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「え、お止めください! もし最中だったら!」



ここにはクロイスもイブさんもいない。

つまり、敵陣にボク一人だけだ。


「……こっちの真紅のドレスも、気の強いセシリア様には似合うかと」

「いいね。でも今の姉さんには、やっぱり紺色のドレスが似合いそうだよ」

「いえいえ、やはりこの純白の……」


せめてもの救いは、控えているメイドさんは大人しいことだ。

リリアさんや姉さんに指図されるまま衣装を取りに行き、また必要になりそうな衣装を用意して待機している。

……姉さんの命令にもテキパキと従っているのは何でだろう。


サラさんだけは部外者ということで自重しているのか、意見を言うだけで着せさせようとはしてこない。


「ね? どっちが似合うと思う?」

「やはりこちらですよね!」

「……どっちも却下かなぁ」


現実逃避しても、目の前の現実からは逃げられそうもない。

もう、どうにでもなーれ。






「じゃ、そろそろ終わりにしましょうか」

「ええ。ご協力ありがとうございましたわ!」

「記録に残せないのが悔やまれるわね」


各々が感想を述べる中、ようやく解放されたボクは早々と部屋へ戻る。

もちろん、この部屋にいたメイドの一人を捕まえて案内させた。


「……彼女も八つ当たりされてかわいそうに」

「サラさん、何かいいまして?」

「いえ、何でもございません」


サラさんいわく、今のボクは冷凍イカのような目をしているらしい。

姉さんにやられたときは死んだ魚の目だと思ったけど、さすが料理もするメイド視点だと食材のこだわりを感じる。


少し気になったことがあったので、案内してくれたメイドさんの肩を掴んで振り向かせる。

何も言わずに見つめていると、その娘は可哀想にガタガタと震えだしてしまった。


「あの、お嬢様? セシリア様のキツめな顔で、無言の圧力をかけられると……誰しもそうなってしまいます」

「…………(クルッ)」

「ごめんなさいお止めください」


おかしいな、ボクはただサラさんの顔を見ただけなのに、どうしてそんなに怯えるんだろう。


「えと……そうですね。貴方、弟様のお部屋もこの近くなのですか? 二人は姉弟なので、近場のほうが良いと」

「ガクガク」


メイドさんは頭を上下に激しく動かしながら、すぐ近くの扉を指さしてくれた。

おそらくそこが姉さんの泊まる部屋なのだろう。


「さすがにリリア様のお部屋とは離れていますね」

「えと……実は」

「…………(ニコッ)」

「ヒィッ! おおお、お嬢様もこのお部屋に泊まっていますわ!」

「……何、ですって?」


ボクの言葉はサラさんが代弁してくれた。

え、男女が一緒の部屋で? しかも親公認?


「そそそ、その! セシリア様のお部屋はお隣になりますので! では!」

「あっ、ちょ……逃げ足早いですね、あのメイド」

「相談だけども、サラさん部屋代わってくれないかな?」

「あの部屋を出てからの第一声がそれですか」


冷静に考えてみた。

隣の部屋ってことは音や声が聞こえてもおかしくないよね?

あの姉さんのことだ。ボクが戻りたいとは思えなくなるほどの嫌がらせを仕掛けてくるに違いない。


そして、最悪なパターン。そしてそうなってもおかしくないような状況が目の前に提示されている。

まさかそこまで……というのをやってくるのが姉さんだ。

ボクの身体でそんなことはしないと思うけど、親公認となると?


「残念ですが、私の部屋はないようですね。つまりお嬢様と同室になります」

「この際だからそれでもいいや。なるべく壁から離れて寝よう」


用意された部屋は、これでもかというくらい、隣の部屋側の壁へピタリと寄せられていた。

一応ダブルベットではあるけど、普通置き場と向きが違うよね?


「どうしてでしょうか。ここまで来ると私でも陰謀を感じてしまいますね」

「こんなでかいの、動かせな――サラさんならいける?」

「私は一介のメイドですよ? 期待されても困ります」


彼女は下手したらボクの男の身体より力がありそうだ。

でも、本人ができないというなら無理強いはしない。


「じゃあ、サラさんが壁側で」

「…………それは、どうしてもでしょうか? どう考えても私は巻き込まれただけなので、使用人風情は床で寝させていただけ――」

「お願い、サラお姉ちゃん」

「仕方ないですね。お姉ちゃんが壁側で我慢してあげます」


この際だから添い寝も我慢だ。

いざとなったら壁にできるし、逃げようとしても逃さない。

ベッドに座りながら他愛もない話を続けていると、壁の向こうから物音が聞こえてきた。

微かだが、話し声も聞こえるようだ。


「お、お嬢様? やっぱり私は床で」

「ははは。まさか姉さんでもそんなことはしないでしょう」

「どうして棒読みなのですか? むしろここまで壁が薄いとは、フォーハウト家の屋敷はどんな欠陥屋敷なのでしょう」


この薄さは、手持ちナイフが柄まで貫通するレベルかもしれない。

もしこれが本当に姉さんの嫌がらせだとしたら、こっちも先手必勝だ。

今から(・・・)だというなら、まだ間に合う。


「乗り込むよ」

「え、お止めください! もし最中だったら!」

「まだ部屋に入って数分だよ。止めるなら今しかない」


予想では先程のお着替え(一人限定)の感想でも言い合っている頃だろう。

姉さんたちもまだ寝るには早いはずだ。

それに、リリアさんも一緒だというならちょうどいい。


「ならサラさんはここにいて。ボクだけで行ってくる」

「お、お待ち下さい! その先はっ!」


手を伸ばされたしたけど、サラさんが動く気配はない。

ボクはそのまま、ノックもせずに姉さんのいる部屋に乗り込んだ。


「二人とも、今から何をする気なの…………さ?」

「キャッ! お、お姉さま! せめてノックをしてくださいませ」

「あら姉さんじゃないか。今は取り込み中だから後にしてくれるかな?」


ボクが立ち会った現場は、姉さんとリリアさんがお互いのメイド服を脱がさしているところだった。

そしてお互いが下着姿まで脱ぎ捨てた頃、二人はどちらからともなく抱き合った。ボクが見ている前で。


「本当、何やっているのさ?」


フフン、と勝ち誇ったような元ボクの顔に、思わず殺意が芽生えたくらいだ。

……ここまで来たら、もう我慢しなくていいよね?

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