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「はぁ……これじゃボクが悪役だね」

 

 したり顔の姉さんとは反して、リリアさんは申し訳なさそうにしている。

 でも、ボクからすると彼女もまた同罪だ。


「お二人はもう、そんな関係だったんだね」

「お姉様! ご、誤解ですわ」

「そう? 僕は真面目だったのだけど」

「姉さんは黙ってて」


 リリアさんは身じろぎをして腕の中から逃げようとするけど、姉さんが放そうとしない。

 彼女も本気で嫌がれば脱出できるはずだけどそうしないってことは……満更でもないのだろう。


「リリアさん。誤解ってどういうこと?」

「それは、その……お揃いの寝間着をということで、着るタイミングも合わせようとしただけですわ」

「何のために? 抱きつく必要はないよね?」

「そ、そうですけど……」


 チラチラと目線を姉さんの顔にやりながら、彼女は言い淀んでいる。

 おそらくは姉さんの助けを待って、だと思うけど。


「ボクは貴方に問いている。抱きつく必要はない、よね?」

「は、はい……その通り、ですわ」

「姉さんと同じ部屋で一晩過ごすと、伯爵も認めているんだよね?」

「……お父様も、公認ですわ」

「改めて確認するけど、ボクがハヤトでそっちは姉さんだ。それもわかっているんだよね」

「…………はい」

「さっきから黙って聞いていれば、アンタ何が言いたいの?」


 一方的に問い詰められるリリアさんを見かねてか、ようやく姉さんが介入してきた。

 何だ、意外と(・・・)遅かったじゃない。


 丁度良い。言質は取ったので、彼女は既に用済み(・・・)だ。


「姉さんは、リリアさんと婚約するの?」

「婚約者だから当たり前じゃない」

「へー、いつの間にフリじゃなくなったのかな?」

「それは、その……」


 うん。

 客観的に見ていると、ボクの身体でモジモジとされるのは非常に気持ち悪い。


「うわぁ……」

「何よ、文句でもあるわけ?」

「とりあえず服、着なよ」


 そこでようやく、二人も下着姿のままだと気づいたらしい。

 ……姉さんは何で、ボクの身体でブラもつけていたのかな?




 着替え終わった二人は、何も言っていないのに揃って床で正座をした。

 リリアさんはわかるけど、姉さんまで正座するなんて珍しい。


「お願い。この身体のままで居させてくれないかしら?」

「なんで?」

「だって……同性だと、リリアと結婚できないじゃない」

「嫌」

「お姉様……」


 好きな人が出来たからって人の身体を持ち逃げ?

 いくら姉さんでも、それは許せない。


「何よ、アンタもその身体で楽しんでいたじゃないの!」

「どこが? 振り回されっぱなしだったけど」


 主に父さんとメイドさんに。

 ついでに言えば、姉さんがやらかした案件の尻拭いもあったな。


「だって、クロイス様ともいい感じになって……私にはあんなに楽しそうに笑ってくれたことなんてなかったわ」

「それは姉さんが攻めすぎなんだよ」


 散々クロイスの愚痴を聞いたからわかる。

 彼が姉さんを避けていたのは、照れくささもあったはずだ。

 性格以外は好みって話も聞いたことがあったっけ。


 ま、全ては姉さんの自業自得だろう。全く、三人で行動する時点で気づいてくれたらよかったのに。


「ハヤトのフリをして近づいても駄目だったわ。クロイス様は何処かで疑っていたのね。壁を感じることが多々あったわ」

「それ被害もうそ――」

「でも、リリアは違った」

「「え?」」


 突然の登場に、彼女もボクも困惑するしかない。

 二人は正座のまま見つめ合い、今にも顔と顔がくっつきそうだ。

 というか、いきなり二人の空間を作らないでくれるかな?


「最初は体の良い駒だと思っていたけど、些細なことにでも一々反応を返してくれる姿は、騙すのが申し訳なくなるほど惹かれたわ。同じ女性としても、こんな娘がいるの? と嫉妬してしまったくらい」

「そんな事を……思っておられたのですか」

「フフ。いつもなら周りにお願い(・・・)して痛い目を見てもらうのだけど、何故かしら。リリアは愛おしく感じたわ」


 それは。

 何処かで、ボクの身体の本能が残っていたのだろう。

 関わりはなかったけど、リリアさんの姿は何度か見たことはあった。

 そのとき、自然と心が惹かれていたのを覚えていたのだろう。


 それが、リリアさんを身近に感じることによって、姉さんにも影響を及ぼした可能性がある。


「彼女に入れ替わりのことを打ち明けるのは、拒絶されるのが怖くて勇気が必要だったけど……あの時は良いタイミングだったと思うわ」

「もしかして、あの時わざと教室を間違えて――」

「ウフフ、踏み出すための一歩をありがとね?」


 結果として、姉さんは受け入れられた……らしい。

 リリアさんの反応を見れば、聞かなくてもわかる。


「その、お姉様も憧れの方ですが、彼のほうは……」

「いつか、私もガイアルと勝負して勝ちたいところね」

「私のためにそこまで……」

「はいはい。そういうのいいから」


 パンパン、と手を叩き桃色空間を強制終了させる。

 つまりだ。


「姉さんは元に戻る気はないんだよね?」

「ええ。リリアと一緒になるためなら、お父様にだって反抗するわ」

「嬉しいですっ!」

「はぁ……これじゃボクが悪役だね」


 さながら、両思いの二人を引き裂く悪役令嬢だろうか。

 けどあれ? 確かイブさんにもそんなことを言われた気が。


「一つ約束して? あとひと月は清い身体でいることを」

「そのことに何の意味があるのかしら? もう霊草はないのだからこのままよね?」

「うん、そうだね。姉さんがそう思うなら、そうなんじゃない?」

「……まさかっ!」


 もうバラしているようなものだけど、ボクにも譲れないものはある。


「もし約束を破ったら……それこそボクの全てを使って取り返すよ? そして全て奪ってみせる」

「ア、アンタにそんなこと……」

「出来るか出来ないか、試してもいいよ?」


 返事は聞かない。

 それだけを姉さんに伝え、ボクは部屋へと戻る。

 扉の前にいたサラさんには一瞥するだけに留めた。


「……寝ようと思ったけど、サラさんも一緒だっけ」


 かくして、ボクの部屋の前でオロオロとしているサラさんも回収し、珍しく会話もないままに眠りへとついた。


 これは、姉さんへの宣戦布告だったけども。

 去り際に聞こえた「ハヤトも……人のこと言えないじゃないの」という姉さんの呟きが、やけに頭から離れなかった。

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