへと相談し、今後の対応を話し合う。

 今日は二人だけだ。


 ボクに戻って欲しいなら本気で探すし、そうでないなら見つからなかったといってボクを諦めさすだろう。

 姉さんを説得さえすれば戻って良いと言われたけど、クロイスのことはもう良いのかな?


「貴方は戻りたくないの?」

「そういうわけじゃないけど……父さんのことを信じてみたい、と思ったからね」

「そうね。クロイス様の心を手に入れたからには、貴方のお父様も本気になるでしょうね」


 ……うん?

 ボクは離れた場所にいるクロイスを見ながら考えるも、結局答えはわからなかった。


「クロイスの心? それってどういう意味かな」

「まさか本気で気づいていないのかしら? 彼の心は貴方に奪われているわよ」

「それってクロイスがボクに恋しているってこと? いくらクロイスだからって、男同士なのにそれは……」

「今の貴方はセシリアよ? それとも、本気で思い当たることがないとでも言うのかしら」


 指摘され、数々の出来事が蘇る。

 ……思えば、クロイスの行動もちょっとおかしかったかな。

 具体的には、ボクに対する態度ではなくて、他人に対するよそよそしさを感じたような気がする。


「で、でもそれとこれとは……」

「はぁ。なら仕方ないわね。ちょっと待っていなさい」


 そう言ってイブさんは紙にさらさらと何かを記入する。

 そしてそれをクイッと差し出してきた。


「これを彼に渡してきなさい。面白い反応が見えるわよ」

「何々……『今夜月が綺麗な夜に、貴方に伝えたいことがあります。親友としての関係を変えてみませんか?』て、え?」


 確かイブさんにだけ言って欲しいと言われた告白の言葉に、親友の関係を変えろって。

 つまり彼女にしてほしいってことだよね。


「もし彼がその気じゃないなら、冗談で済むはずよ」

「もしその気だったら?」

「自信がないのかしら? その場合は晴れて恋人同士ね」


 それは姉さんとクロイスが、だよね?

 ボクが元に戻って、男同士でも恋人同士ってことはないよね?


 そんな疑問は、怖くて口に出せなかった。

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